第52話:人間に嫌われ過ぎて辛いPART5

「魔王様! 人間共です!」


 エリーが朝っぱらから部屋に慌てて飛び込んでくる。

 人間共? ついに、最終決戦か?

 もはや、殆どの人間に恐怖を植え付け、魔国自体約10万人の人間の兵士を有しているからな。

 流石に、これ以上魔国に好き勝手されると人間の希望が完全に消えてしまう訳だし。

 タイミングとしては、まあ無難なとこだな。


「分かった迎え討とう……で、敵戦力は?」

「はい! 100人程度の白い騎士と後は女性と子供ばかり約3万人です!」


 はい?

 女性と子供だけで3万人?

 いくら戦力が集まらないからって、それは無いだろう。


「ん? 女と子供ばかり?」

「はい! とにかく魔王様を出せと城門の外で叫んでおります」


 エリーの言ってる意味が良く分からないが、取りあえず現場に行ってみるか。

 俺は転移で、城門の上に移動する。

 下に目をやると、憔悴しきった女性や子供達が群衆となって押し寄せている。

 んー、シュールな光景だな。

 まともに武装すらしてないじゃないか……

 そう思っていると、こちらに気付いた奴等が口々に叫び出す。


「来たぞ! 魔王だ!」

「この腐れ鬼畜童貞やろー! 亭主を返してもらおうか!」

「パパを返してよー!」

「お兄ちゃんを返してー!」

「うちの娘達はどうしてるんだい? 事と次第によっては責任を取ってもらうからね!」

「この悪魔! けだもの! 魔王!」


 口々に、様々な事を言われる。

 ああ、俺んとこに来た連中の家族か。

 所々に白騎士が居て、民衆を煽っている。


 ここでも聖教会か!

 お前ら、本当にあの手この手でやってくるな……


「聞いたか魔王! 非道な事は止めて、俺達の仲間を返せ!」

「そうだそうだ!」


 お前ら、仲間でもなんでもないだろう?

 なんだよ、人間みな兄弟とでも言いたいのか?


「黙れ!」


 俺が威圧を込めて一喝すると、辺りが静まりかえ……らない!


「うるさい童貞の癖に!娘を返して!」

「ママ、童貞ってなに?」

「坊やは知らなくてもいいのよ」

「よく分かんないけど、魔王は童貞なんだね! やーい童貞! 童貞!」

「さっさと、旦那を返しとくれよ! 貯蓄が底を尽きそうなんだよ!」

「そうだよ! 国からの補償金じゃ全然足んないんだから!」

「何が、俺と一緒になったらお金に困らせないだよ! 一人でとっととこんなとこに逃げ込んでこのバカ亭主が! あんたはどうでも良いから、金だけでも送りなさいよ」

「私なんてまだ、結婚して3日か経ってなかったのに……せめて、離婚届だけでも書かせなさいよ!」


 えっと、旦那を返してほしいのか? 金が欲しいのか? どっちなんだ?

 あと、最後の奴見限るの早すぎるだろ!

 新婚なら、もっと亭主を心配しろこの野郎!

 俺の言葉に一瞬ビクッとなった白騎士共がニヤニヤしている。

 神に仕える聖騎士の癖に、性格良いなおい!


「おい魔王! お前が女神様を連れ去ったのは知っているぞ!」

「女神様まで連れてったのかい? ろくでなしだねあんた!」

「そんな! いくら童貞だからって、いきなり女神様は高望みし過ぎでしょ」

「そこらへんのオークにでも盛ってろ!」


 奥様方口が悪過ぎやしませんかね?

 だんだんムカついてきた……

 と言っても、女子供に手をあげる訳にいかないしなー……

 ここは男共に説得してもらうか。


「お主らの言い分は分かった、今から人間の兵士達を解放するから良く話し合え」


 そう言って一旦人間の住む区画に移動すると、全ての人間にメッセージを送る。


「お前らの家族が迎えに来ているから、よく話し合え!」


 周囲の建物や、家から皆が集まってくる。

 城内の人間区には3000人くらい住んでたかな?

 後は、新しく作った3カ所の人間の街に3万人ずつ、国境警備に5000人くらい居たよな。

 取りあえず、すぐ集められるのは3000人か……


「えー、かーちゃん来たのー? 別に俺帰る気ないんだけど」

「お袋かー、会うだけならいいけどこっちのが断然住み心地良いしな……お袋もこっちに住んだらいいのにな親父」

「いや、あいつ別に飯作る以外何もしないし、飯もこっちの店で食った方が美味しいしな……」

「子供だけで良いんだけど……嫁は別に……居ても居なくてもねー……」

「マイスイートハニーが来てくれたのかい? でも、俺にはもう新しい彼女が……」

「私は、ここの生活満足してまーすて伝えてもらえませんか?」

「せっかく、嫁から逃げられたのに……気が付いたら同じベッドで目覚めて次の日に出来たとか言って、無理やり結婚させられて、三日後にここに呼ばれて魔王様のところに逃げ込めたのに……」

「あの、魔王様……申し訳ないのですが戻る気は無いので、こっちで暮らすなら会うと伝えて貰えませんか?」


 えっ? 誰が? ミーが?

 無理無理無理! あんなに殺気立ったおばさま方相手に、俺一人じゃどうにも出来ないって!

 お前らつべこべ言って無いで逝って来い!

 というか結婚3日の旦那ここに居たけど、なんか先の嫁の発言からも分かるがとんでも無い女に捕まってんなー……頑張って逃げろよ。

 あと、屑が一人居るみたいだけど、不倫が文化なんて言わせねーからお前もとっとと説得して来い!

 俺が、魔法で全員を城門の外に送り出す。

 転移の光が包み込んだ瞬間に、辺りを阿鼻叫喚が包み込んだ気がしたがシラネ。


「あんた! 半年も会わない間に、なんでこんなにブクブク太ってんのよ! どんだけ贅沢してたの!」

「見つけた……結婚して3日で居なくなるなんて許せないわね……離婚届けに印鑑押して慰謝料金貨1000枚寄越しなさいよ!」

「あっ、ママ! パパから知らない女の人の匂いがする……」

「あんた……どういう事?」

「会いたかったー! もう! 心配したんだからね!」

「マイケル! やっと会えた……って、なんでジョージも一緒に居るの?」

「私の旦那はどこよ! 借金残して消えてった私の旦那は!」

「私の元旦も居ない! 養育費どんだけ溜まってるか分かってるよね? 隠れてないで出てきなさい!」


 なんだろう?

 全然感動のご対面でもなんでもない。

 これには白騎士の皆さんも、苦笑してるな。

 取り合えず、こいつらは拘束させてもらうか。

 俺は魔法で白騎士だけ、城内の訓練場に飛ばす。


『おい絶倫、スッピン、蛇吉! 新たな住民候補だ! 丁寧にこの国のルールを教えて差し上げろ』

『御意に』


 それからテレパシーでメッセージを飛ばすと、絶倫から返事が返ってくる。

 抵抗する間もなく送ってやったから、今頃あっちで絶望に包まれているだろう。


 さてと、問題は目の前のこいつらだが……


「ごめんよかーちゃん!」

「会いたかったよ、マイスイートハニー! でも残念ながら俺にはこっちで心に決めた人が」

「うるさいわね! 私が貸した金貨3枚さっさと返しなさいよ! 別れるのはそれからでしょ!」

「ちょっと、賠償金ってなんだよ! 俺は国の命令で」

「国と私どっちが大事なの?」

「えっ? ジェシー……どういう事?」

「マイケルとも付き合ってたのか?」

「ジョージうっさい! あんたなんか遊びなのよ! マイケル安心して本命は貴方だから」

「本命とかっていうか、浮気とかありえないんですけどー!」

「パパ会いたかった!」

「えっ? 俺の娘? どう見ても4歳だよね? 俺居なくなったの半年だよね?」

「何か問題でもあるの? エリカちゃん、新しいパパ見つかって良かったわねー」


 なんだろう……たまたまだろうけど、クズばっかが集まってる気がする。

 うん、たぶんちょっと興味を惹かれるから耳に残っただけで、ちゃんと感動の再会をしてる夫婦や家族も居る訳で……


「くっそ魔王! 私の亭主をどこにやったのよ!」

「うちの娘はどこに居るの? 亭主なんかどうなっても良いから娘だけでも返しなさい!」


 あっ、あの人絶対ラダ娘の母親だ。

 めっちゃ顔がそっくり……絶対会わせられないやつだわ……


「他の人間共は、別の町に居るから尋ねるが良い! 領内の魔物達には襲わないように通達を出しておくから」


 俺はそう言って、地図を大量にバラまいて転移で逃げ帰る。

 ちなみに地図は領土の外に持ち出したらすぐに、仮に領内でも三日で内容が消えるようにしておいた。

 一応、聖教会への情報漏えいを警戒しての処置だ。

 まあ、別に地図くらいくれてやっても良いが、面倒くさい事になりそうだしな。


「あっ! 魔王様俺も連れてって!」

「こんな所に置いてかないでー!」

「ちょっ! 童貞待てコラー! 話は終わってないぞ!」

「ちょっと、私達を送り届けてから消えなさいよ」


 去り際になんか、ざわざわしてたが知ったこっちゃない。

 エリ―! 皆が童貞って馬鹿にするよー!

 城内に戻るや否や、エリーに飛びついて甘える。


「あらあら、よっぽど怖い目に合われたのですね」

「人間の女怖い……人間の女怖い……」


 若干のトラウマになりそうだ。


「俺は絶対に結婚はしないと決めた」

「まあまあ、でも魔王様ならそれもよろしいかと」


 エリーの腰の辺りに抱き着いて喚くと、優しく頭を撫でてくれる。

 きっと、あの夫婦達にもこんな時期があったんだろうな。

 結婚って怖い……


 それから暫くして、魔王城の人間がめっちゃ増えた。

 女子供が18万人移住を決めたのだ。

 暫くは洗脳が抜けていないため、町で会うと石を投げつけられたり、罵詈雑言を浴びせかけられたりしたが、暫くするとそれも無くなった。

 聖教会許すまじ。



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