第50話:日本人達が我儘で辛い
「田中! 来てやったぞ! 勝負だ!」
現在朝6時……健全な魔王はまだ寝ている時間だ。
ここまで誰にも止められずに来るとはやるな、マイ……
「ふわぁぁ……んだよ、こんな朝早くに」
俺が扉を開けると、いつもの5人組+1女神が扉の前に立っている。
「今日は、女神様がついてるんだ! 今日こそ勝てるに決まってる」
「朝から煩いな……こっちは起きたばっかなんだよ」
「ふっ、相手の不意を突くことでさらに勝率アップやぶへらっ!」
比嘉が何か言い出したので、お言葉通り不意打ちでヤツをフッ飛ばして勝率を上げておいた。
まあ、こんな事しなくても勝てるけどさ。
「とりあえず、ここじゃなんだから移動するぞ」
俺が転移を発動させようとすると、マイが慌てて止める。
「ちょっと待って! それなら湖のあるところが良い」
なんじゃそりゃ。
まあいいわ、魔国領にある湖のほとりに全員を転移させる。
「私女神なのに……抵抗出来ない……だと?」
北条さんが何か言ってるが、いつもの事だ。
俺の転移から逃れられる奴なんか居ない……なぜだろう?
まあ、これもどうでもいいか。
「すごーい! 朝霧が綺麗ですね」
「そやなーユウちゃん……でもユウちゃんの方がもっと綺麗やでー」
「ショウ、タカシ! あっちに行ってみよう」
「あっ、皆待ってよ! 先にタナカを倒さないと」
「魔王と勇者が和気あいあいと……」
5人がてんでバラバラの事を言い出す。
比嘉……この短時間で回復するとはだいぶタフになったじゃねーか。
比嘉の成長に人知れず涙が出る。
きっと、いろんな奴にボコられて防御力と回復力が上がってんだろーな。
主に田中の仕業である。
「ちなみに、そこの比嘉は元東の魔王だよ?」
「何それ? 私聞いてませんが?」
言ってねーのかよ!
そこ一番重要……でもないか比嘉だし。
「アニキ、今何か失礼な事考えてませんでしたか?」
比嘉が何か言っているが、失礼な事だとは思っていないので勘違いだろう。
とうとう、コイツまで俺の考えている事が分かるようになったのか……
「もういいや! 香住さん援護宜しく!」
「えっ? あっ! はいって、マイさんいっつもご飯御馳走になってるのに……」
「それはそれ、これはこれ! さあ、比嘉! 囮になってやられて来い!」
そう言って、マイが比嘉をこっちに投げ飛ばす。
「それ言ったら、囮ちゃうやーん……ぶへらっ! ありがとうございますっ!」
触るのも嫌な顔してたので、衝撃波で比嘉を弾き飛ばす。
なっ! マイが居ないだと?
弾き飛ばした比嘉の後ろに居たはずのマイが消えている。
「後ろか!」
俺がそう言って、背後に魔法障壁を張るが何も攻撃が来ない。
「田中さん……マイさんならあそこ……」
北条さんが指を指した先で、マイが比嘉の下敷きになっている。
巻き添え喰らったのか……
「あれ? なんか柔らかいもんが」
なんてテンプレなラッキースケベ……
比嘉の手が丁度マイの胸の位置に……なんか若干イラッとするな……
「キ……キャァァァァァ!」
マイが大声で叫ぶと、本気で比嘉を殴り飛ばす。
「いったー! なんでや! 物理耐性仕事せーや!」
比嘉が頬っぺたを押さえながら蹲る。
「比嘉さん……そんな人だったなんて……」
「マイさんおいで! 可哀想に……」
「酷いです! やっぱり魔王は最悪です」
「比嘉さん……僕は分かってますよ……わざとだって!」
他のメンバーから非難轟轟だ。
何気にショウが結構酷い事を言ってる気がする。
もう少し、大人で落ち着いた感じの優しさのある子だったはずだが……
「なんでや! ちがっ! 不可抗力や! てかわいは悪うないやろ! アニキが……」
「あっ?」
俺が最大限の威圧を込めて睨むと、比嘉が縮こまる。
いま、マイが密かにほくそ笑んだ気が……
「誰にも触られた事無かったのに……! 賠償金覚悟しておいてくださいね!」
「なんでやぁぁぁぁぁ!」
湖に比嘉の悲痛な叫びがこだまする……
おいっ! マイ! 堂々と嘘を吐くな! といっても、これで過去の件は有耶無耶になるかもしれないから、あえて黙っておこう。
「という事で、負けたので後は遊びましょう!」
そう言ってマイが服を脱ぐ!
おいっ! って水着か……でしょうね。
「今何か期待した?」
「するか! だって、向こうですでに3人が水着で遊んでんじゃねーか!」
ここに着いてすぐタカシが水着に着替え湖に飛び込み、ユウちゃんとショウがそれに続いて楽しそうに水遊びをしていたからだ。
「もう! 少しくらい待てないのかしらあの子達は! 本当にお子ちゃまね」
お前に言われたくは無いだろう。
それで、湖をリクエストしたのか……最近暑かったからな……
でも……自分達だけで行ってくれないか?
「はあ、しょうがない……じゃあ、3時間くらいしたら迎えに……ナニ?」
仕方が無いのでこいつらだけ置いて帰ろうかとしたら、腕を北条さんに掴まれる。
それからウルウルした目でこっちを見上げてくる。
もしかして、一緒に居たいってか? まいったなコリャ! モテる男は辛いなー。
「ムッ! 鼻の下を伸ばすんじゃない!」
「いって!」
マイに向う脛を、思いっきり蹴られた……
あれ? なんで痛いんだろう……俺の鉄壁の防御を貫いたのか?
まあ、いいや……いや、あんま良くないか?
「あの……田中さん水着を作ってくれませんか? 水に浮いて溺れないような……」
ですよね……
最近日本人と行動を共にすると、どうも青い狸のような扱いを受ける事が多い。
確かに俺の魔法は万能だが、ハッキリ言っておこう! 俺は魔王だ!
人類の敵だぜ!
「やっぱり田中さんでも無理ですよね……はぁ」
「任せろマイスイートハニー! ほれ出来たぞ!」
俺が指を鳴らすと、北条さんの服がワンピース型の露出の少ない水着に早変わりする。
白を基調にしているが透けない素材で出来ていて、おしとやかな女性にピッタリな雰囲気のちょっと大人びたデザインにフリルがアクセントとなっていて可愛い。
「素敵!」
「貴女が着る事で、更にこの水着の良さが引き立てられますね。むしろ貴女と合わせる事ですてぶへらっ!」
そこまで言いかけたところでマイに思いっきり吹っ飛ばされる。
だから、何故痛いんだ?
そして、これは比嘉のポジションだろ。
「もしかして妬いてるのぶへらっ!」
失言だったらしい。
二発目が飛んできた。
軌道予測をしたのに、予測より早く到達する拳を避けきれずに湖まで吹っ飛ばされる。
や……やるじゃねーか!
良く見ると手の刻印が、より一層輝いて見える。
あっ……女神が傍に居るから、神力が大幅に増してるのか……ならば
俺はこっそりとエレメンタルブレイクを発動し、聖属性を打ち消しさらに神力を闇の魔力で抑え込む。
「なっ!」
北条さんが何やら驚いた表情をしているが、別に大した事じゃない。
これでダメージを負う事もないだろう。
「よくもやったなー!」
「キャー! タナカに襲われるー!」
俺がマイを追いかけると、キャーキャー言いながら逃げ回る。
「捕まえたっと!」
すぐにマイに追いつき、後ろから抱きしめ……てからの投げっぱなしジャーマンでマイを湖に投げ飛ばす。
「あーれーーーーー」
「お前はどこの時代劇の女優だ!」
間抜けな悲鳴をあげながら、マイが綺麗に着水する。
「10点!」
「6点!」
「10点!」
「10点やで!」
「10点です」
ユウちゃんだけ評価が厳しいな……
「もう! タナカのばかーーー!」
そう言ってマイが湖の中から水を掛けてくる。
「ふんっ! 【
湖なのに大津波が発生し、マイ達を飲み込む。
「ちょっ、大人げなブハッ!」
「えー、なんで私達まで? キャー!」
「ユウちゃんは、ワイが守ったるでーぶへらっ!」
「エアロキューブ」
「あっ、ショウ俺も入れて」
マイ達が思いっきり流されていく。
ザマー!
ちなみに、ユウちゃんに向かった水は俺が指向性を持たせて全て比嘉にぶつけておいた。
望み通り守ることが出来て良かったな。
何気にショウの奴凄いな……空気の膜を作って津波の影響を完全に防ぎきったか……膜ごと遠くに飛ばされてったが。
つっても海じゃないから、波が収まったら後は静かなもんだ。
うん……静かだな……
いつもなら、ワーワー言ってくるマイが何も言ってこないな……
うん……やっべー!
俺は慌てて湖に飛び込む!
「おい水獣どもよ! 女が流された! すぐに助けろ!」
『えー……魔王様が流したんじゃ?』
『魔王様……今の津波で家が流されたのですが……』
『私の坊やも行方不明に……』
ギャー! 二次災害発生してる!
「分かった! 家はすぐに戻してやる! お前の子供は大丈夫だろ! 水龍の子供が溺れるなんて聞いた事ねーから、でーじょうぶだ! いいから探して来い!」
俺がそう言うと、湖の魔物達が散り散りにマイを探し出す……ぶつくさ言いながら。
はい、すいませんほんと……はしゃぎすぎました……申し訳ありません。
そんな事を言いながらしばらく経つと、一匹の水虎が湖から現れた。
「すいません……もう手遅れでした……」
そう言う水虎の背中には白骨化した人骨が……って早すぎるわ! 誰やこれ!
「手遅れ過ぎるだろ! バカかお前は! 人間は数分で白骨化しないだろ!」
『えっ?』
全員が疑問を浮かべている。
『いや、グロスイーターフィッシュの群れに襲われたら、すぐに白骨化しますよ? 生き物の死体やゴミ、枯れ草や枯れ木しか食べませんが……』
「えっ? マジで?」
『いや、自分達も捜索に当たってるんで食べたりしないっすよ』
ほっ……どうやらこのグロスイータ―フィッシュも俺の配下だったらしい。
「って、じゃあこれは誰の死体だよ!」
「ども!」
って喋ったー! って、ただのスケルトンじゃねーか!
「すいません、湖の畔を散歩してたら急に津波に襲われて……」
「すまん……それ俺だ……」
次からは魔法を撃つ時は周りに気をつけよう……
『今度こそ見つけましたよ』
そう言って野生のケルフィがマイを背中に乗せて現れる。
良かった……まだ生きてる。
顔を覗き込んで息をしているのを確認し、ホッと胸を撫で下ろすと急にマイの目が開く。
「捕まえた!」
そう言ってマイが俺の首に抱き着いてくると、そのまま脇に頭を挟まれ背中を掴まれる。
「どりゃっ!」
マイの掛け声と共に、俺は湖に投げ飛ばされた。
「見たか、タナカ!」
何故か腰に両手を当てて、ドヤ顔で見下される。
まあ、無事で良かったわ。
「なんなのこの子達……」
北条さんが着いてこられずにオロオロしている。
残念ながら日本人の集まった時の平常運転だ。
「タナカは皆に迷惑掛けた罰として、バーベキューの準備な!」
『いやあっしらは、別に迷惑だなんて』
代表してヴォジャノーイの老人が答えるが、まあ迷惑掛けまくったからな。
それにどうせ、このメンバーじゃご飯は俺の仕事だしな……
「分かった分かった、お前らも気にするな……迷惑を掛けたのは本当の事だしな」
俺はそう言って魔法でバーベキューセットを作り出し、材料を用意し始める。
「まあ、こんな所で荷物を取る奴は居ないだろうが、一応ここに置いておけよ」
さらにそう言って魔法でテントを作り出す。
皆がそこに荷物を置いて、水遊びを始める。
泳ぎが苦手な北条さんは、ケルビーやイルカに変化したネレイスに手伝って貰って湖を浮かんでいた。
気持ちよさそうだ。
そして……
「リヴァイアサンさん! 次はもうちょっと角度付けて見ようか?」
「ひゃっほーい!」
マイと、タカシがリヴァイアサンの背中をウォータースライダー代わりにして遊んでいる。
うっかり逆鱗に触んなよ。
そしてあっちでは……
「ちょっと、なんでや! 海パン返して―な!」
「キャー! 比嘉さん立ち上がらないで」
「うわー! 見んといてー」
「つーか……なんで湖にイカが……」
比嘉達が楽しそうに遊んでいる。
仲が良いようで何よりだ……ちなみに俺がクラーケンに命令して、比嘉の海パンを奪わせた。
「おうお前ら! 準備出来たぞ!」
俺がそう言うと、マイ達が慌てて岸に上がってくる。
「わー、美味しそう!」
鉄板の上でジュージューと音を立てて肉や、野菜、魚介類が焼かれている。
湖の魔物達も集まってくる。
それからみんなでバーベキュー大会が始まる。
「うわー、これ美味しい! 牛みたいですけど、この世界の牛とは違いますね。何のお肉ですか?」
北条さんが串に刺さった牛肉を頬張りながら聞いてくる。
「ん? 松阪牛A5ランクの芯芯だよ?」
「えっ?」
「だから、松阪牛A5ランクの芯芯だよ?」
「松坂牛て……日本でも食べた事無いのに……芯芯ってなんですか?」
「モモ肉の部位の一つで、赤身でも相当柔らかくて美味しいでしょ?」
「は……はあ……」
北条さんが串を持ったまま固まってしまった……
取りあえず、放っておくかって!
「おい! マイお前の皿肉しか入ってないじゃねーか!」
「あっ! タナカサイダー!」
「サイダーじゃねー! サイダー飲みたかったら野菜も食え!」
俺がそう言って、マイのお皿に野菜をてんこ盛りにする。
マイがあからさまに嫌そうな顔をしているが、知ったこっちゃねー。
「田中さん! 白銀のタレってありますか?」
「贅沢だなおい! 異世界湖バーベキューなんだから、塩とか塩とか塩とか! たまに高級品の胡椒掛けて食っとけよ! あるけどさ……」
そう言って日本でもメジャーな白銀のタレを作り出して手渡す。
「白銀の……あるんだ……」
北条さんがさらにこっちを見て驚きの表情を浮かべる。
そう言えば、日本食を作って出すことはあったけど、メーカー品や日本の物の原材料を作り出すのは見せた事無かったか……
「アニキー! わいもタコ焼き作りたくなったから、タコ焼き器とかあらへんかー?」
お前は関西人じゃなくて、三重県民だろ!
大体、三重県の関西弁から段々と、大阪人の真似する胡散臭い関西弁使う人になってないか?
腹が立ったから小麦粉とひょっとこのお好みソースだけ渡しといた。
そしたら器用にお好み焼きっぽいのやら作り出したから、こっちはかも屋のお好み焼きを作って振る舞った。
比嘉が恨めしそうに自分の作ったのを食ってて笑えた。
可哀想だから、比嘉にもあげたが何やらモヤっとした顔をしていたので、タコ焼きを渡してやった。
『魔王様……こ……これは』
その時、珍しく魔物が俺に話しかけて来た。
イカ焼きを持ったクラーケンだ……共食い……
「大丈夫だ! お前の子供じゃないから安心して食え」
『はいっ!』
食うのかよ!
安心したのか、凄い勢いパクつき始めた。
今度ケルビーに馬刺し出してみるか。
たしかあいつ、ああ見えて肉食だったよな?
「タナカ! かき氷食いたい!」
今度はマイだ……
本当にコイツだけは俺に遠慮が無いというか……
はっ! 結局俺ってタクシー代わりにされて、荷物番と料理人にされて、良いように使われただけじゃねーか!
「田中さん……あの私にもそれ頂けませんか?」
「あー、良いよ!」
そんな中で遠慮がちにお願いしてくる北条さんがとても可愛く見えた。
でも、数週間で他の日本人のようになる未来しか見えなくて辛い。
***
「エリ・エリ・レマ・サバクダニ……」
森の木陰から、恨めしそうにこちらを眺めているムカ娘が居たような気がしたが、気のせいだろう……
城に帰ったら、俺の布団で寝ていたウララが俺の匂いを嗅いだ後思いっきり噛みついてきた。
色んな美味しそうな匂いが染みてて我慢出来なかったんだろうな……こいつの噛みつきは俺のステータスをもってしても本当に痛いので辛い……
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