第41話:聖教会の騎士が頭おかしくて辛い

「魔王様! 国境で兵が何者かの集団に襲われています」


 エリーに言われて俺はすぐに国境に転移する。

 転移した先では白い鎧を着た騎士達と、様々な鎧を着た魔王軍配下の人間の軍が衝突していた。

 白い騎士100人に対して迎え討つは国境に配備した500人の人間か。

 指揮を取る100人は俺の直属部隊だ。


「バカな! こいつらただの人間にしては強すぎるぞ!」

「お前も十分だろ! こっちは魔王様の加護を受けてるってのに、対等にやり合うなんてさ」

「魔王様だと! おのれ邪教徒め!」

「一般兵は下がれ! お前らじゃ太刀打ちできない!」


 おー、中々に均衡しているな。

 人間にこんな隠し玉が居たとは。


「おい、お前ら! 第一段階解放しろ!」


 一際目立つ装飾を施された白い騎士が叫ぶと、騎士達の手が輝く。

 おお、こいつら全員勇者か!

 統率された勇者の部隊なんてあったんだな。

 もはや勇者が量産され過ぎてて、物珍しさを感じなくなってきてるが。


「全てを斬り裂け! ブレイブスラッシュ!」


 白騎士共が、お馴染みの必殺技を放つと魔王軍直轄の数人が弾き飛ばされる。


「くっ!」

「うわっ!」

「馬鹿な! 勇者だと!」

「だが、あの旗印は聖教会本部の聖騎士部隊のはずでは」


 こいつら、聖教会の聖騎士か。

 なかなかに手強そうだな。


「ふん! 魔王の強化を受けたとはいえ所詮は人だろう?」

「俺たちの敵じゃないよな」


 ほお、普通の勇者相手なら互角以上に立ち回れるようにしてあるというのに、かなり優秀そうだな。

 マイ達とどっちが強いだろうか?

 いずれにせよ、この面々じゃちょっと役者不足か?


「くっ! 今の攻撃を防げなかった奴らは下がれ!」

「ですが、我々が下がれば数に差が」

「大丈夫だ! 時間さえ稼げば魔王様がきっと手を打ってくださる」


 もう来てるんだけどね。

 取りあえずこっからこっそり、能力強化を施してみるかな。

 俺が攻撃力と、防御力に強化を施す。


「これは力が! 魔王様か!」

「助かった! これなら戦える」


 強化を受けた人間部隊が白騎士に反撃を加える。


「いきなり攻撃が重くなったぞ!」

「ちっ! 魔王に気付かれたか!」


 白騎士達が口々に漏らすと、一旦距離を置く。


「おらっ! 魔王様だろ!」

「くらえ! パンピースラッシュ!」


 おお! こいつら自力で必殺技を開発してたのか。

 ブレイブスラッシュ程じゃないが、そこそこの威力を持つ斬撃が放たれる。

 この技の優れた点は、まず技名の短さだろうな。

 全てを斬り裂けよりは連発が出来そうだし、何より威力が小さい分コストパフォーマンスも良さそうだ。

 だがなお前ら……パンピーって一般ピープルの略称だからな!

 もっとカッコいい名前付けてもええんやで。


「ちょこざいな!」

「こんな攻撃でダメージ喰らう訳ないだろ!」

「調子に乗るなよ! 全てを斬り裂けってうわっ! あぶね」


 ほら、技名が長いから相殺に間に合わないだろ?

 てかリアルにちょこざいなって言う奴居たんだな。


「来い主天使ドミニオン!……かの者達に力を! そして神の威光を示したまえ! 降臨せよバラム!」


 また堕天使召還か。

 後ろに控えた聖騎士が3人係で主天使を召喚する。

 てか、この世界異世界なのに天使の名前は地球と共通か。


「くっ、力が!」

「なんだ、身体が重い」


 これは相手の能力を下げるのか。


「来い主天使ドミニオン!……かの者達に力を! そして神の威光を示したまえ! 降臨せよバルバトス!」


 さらにここに来て、味方のステ上げ系の天使召喚か。

 これは詰んだな。

 一撃でこちら側の人間兵が弾き飛ばされていく。


「ちっ、裏切りの勇者共の為にとっておいた連携をここで使わされるとわな」

「かまわん、まだ俺達には切り札がいくらでもある」


 そんなに切り札があるなら、一気に使って一気に消し去れば感づかれる事なくもっと近くまでこれたのにな。

 相変わらず脳みそが足りてないというか、臆病というか。

 どちらにせよ、このままじゃ不味いな。


「まとめて灰にしてやる! 全てを切り刻め! ブレイブレイン!」


 空中に飛び上がった聖騎士数名が上空からブレイブスラッシュを連発で放つ。

 そんな事が出来るなら、最初からしろって。

 いちいち時間かけるから……ほら?


「ふっ、跡形も無く消え去ったか」

「流石邪教徒! 神力の前には無力か」


 地上に降り立った騎士達が、完全に勝ちを確信している。

 だが、実際に斬撃が放たれた場所の後方100mに俺の兵は全員無傷でボーっと立ち尽くしているけどな。


「いま何が起こった?」

「あれ? 完全に死んだと思ったのに」

「やべっ、俺ちょっとちびっちゃった」

「おいおい、汚ねーな」


 今しがた死にかけたのに、なかなかのタフネスメンタルだ。

 流石俺の部下、順調に人間辞めてるな。


「か、躱されただと!」

「しかも全員に?」

「馬鹿な」


 砂煙が消え去った後、遠くに無傷の兵達が居るのを見て聖騎士達が驚きを隠せないようだ。


「馬鹿はお主らじゃ!」


 俺がそう言って上空からゆっくりと降り立つ。


「ま! 魔王様!」

「まさか、援軍が来るとは思っていたけど、魔王様が来られるとは」

「基本的に魔王様ってなんでも自分でやるよね?」

「そうそう、こないだも頭にタオル巻いて俺達が焼き払った畑を元に戻してたぜ」

「そう言えば、うちの集落の井戸も掘りに来てたわ」

「こないだなんか、料理振る舞ってたぞ」

「何それ? 俺も食いたいんだけど」


 中々に緊張感が無い連中だな。

 ここまで来ると、俺の忠実な部下としか思えねーわ。

 完全に俺の扱いが魔国の住民と同じだわ。


「あれが魔王!」

「なんて魔力だ!」

「というか魔王が、畑を?」

「料理ってなんだよ! 魔王の作る料理とかゲテモノしかイメージ出来ないんだけど」


 うんうん、お前らの反応が正しいからな。

 人間は間違ってる事が多いが、その感想に関しては概ね正解だと言っておこう。


「ふっ、余の膝元でこんなに暴れて気付かれないとでも思ったか?」


 俺がそう言って魔力をさらに軽く開放する。


「くっ! 馬鹿な! まだ衝突して30分も経っていないぞ!」

「くそっ、バラムのフィールド内でこの魔力! 主天使でも力不足か」

「どうする? ここはもう全力で行くか?」


 出せ出せ! お前らの切り札全部使ってみろ!

 そのうえで叩き潰してやろう。


「刻印の第2解放を許可する」


 えっ? 勇者の刻印って2段階解放なの?

 やめて! カインの刻印と被ってる! 被ってるからーーーーー!

 俺の叫び虚しく、刻印がさらに輝きをまして騎士達を黄金の気が包み込む。


「ふっ、勇者の力を甘くみるなよ!」

「この状態は魔王特化型と呼ばれている。魔王を倒す事だけに力を注ぐようになっているからな」

「女神様よ! 我らに力を」


 各々の神力が増したせいか、バラムとバルバトスの能力が大きく上がってる気がする。

 元々が小さすぎて、あまり実感出来ないけど。


「てか、お主ら死ぬ気か?」


 俺の言葉に一際目立つ鎧を着た、この部隊の隊長らしき男が前に出てくる。


「元より生きて帰る気は無い! 1000人からなる聖騎士部隊の中でも我らは今回、魔王を討伐する特攻の任にあり! 刺し違えてでもお前を滅ぼす」


 えー、お前らみたいなのがあと900人も居るの?

 気持ち悪いわー、自分の生命力を神力に変換するとか正気の沙汰じゃねーわ。

 第二段階は魔力だけじゃなく、生命力まで力に変えてるようだ。

 黄金の気に隠されているが、個々の生命力が大幅に減っているのが分かったからの先のセリフだ。

 っていうか、これ相手の攻撃を防ぎ続けるだけで終わるんじゃね?


「まあよい、お主らの全力の一撃を放ってみるが良い! 全員同時で構わんぞ! ここまで来た褒美に正面から受けてやろう」

「くっ! 嘗めおって! お前ら聞いたな! この一撃に全てを込めろよ! 同時に行くぞ!」


 こいつ等、マジチョロいわ。

 これでこっちは一撃を防ぐだけで、勝ち確定って事だからな。

 全員の神力がさらに膨れ上がるのに比例して、生命エネルギーがごっそりと減るのが分かる。

 おー、これ結構な事になりそうだな。


「これは不味いな」

「ふっ! 今更怖気づいても遅いぞ! まだまだ、力を溜めろお前ら! これで終わらせるぞ!」


 俺の呟きに隊長っぽいやつがなんか言ってるが、そうじゃないんだよな。

 単純に後ろのパンピー共と森が心配なだけなんだけど。


「いや、後ろにまで被害があると、面倒じゃからな」


 俺はそう言って俺の背後に巨大な魔法障壁を作り出す。


「魔王様!」

「こんな時まで俺達の心配を」

「マジ、人間の国王ってなんだったんだろうな」

「俺ら味方に人間に矢を射掛けられたってのに、魔族はこんな時でも俺らを……」

「えっ? というか、俺全然魔王様が傷付くイメージが見えないんだけど」

「そうだよな? まだ老人形態だし、実は魔王様変身するらしいからな」

「シッ! この状態で防がれたらあいつらの立つ瀬ないだろ?」

「あ……ああ、黙っててやるのも優しさか」


 お前ら安心しすぎじゃないか?

 腐ってもお前らより強い奴等が、弱体化と強化を掛けて命を込めた一撃を放とうとしてるってのに。


「死力を尽くせ! これで死んでも、魔王を討伐出来れば我らも栄誉ある聖人に列福出来るぞ!」


 ふーん、そんな甘言に誘われて死にに来たんだ。

 いくら聖人になっても、死んだらなんの恩恵も得られないのにな。


「行くぞお前ら! 合わせ秘技! 悪しきを消し去る光の斬撃よ! ブレイブエクストリーム!」


 同時に全員がブレイブスラッシュを放つ。

 あー、これスッピンが一人で放ってたやつか。

 本当は合体技だったんだな。

 しかし、流石は命を削って放つだけの事はあるわ!

 一撃一撃がスッピンのそれより重いわ。

 俺自身を守る魔法障壁に罅が入る。

 後ろの流れ弾は少ないから大丈夫か。

 中々に命中精度も高いな。


「見ろ! 奴の魔法障壁を破れるぞ! もっと力を込めろ! そしてもう一度放つぞ! 悪しきを消し去る光の斬撃よ! ブレイブエクストリーム!」


 さらに神力が解放される。

 天高くに上る黄金の気の柱がとても幻想的で綺麗だな。


 パリン!


 なんて事を思っていたら魔法障壁が割れてしまった。

 もう一回張りなおすかな?


「はぁはぁ、今度こそ終わりだ、命と引き換えに! 悪しきを消し去る光の斬撃よ! ブレイブエクストリーム!」


 そう言って神気を込めて騎士達が斬撃を放った瞬間に、生命力がほぼ枯渇するのを感じた。

 しょうがない喰らってやるか。

 100の斬撃が俺を直撃する。


「あれっ? 魔王様?」

「まさか! 魔王様がやられた」

「馬鹿な!」


 こっちサイドの兵共が戸惑っているが、安心してね。

 こんな攻撃じゃ傷一つ負わないから。


「やったか?」


 隊長がお決まりのフラグを立ててくれる。

 砂煙が辺りを完全に隠していて俺の姿は見えないだろうが、残念無傷です。


「ふっ、中々に面白い技じゃった」


 まだ姿は見えないだろうが、俺が大きな声で囁くというボスキャラ特有の技術を使うと老人形態で魔力を全力開放する。

 それから砂煙の中から手を伸ばして、隊長らしき男の首を掴んで持ち上げる。


「ぐっ、ば……馬鹿な! ……くっ、クソッ! お前らだけでも」


 隊長らしき男がそう言って俺に持ち上げられたまま二つの石を懐から取り出す。

 一つ目の石を砕くと、騎士達の生命力が少しだけ回復するのを感じる。

 そして、二つ目の石を砕くと後ろの騎士達に転移魔法が発動するのを感じる。

 転移すら道具に頼らないといけないとか、本当に人間って不遇だよな。

 取りあえず、転移する騎士達にマーキングを付けとく。

 これでいつでも様子が見られるな。


「良くやった褒美に、お主以外の逃亡を許そう」

「ふっ、感謝する……これで心置きなく行けるぜ……貴様とな!」


 そう言うと男の魔力と、生命力全て神気に変換されるのを感じる。

 それどころか魂の質量まで小さくなっていっている。


「オーバーヒートによる自爆か?」

「ああ、こんなじじと一緒にあの世とかロマンの欠片も無いけどな。一緒に死んでくれや」


 そう言って巨大な爆発が起こる。

 辺り一面を吹き飛ばす程の威力だったが、幸い魔国領は俺の魔法障壁のお陰で被害は無い。

 まあ、反対側の人間領は酷いものだ。

 俺の魔法障壁を中心に巨大なクレーターが出来上がっており、その向こう側は数百mに渡って木々がなぎ倒され、岩が砕け散っている。

 かろうじて男の魂の残滓を拾う事が出来たが、再生は難しいだろうな。

 まあ、絶倫辺りがここからの再生方法を知っているかもしれないが、他の連中にマーキングした為これ以上の利用価値も無いだろうしな。


「馬鹿な奴め! 最初から全員で自爆しておれば魔国領を吹き飛ばせたかも知れぬのにな……まあ、そんな事をしたら人間に待っているのは破滅じゃがな」


 俺はそう言って掌の中にある男の魂の残滓を握りつぶす。


「あれくらって無傷とか……」

「マジ、魔王様を倒すとか勇者って頭おかしいんじゃねーのか?」

「決死の一撃を無傷で防ぐ魔王様と、嫌そうにしながらも笑顔で料理を大量に振る舞って、皆が食べる姿を微笑みながら見守る魔王様が同一人物……」

「こっち側にいる間は幸せだが、あっちに付いたら……」

「言うな……俺の友達はまだ人間の兵だ」

「くそー、どうにかして仲間をこっちに呼びて―」


 後ろで兵士達が何やら言っているが、まあ全員無事で何よりだ。


「お前らも良く足止めしてくれたな。お陰間に合ったわい」

「はっ、これが我らの仕事ですから」

「でっ、お前らの総隊長の比嘉は何をしておる?」

「何か、魔王様が居ればでーじょーぶだとかって言う意味の分からない言葉を残して消えました」


 まあ、気配を察知したらまたマイ達と一緒に居たが、流石にそろそろトウゴさんとこに送り返しても文句言われないよな?

 突き返されそうだけど。

 それから転移で城に一旦戻る。


「魔王様、どうでしたか?」

「相変わらず大した相手じゃなかったが、今回はわしに取ってはといった感じだな。だが自分の命を厭わずに掛かってくる様は、勇ましいというよりは不気味じゃった」


 自分の命を平気で差し出させる聖教会も、それで簡単に死ねる騎士達もどうかしている。

 女神の所業だとも思えない。

 もし、そんな事を平気でさせるのがこの世界の女神様だというのなら、悪しき神では無いだろうか?

 何故なら、それは邪神の成せる業だ。

 どちらにせよ、聖教会に忍び込んでみる必要があるかもな。

 ふと顔を上げるとエリーが不満げな表情でこちらを覗き込んでいる。


「と言われますと、私達幹部では荷が重いと?」


 どうやらさっきの言葉が引っかかったらしく、心外だったのだろう。

 なんだかんだ言ってうちの幹部共も規格外だからな。


「ふっ、大した相手じゃないが最後の自爆は中々の威力だったぞ? 後で現場を見てくるが良い」


 俺の言葉にエリーがふうっと溜息を吐く。


「無傷で言われても、説得力が無いのですが?まあいずれにせよ、無事で何よりです。お疲れでしょう、少しお休みください」


 そう言って膝をポンポンとする。

 久しぶりのエリーの膝枕キターーーーーー!

 それからエリーの膝に頭を埋めて、ひと眠りする。

 久しぶりに幸せやー


***

「えっ……」


 次の日現場を見たエリーは言葉を失った。

 まず一つ目は、人間側の被害の大きさだ。

 この規模の爆発となると、いくら幹部でも死にはしないまでも結構な傷を負うだろうと予測できたからだ。

 次に魔国側が何か巨大な壁に阻まれたかのように、一定の線から後ろに全くの被害が無かったからだ。

 そして微かに残る魔王様の魔力の跡。

 さらに、老人形態のまま無傷で戻って来た魔王様。

 その全てが、エリーの想像の上を行っていた。


「いくらなんでもこれは……」


***

 その後エリーに本当に怪我をしてないのかメッチャ調べられたが、本当に無傷なんだよなこれが。

 俺のスキルの一つに完全状態異常無効があるが、これは受動的な状態異常を全て防ぐというものだ。

 そう、そして外傷も状態異常に含まれるらしい。

 自分でナイフで腕を切ると血が流れるが、他人が同じ力で切り付けても傷一つ付かない。

 自然に老化はするのだろうが、自分で魔法を使って細胞を若返らせたり老化させたりできるから早い話が不老不死ってやつだ。

 まあ、これは今のところ他の連中には内緒だが。

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