第7話:女勇者と思ったら、イケメン勇者だった……辛い……
「魔王様! 勇者が現れました。」
はいはい、分かったよエリーたん……
今日はやけにハスキーな声だねー?
風邪でもひいたのかなぁ?
「はいはーい! 待ってたよー!」
俺が扉を開けると山羊の骸骨が立ってた……
Oh……絶倫……
「はて? どうかされましたか?」
表情の無い山羊の骸骨が小首を傾げる。
可愛くないよ?
むしろ怖いからな!
「えっと、エリーたんは?」
「エリーたん? あぁ、エリー女史ですか? 彼女なら「最近女勇者の相手ばかりで疲れたので休む!」と言ってどこかにいかれましたが?」
ナンダッテー!
これは一大事やぁ!
いや、これはチャンスやぁ!
女勇者との仲を進行させるチャンス来たでー!
「うむ……それは致し方あるまいな……取りあえずわしは先に転移で玉座の間に行っておるから、くれぐれも……く・れ・ぐ・れもゆっくりくるのじゃぞ?」
「はっ? はぁ……」
絶倫が不思議そうな顔をして返事する。
だって、お前みたいな奴が来たら女勇者ちゃん怖がるじゃーん!
今日は取りあえず名前でも聞いてみるかなー……出来たら男性の好みくらいまでは聞いときたいけど。
さっさと行くベー!
俺は、絶倫を放置してとっとと玉座の間に移動した……
今日は剣戟の音が聞こえるなー。
もしかして、勇者ちゃんレベル上げしながら来てるのかなぁ……
あっ、音が止んだ。
気配が近づいてるなぁ……
おっ? 今日は4人居る。
魔法使いと僧侶復活か?
どうせすぐ飛ばしちゃうんですけどねー! ウッシッシッシ!
勢いよく扉開けたなー……扉壊れちゃうよ……
「お前が魔王か!」
だれこのビキニアーマーのお姉さん……戦士ってお父さんじゃなかったの?
てか、魔王城にそんな装備でよく来れたな。
「おいっ、戦士勝手に進むな」
「むっ……すまない!」
続けてさらさらの赤茶色の髪をした男が入ってくる……
誰?
「待ってくださーい!」
おっ? 修道女の恰好した女が入って来た。
あっ、こけた……嘘……だろ?
こんな何もないところでこけるような、運動神経の悪い女が魔王城に辿りつけるのか?
「みんな焦り過ぎ……」
魔女っ娘キターーーーーーー!
あれっ? セクシー魔女だった……
まぁいいや……
やけに胸を強調したボディコンみたいな服着てマント羽織ってる。
ボディコンとか分かるかな? 分かるよね? 分かるといってくれ! 分かるものとして進めよう!
「さて、失礼したね。貴方が有名な魔王様かな?」
何こいつ?
様付けされてるけど、若干上から見られてる感じでイラッとするわ……
「ふむっ、動揺しているようですね。私はセントレアの勇者ムスカと申します。突然ですが、貴方の命頂きにあがりました」
こいつの丁寧語腹立つわ……
絶対自分がカッコいいって思ってるよね。
てかハーレムパーティで魔王城攻略とかなめてんの?
てか女勇者ちゃんは?
どこいった?
「何か、お答えいただけませんか?」
女勇者ちゃぁぁぁん!
「無理無理、勇者がカッコ良すぎて言葉も出ないってさ!」
女勇者のこと考えてたら、戦士がなんか言い出した。
おいっ、ビキニアーマー黙れ。
「まぁ、魔王って童貞って噂じゃない? もうちょっと若くてカッコ良かったら殺す前に相手しても良かったけど、こんなじじいじゃ枯れてるよね」
セクシー魔女がクスクス笑う。
黙れビッチ! 剥くぞ!
てか誰が童貞じゃーい!
俺が童貞じゃー!
悪いか! 相手さえ選ばなければとっくに捨てられるんじゃ! 負け惜しみじゃないぞ……
完全に負け惜しみですね……辛い……
「魔法使いちゃん、お下品な事言わないでください! でも勇者様と比べるとちょっと可哀想ですね……」
君も何気に酷いね……
つか、もう勇者許さん!
とくに、勇者に直接何か言われた訳じゃないけど、絶対に許さん……
取り敢えず深呼吸して、気持ちを落ち着けよう。
「ふむ……気はすんだか?」
俺は四人の目を順番に見据える。
「フッ……」
鼻で笑ってやったぜ!
あとは
「余が魔王じゃ……」
よし、頑張った俺……
精一杯の威厳を保てたはずだ……たぶん……きっと……
やっべ、勇者達が冷や汗垂らしてるっぽい。
「くっ、魔王の癖に生意気な!」
おい露出痴女! あっ、うちの部下の方が酷かったわ……
この半端痴女! 魔王てのは王様だぞ? てか、たぶん魔王を倒せるの勇者だけで、基本的に地上最強じゃないのかな?
しかも、勇者なら倒せる可能性があるってだけで、今の勇者で俺を倒せるのは女勇者ちゃんぐらいだぜ?
なのに、たかが人間の戦士が生意気とかどういうことよ?
「この余裕……流石魔王か……急に威圧感が増した……」
イケメン勇者は性格もイケメンだなー。
俺の事直接乏したりしないし……ムカつくぜ!
「まさか……童貞っていうのは嘘だったの?」
おいっ、ビッチウィッチ!
えっ? そこ? てか、誰がその噂広めてんの?
どれくらいの人が知ってんの?
「はぅぅぅ……怖いですぅ!」
エセドジッ娘がほざくな!
あのね、あーたここに来てる時点で相当の実力者だからね。
さっきも何もないところで転んでたりしてたけど、ステータス知ってるからね?
可愛い顔してあざといな……
ムカつくからちょっとだけ、魔力開放しちゃおーっと!
おーおーおー、四人の顔が真っ青で魔族みたいやでー。
「皆逃げろ! この魔王は他の魔族とは桁が違う。なんとか時間稼ぐから、魔法使い転移の魔法いけるか?」
「勇者は?」
「俺は残る! 魔法の発動時を狙われたら全滅だ! なんとか、それは阻止する!」
魔王の前で作戦暴露しちゃってるよぉ……
なんで勇者ってこんなに真面目なの?
てかバカなの? 死ぬの?
「私も残る! 勇者を置いてなんて行けるか!」
「戦士! 分かってくれ! 俺一人ならスキをついて逃げられる! 魔法使い、どうだ?」
「んっ! 魔法陣の生成と、詠唱で4分……場所を選ばなければ詠唱省略で2分でいける! どこに飛ぶかは分からない!」
「魔法使い!」
この間に1分くらい経ってないか?
すぐに魔法陣作らないと……
「それでいい! どこに飛んだってここよりはマシだ!」
「私は残ります! 補助魔法無しでどうにか出来ると思いますか?」
「僧侶も行くんだ!」
ふーん、君補助魔法使うんだ……
てか、黙ってても手の内ボロボロこぼしてくれるのねー……
呆れるわ……
それでも戦士がゴネてる……もう3分経ってるよ?
完全版の転移まで1分稼いだら良いだけじゃん……
「分かった……だが、必ず生きて戻って来いよ!」
「あぁ、俺を信じろ!」
いいねー……ドラマだねー……
君たち魔王の目の前って分かってる?
面白いから放置してるけど……
あっ、誰か来た……この気配は絶倫か。
間の悪いというか、良いというか。
「魔王様! 大丈夫ですか?」
絶倫おっせーよ! 爆笑寸劇終わっちゃったよ?
もっと急げよ……一緒に笑えたのにさ!
もうちょい早く来いよー……って、俺がゆっくりでいいって言ったんだけどな。
「まっ……魔王様?」
あっ? 顔に出てた?
「新手が来ましたわ!」
「なんだこいつは! この覇気……なんでこんな奴が城の守りにもつかずに今頃」
「魔法使い、時間が無い詠唱短縮で構わないから急げ!」
「無茶言うわね……分かってるわよね? 絶対に貴方も逃げるのよ!」
終わったみたいだねー。
リアル魔王戦だったら100回は殺されてるとオモウヨー……
「魔王様、これは?」
「っん? なんか、わしの目の前でわざわざ作戦や手の内をガンガン晒してくれるのが面白くて、見入ってた。こいつらさー……」
小声で絶倫に一部始終を伝える。
あっ、表情分からないけど心底可哀想な人達を見る目してる……と思う……
てか無いはずの瞳が見える……
「ふっ、余裕だな魔王……悪いが最初から全力で行かしてもらう……ぜ!」
そう言って勇者が一瞬で間合いを詰めてくる。
えー……こっちはこんなに待ってあげてたのに、君はいきなり来るんだ……ずるくね?
「ふっ、遅すぎますね」
「なにっ?」
勇者の全力の一撃を絶倫が片手で防ぐ。
衝撃の余波が来るけど、おれにしたら微風程度の攻撃やねー。
「魔王様大丈夫ですか?」
うんっ、当たっても大丈夫だけどね……
フッ……と鼻で笑って答えてみる。
勇者が歯を食いしばって悔しがってる。
これで、傷でも付けられると思ってたのかね。
「勇者! やっぱり私も残る!」
「来るな戦士! こっちの魔族だけでも俺たちより遥かに強い! だが勝つことはできなくても、俺なら死なずに戦う事はできる!」
カッコいいねー……
ムカつくねー……
だから意地悪しちゃおっと!
「おい絶倫! 手出し無用だ……好きに攻撃させてやれ……」
俺がそう言って、絶倫を下がらせる。
「御意に……」
絶倫が俺の後ろに移動する。
おー、おー、おー、おー! なんか俺大物っぽくね?
なんで今日に限ってエリーたんじゃないんだよ!
絶倫のバーカバーカ!
「っく、馬鹿にしやがって……全力じゃ足りないか……ならばその先を見せてやる!」
おー、魔力暴発させちゃってまあ……
それって結構すごいね……抑え込んでるだけでも流石勇者だわ……
コントロールは出来ないんだろうけどね。
「勇者!」
「勇者様!」
戦士と僧侶が悲壮感溢れる表情で勇者の勇姿を目に焼き付けてるのが笑える。
なに悲劇のヒロイン気取ってんの?
ここの主人公俺なんだけど?
「くっ、何故だ! 何故当たらない!」
あぁ、ごめん半端痴女とエセドジっ娘が面白くてついそっちに見入っちゃったわ。
そろそろ魔法使いちゃん準備できたかな?
「出来たわ! 【
おー、きっちり2分! 仕事は確かなんだな……
「フッ……良かった……お前ら俺がいなくなってもしっかり生きろよ……」
あーあ、勇者様の魔力尽きちゃったねー……
「えっ? 嘘っ!」
「勇者様?……いやっ! 魔法使い止めて! いやだ、いやぁぁぁ……」
「ッ……」
戦士と僧侶が凄い顔してる……
魔法使いのあの表情……勇者が助からないの知ってたねー。
でもそういう覚悟嫌いじゃないよ?
魔法陣が光を放って三人を包み込む……
そして、その場から三人が姿を消すと……あら不思議! 何故かランダムで飛ばされた場所は勇者様のすぐ傍でした……
「えっ?」
「あれっ?……勇者様? それに魔王?」
「バカな! 術式は確かに発動したわよ?」
三人が狼狽してる姿がめっちゃ面白い……
「いやぁ、こんな偶然ってあるのじゃな?
「魔王……きさまっ!」
やべー……超おもしれ―……
なにさっきのやり取り……
俺がいなくなってもしっかり生きろよとか言ってなかったっけー?
いやぁって……僧侶ちゃんいやぁって……凄い悲痛な声上げてたよねー……
マジウケるんですけど……
なに、魔法使いの覚悟……マジ無駄な覚悟だね……
うわぁ、後ろでめっちゃ絶倫が笑い堪えてるのが分かる。
「感動の再会だな……プッ……プクッ……」
やべー面白すぎて、魔王の演技無理ー。
ちょっ、やり過ぎた。
戦士と僧侶と魔法使いが死んだ魚の目してる。
どっかで見たな……
あっ、あれや、扉の前で回復かますアホ共を邪魔した時。
あの時の勇者パーティの目と一緒や。
「まっ、魔王さま……さすがにこれはプッ……ちょっと、可哀想過ぎる……かとプクク……」
絶倫はん、笑ってもええんやでー。
「クッ、せめて……せめて一太刀浴びせないと……死んでも死に切れん!」
うぉぉ! 勇者が鬼気迫る表情で斬りかかってきたわ……
でも残念、無念、またらいねーん!
これでもくらいやがれっ!
「【
今日のビックリドッキリチートマジック!
たった今作りました!
瞼の裏側に直接超高輝度光源を発生させて、不能グレアを発生させる魔法です。
ようは、回避不能の目くらましってやつね。
「目が、目がぁ!」
フッフッフ、勇者殿が目を押さえてのたうち回っておられる。
いや、ムスカって名前聞いたとたんにこれがどうしてもやりたくて、魔法作っちゃいました……テヘッ!
「てなわけで、サヨーナラー!」
俺がそう言うと、四人の瞳に絶望の色がはっきり映し出される。
やり過ぎちゃった……でも後悔はしていない。
安心してね?希望の町に帰すだけだから……もはや絶望の町か……
「【
***
はぁ、落ち着いて考えたら完全にイケメン勇者への妬みと八つ当たりだわ。
女勇者ちゃんに会いにいったら、あんないけ好かない奴がハーレム状態だったんだから仕方ないよね?
はぁぁぁぁ……自己嫌悪だわ……
魔王なのに器がちっちゃくて辛い……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます