第3話:魔王被害遺児が健気で辛い:前編

「魔王様、子供が迷い込んできたようです」


 深夜だというのに、慌てた様子でエリーが部屋の外から声を掛けてくる。


「ふぁぁ……どこの種族だ?」


 ついさっき寝入ったばかりで頭がうまく働かねーよ。

 種族によっては子供でもキモいの居るからなー。

 いや、子供に罪は無いけど……


「人間です!」

「なんだとっ!」


 俺は慌てて飛び起きると自分に老化の魔法を掛ける。

 俺は寝るときは本来の姿に戻っている……

 何故かって? 年寄りは無意味に早く目が覚めるからだよ!


 一度深夜の3時に目が覚めて廊下に出たら、警備が軒並みアンデッドだった……

 ゴーストにレイス、ソンビにグール、ミイラに、ソンビドッグつれた奴も居たな。

 扉の横に居たのが、スカルナイトだった……

 扉開けて横見たら骸骨とか、どこのホラーだよ!

 目が合った瞬間に思わず悲鳴あげたよ!

 あっ、彼に目は無かったけどね!


 その悲鳴に魔王城の警戒レベルが一気にマックスになって、おれはスカルナイトに連れられてパニックルームに避難させられた……てか、俺がパニックだよ!

 まぁ、深夜でダレてないか試したって事にして誤魔化したが、エリーのジト目頂きました。

 有難うございます……本当にね……


「すぐに着替えて向かう!」


 俺はエリーに告げると、黒いマントを手に取って……投げ捨てた!

 こんなん着て子供に会えるかボケっ!

 それから、魔法で服を作り出す。

 本当に魔力無双チートやなー……


 今日の魔王コーディネート!

 水玉のパンツに……下着じゃないよ!長ズボンだよ!

 白いシャツ!

 星柄のマント!

 頭には某ネズミ王国の主人公の耳!

 子供は皆大好きだよねー?


 あー、顔どうしよう……この際老化の魔法じゃなくて、変化の魔法で14~15歳くらいにしとくか……

 この格好でジジイとか不気味だもんね?

 うん、そうしよう!


 着替え完了! レッツラゴー!

 ここで対応を間違えなければ、きっと人間の好感度上がるはず! ウッシッシッシ。


「さぁ、行こうか?」


 俺が部屋から飛び出すと、すぐ目の前にエリーが居た。

 何その目? 文句あんの?

 思いっきり子供に媚びてますが何か?


「まっ……また……今日は一段とオシャレ……ですね?」


 なんで疑問形?

 てか、目を見て言おうか?

 照れてるわけじゃないよね?

 イタイ子とか思わないで……エリーに嫌われたら魔王傷付いちゃう!


「うん、子供はやっぱり第一印象が大事だからね」


 この見た目なら、威厳のある言葉遣いは良いだろう。

 それから、エリーを連れて応接室へと向かう。

 廊下ですれ違う部下達の視線が痛いぜ!


「あれ……魔王様だよな?」

「ちげーよ! きっとピエロでも雇ったんじゃねーの?」

「だよね……あれが魔王様なら……俺この仕事やめるわ……」


 妙に人間臭い事言うのね……あぁ、アンデッドだから元は人間なのか?

 てか、こんなアンデッドの巣窟に子供が一人……ニゲテ―!全力でニゲテ―!


 あまりにも周りの視線や、ひそひそ話が冷ややかで辛い……

 なので指をパチンとならして、エリーと一緒に応接室前に転移しました!


「きゃっ! 転移されるなら、先に言ってくださいよ! もうっ!」


 エリーちゃんのふくれっ面頂きました!

 てか、怒ってほっぺた膨らます女の子今時いるのな?

 いや、ここの時代設定分かんないから今時とかないか。


「お待たせ……ってうわぁ!」


 俺がノックして中に入ると、目の前にアルファブラッドが居た……

 こえーよ!

 お前、顔が接客向きじゃねーんだから、来客対応とかしてんじゃねーぞ!


 ちなみに、アルファブラッドにはスッピンと名付けた。

 本人は意味に関しては理解してなさそうだが、これはまた強そうな名前だと喜んでた。

 なんでも、訓練にも身が入って部下が嬉しくない悲鳴をあげてるとか、あげてないとか……魔族って不思議。


「びぇぇぇぇぇ!」

「うぉぉぃ!」


 俺の顔を見るなり、小さな女の子が泣きながらスッピンにしがみ付く……何故?


「大丈夫だから……こちらが魔王様だよ! 見た目は怖いかもしれないけど、とても寛大な心をお持ちな方だから安心して」


 てめぇぇぇが、言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 スッピンミイラより怖いとかヤメテ!

 スッピンが女の子の背中を優しく叩いて落ち着かせる。

 少し落ち着いたかなと思ったら、女の子はこっちを見てスッピンの背中に隠れる。

 もうヤメテ! 魔王のライフはゼロよ!


「ほら……そんな恰好してたら、普通子供は怯えますよ」


 えっ? エリー……

 それ先に言ってくれないかな?

 てか、あれっ? このマントとか……耳とか……子供受け抜群じゃないの?

 世界観の違い?


 女の子が慣れてくれるまで……1時間掛かった。

 ちなみに老化の魔法使ったら、おじいちゃんみたいって少し笑顔で話してくれるようになった。

 無駄な努力だったぜ!


「ところで、貴女お名前は?」


 エリーが、しゃがみ込んで子供の目線に合わせて話しかける。

 手には飴を持っている。

 主と違って、出来る側近だぜ!


「チビコ……」


 親御さん……

 そりゃ生まれた時は小さいかもしれないけど、あっちゅーまにデカくなるんだぜ?

 もっとちゃんとした、名前考えたげて!


「チビコちゃんね、良い名前ねー」


 嘘つけエリー! おまっ! 白々しいにも程があるぞ!

 チビコもまんざらじゃない顔しないで……俺の価値観が音を立てて崩れてく。

 俺……この世界でやってけるのかしら? 誰か……教えて……


「うんっ、パパが付けてくれたの!」


 良い笑顔ね。

 なんか、どうでも良くなってきた。


「そう、それでパパかママはどこにいるのかな?」


 エリーがチビコちゃんに優しく問いかける。

 今度は手にオレンジジュースを持っている……ちょっと、それ俺一回も飲んだ事ないんだけど?

 最初の頃なんて、美女の生き血やら龍の血とかっていう、おどろおどろしい飲み物しかだしてくれてないよね?

 オレンジジュースとかあったのね……辛い……


「パパ……死んじゃった……魔王に殺されたの……お祭りで……」


 ナンダッテー!


 はい、お約束ですね……

 てかこら! スッピン! 何お前さりげなくチビコちゃんに同情して潤んでだよ!

 肌カッサカッサに乾いてるくせに!


「あらあら、それは辛かったわねぇ……じゃぁ、そんな所にチビコちゃんは何しに来たのかな? もしかして、迷子かな?」


 エリー、グイグイ行くな……


「あのね……あのね……パパの形見残ってないかなーって……怖かったけど……パパの物が欲しかったの……だから下さいってお願いに来たの……」


 そのために、こんな森の奥深い魔王領まで来たのか……ええ子やー。

 よく見たら体中擦り傷だらけだし、あまり食べてないのか子供にしてはやつれてる感がある。

 おいちゃん、涙出てきたよ……

 スッピン号泣してるよ! これで、肌戻らないのかな?

 てか、その目から出てる水分は体のどこに蓄えられてたのかな? 魔族って……本当に不思議。


「取りあえず、その子に食事と部屋を与えよ! こんな時間まで起きてるのはあまり良くないしな。明日改めて詳しい話を聞こう。」


 こんな憔悴しきった状態で、このまま話を続けるのも酷だからね。

 疎外感とか、眠気が理由じゃないよ。

 彼女の為だよ。


「畏まりました……それでは、軽食と部屋を与えましょう……」


 エリーがそう言うと、部屋の外にいる見張りのレイスに何やら告げる。

 食事と部屋の手配だろう。

 人間のご飯作れる奴、うちに居るのかな?

 まぁ、オレンジジュースが出るくらいだし大丈夫か……俺もそれ飲みたい……


「チビコちゃん? 今日はもう疲れてるでしょうから、明日詳しく話を聞くわよ。一人で寝れる?」

「うん……でも本当は怖いから……眠るまでスッピンさんと一緒……ダメ?」


 そんな上目遣いでお願いされたら断れませんよ!

 てか、そこでなんでスッピンなのかな!

 そこは普通エリーやろ!

 この世界の子供の感性が分からない……


「私で宜しければ、今日は警備は部下に任せて彼女に付いていようかと……」


 おまわりさんコイツです!


「スッピンなら、女の子同士だし安心ね……」


 えぇぇぇ! スッピンってメス?

 アルファブラッドて名前だから、男だと思ってた……


 いつからアルファブラッドという名が男名だと錯覚していた?


 的な目でこっち見んなお前ら! ってもこの部屋にはスッピンと、エリーしか……あれっ? 何故かチビコの視線からも先のセリフが聞こえる気がする……


 この世界感に付いていけなくて辛い……


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