第2話:部下が気持ち悪くて辛い

「魔王様……皆さまお揃いです」


 側近のサキュバスのエリーが呼びに来る。

 こないだは、魔人友好の為の祭りは失敗したからなぁ……

 次こそ、何か良い手が打てるといいんだけど……


「うむ、分かった」


 俺はそういって椅子から立ち上がると、漆黒のマントを羽織る。

 大体、このマントが良くない。

 いかにも悪者ですぞって感じが半端ない。

 肩の留め具は龍の頭蓋骨だし、無駄におどろおどろしい。

 これが、まだ青ベースで水玉とかだったらお茶目な感じにでもならないだろうか?


「何か?」


 鏡を見て溜息を吐いてたら、エリーに心配された。

 大丈夫だよー

 俺にとっては、エリーの部隊だけが唯一この地で安心できる種族だ……見た目だけはね。


 それから部屋を出て長い廊下を突き進み、会議室の前に立つ。

 大きく息を吸って、気合を入れて入る。

 そう気合を入れないと思わず扉を閉めたくなるほどに、見る事も憚られる異形の者達との会議が始まるのだ。


「待たせたな!」


 俺が大きな声で挨拶し入室すると、幹部の面々は全員直立して待っていたようでこっちを見て深く頭を下げる。

 若干数種族の性質上頭も下げれないのも居るが。


 一番奥の玉座に座ると、横にエリーが付き従って立つ。


 俺の右手にはリザードマンエンペラーの蛇吉が居る。

 なんか、ランスロットとかって妙にカッコいい名前だったから魔王権限で名前を変えた……若干小ばかにした名前だが本人にはいたく喜ばれた……魔族って不思議。

 人外に初めてちょっとした罪悪感持った。


 左手にはデビル族の男が……結構性別不明な種族多いけどこいつは分かる。

 下半身が黒いヤギ、頭はヤギの頭骨、上半身人!

 スッポンポンで下半身露出狂!巨根プラプラ!


 おまわりさーん! コイツです!


 まぁいいや、他には頭牛のミノタウロス族の長……こいつも巨根プラプラ……気持ち悪い。


 大ムカデオンナ……顔もさることながら足がワシャワシャしてて気持ち悪い。

 こいつは椅子無いし、やっぱり下半身露出……興奮しない……


 頭に直接触手が生えてるメデューサっぽい化け物……


 上半身超美少女なのに下半身蛇オンナ……アジ・ダハーカだっけ? ナーガ? 良くわからないけど接続部キモい……こいつも下半身裸……


 俺の部下こんなんばっか


 他にも腐った奴でゾンビエンペラーとか言ってたかな? メスらしいが。

 それにタコみたいな奴とか……喋る蛙とかとにかく気持ち悪い奴らばっか。


 あぁ、獣王可愛いよー。

 リアルライオンの頭のっけてるけど、この面子の中で見たらダントツで可愛いわー。

 モフモフしてぇ……


 まぁいいや、取りあえず本題に入ろう。


「それでは第2回魔人友好作戦会議を行う。誰ぞ良い案はあるか?」

「はいっ!」


 さっそく大ムカデ女が手を挙げる……足は百本だが手は6本しかない……キモい……


「ムカ娘!」


 ちなみにジョセフィーヌって名前だったから、改名してやった!

 その時は恍惚に満ちた表情してた……魔物って不思議……


「まずは、人間共の子供を全て攫ってきて、この地で一から魔族こそ正義!人間は悪だと教育すればいいかと!」

「却下! てか、子供攫った時点で敵認定だよ! はぁ……次は誰かおらぬか?」

「はいっ!」


 続いて勢いよくミノタウロスが手を挙げる。


「よしっ! モー太!」


 こいつは確かエドガーって名前だったな……

 ムカつくからモー太にしてやった……涙流して喜んでた……

 ファーストネームなのに、家名にするとかぬかしてたな……俺は絶対嫌だ!

 ヒトシ・モータ……あれ? 悪くない?


「人間に魔族好きかどうか聞いて、好きじゃないといった奴だけ殺せば、魔族好きな人間だけが残るモー」

「馬鹿か! 人間全滅するわ! 人間の魔族に対する印象はお前の方が知ってるんじゃないのか?」


 見たまんまの脳筋だな……


「次っ!」


 若干声を荒げて、呼びかける。


「はっ!」


 おー、前回もチラッと登場した骸骨ヤギ頭のおっさんが手を挙げてきたな。

 こいつは魔王城の頭脳担当だったな……

 我が軍の参謀だ、これは期待できそうだ!


「よし、答えろ絶倫!」


 たしか名前はフェルディナンドだったっけ?

 見たまんま絶倫にしてやったぜ!

 子々孫々1000代まで繁栄しそうな名前だって、大はしゃぎで帰ってったな……一部を漲らせて。

 次の日、昨夜はお楽しみでしたね? って言ってやったらキョトンとされたが。


「我が一族全員で、精神汚染の魔法を使って洗脳してみせましょう」

「そうじゃねーんだよ! お前ら全員馬鹿ばっかだな!」


 ダメだ……威厳のある喋り方どころじゃねー……


「というか、別に人間と仲良くしなくたっていいんじゃない?」


 これは蛇頭の意見だ。

 まあ、お前じゃ人間と仲良くするのはまず無理だろうな……トップレベルでキモいし……


「今代の魔王様は、なんとも惰弱な考えの持ち主……頭が腐っているとしか思えぬ。」


 ゾンビがなんか言ってる。

 リアルに腐ってる奴に言われたくねーよ!

 ちなみに腐女子って名付けてやった……悔いは無い!


「お主ら、魔王様に向かってなんという言い様!」


 おぉ、エリーが立ち上がって怒ってる。

 怒った顔も可愛いよーエリーたん……はぁはぁ……


「じゃが、俺らは人間を滅ぼしてこの地を魔物の世界にするために生まれてきたのだ」


 タコがかっこ付けてもタコだしねぇ……


「貴様! 魔王様の命令がきけぬというのか?」


 エリーたん落ち着いてー。


「わしは、強者に従うのみ……」


 ライ蔵は喋ったら可愛くないから黙ってようか?


「ふっ、ならばここで我ら4人、魔王に決闘を申し入れる」


 そういって、蛇頭と、蛙と、タコと、ソンビエンペラーが立ち上がる。

 謀反かぁ……いきなりだな。

 基本的に、受けるかどうかは魔王の勝手らしいが、別にこいつらにどうこうされる心配無いしなー。


「絶対に……お主ら絶対に許さんぞ!」


 そしてさらに怒るエリーたん、鬼気迫る感じいいねー。

 しかも俺の為にこんなに怒ってくれて、嬉しくて涙が……


「ふははは! 見よ! 魔王が恐怖に涙しておるわ!」


 蛙がなんか言ってる……

 でも良かったー! 謀反起こしたのが特にキモイ4人だったからなー。

 キモイ奴等4人も掃除出来るし。


「もー許さない! 絶対に許さないんだもん! 魔王様、私に粛清許可を!」


 エリーたん口調が可愛くなってる。

 萌えー

 って、そうじゃない!


「よい……わしが、全員纏めて相手してやろう」


 俺はそう言ってパチンと指を鳴らす。

 次の瞬間周囲の景色が変わる。

 この場に居た全員を転移を使って、魔国領内にある広い荒野に移動させたのだ。

 ここなら、少々暴れても影響無さそうだしね。


「はっ! ここは?」

「何が起こった?」

「馬鹿な! 我らに抵抗すら許さず転移させるとは」

「ヤベー、これアカンやつやでー」


 4体の馬鹿どもが焦ってる。

 それ以外の幹部は、目を瞑って頷いている。

 まぁ、この4体以外は俺と前魔王の決闘見てるしね。

 蛙が焦ってるのが笑える。


「ここで、残った全員で我らを粛正するつもりか?」

「いや、わし一人じゃ」


 蛇頭の言葉に、指を一本立てて答える。

 ソンビとタコ野郎が真っ赤になってる。

 タコはリアル茹蛸だな。


「馬鹿にするな! お前ら一斉に行くぞ!」

『おうっ!』

「えー……」


 蛙が嫌そうにしてる。

 だが、俺は椅子に座ったまま面倒くさそうに四人に視線を向けるだけ。

 その仕草だけで、彼等のプライドをさらにズタズタにする。

 まあ、本当に座ったままでどうにでも出来るレベルだしね。

 それすら分からない時点で、こいつら雑魚すぎるわ。


「我らを嘗めた事を後悔するが良い! くらえ石女の熱線!」

「これで、お前もわしらの仲間入りじゃ! 腐食の世界!」

「海の帝王の名を嘗めるでない! 大津波!」

「一応、オイラも……蛙の合唱」


 4体の幹部達が自身の持つ最強のスキルをぶつけてくる。

 貴女の熱い視線はお断りです……それにしても、頭だけの魔物が石女の視線とか言い得て妙だな。

 腐食の世界って、男同士がくんずれほんずれ? ダメだ、腐女子と名付けてしまって、変なイメージが頭から離れない。

 タコのくせに妙に生意気なスキルだ……しかもタコが海の帝王って……思わず吹き出しそうになる。

 そして蛙はやっぱり蛙か……


 1万度を越える熱線、全ての物質を腐敗させる衝撃波、文字通り大津波、耳をつんざき脳を破壊するであろうゲコゲコ……


「ふっ、終わったな……」

「あっけない……」

「所詮は魔王といえども、パッと出の無名の魔族って事か。」

「それはフラグってやつでゲロ……」


 蛙……意外と嫌いじゃないかも……

 4体の幹部による総攻撃による砂煙が徐々に晴れていく。

 そこには、先ほどと一切姿勢を変えていない俺。

 まぁ、魔法障壁による絶対防御を身に纏ってるからね。


「バカな!」

「無傷だと!」

「ありえぬ。」

「ですよねー……」


 蛙は助けてもいいかなー……


「うむ、悪くない攻撃であったぞ……ではこちらの番じゃな?」


 そう言って軽く手を振るう。

 刹那、5本の指それぞれから巨大な真空の衝撃波が発生し、一直線に彼等を襲い体を細切れにする。

 あっ……蛙助けるの忘れてた。


 何も言う暇も無く4体の魔物が物言わぬ肉片となる。


「流石です魔王様!」

「やはり、我が君はこうでなければ」

「やっぱ、俺はまだまだだな」

「素敵! 抱いて!」

「あぁ、魔王様の子種が欲しいですわ!」


 こちら側の幹部の面々が、俺をほめたたえる。

 というか、下半身蛇とかムカデってどうすれば交尾出来るんだろ?

 まっ、いいや……する気も起きないし。


「今回は興が削がれた……この場で解散としよう」


 俺が指をパチンと鳴らすと、残された全員が会議室に戻ってくる。

 またも、抵抗を許さず転移させた事に残された幹部が少し動揺していたが、転移魔法ってそんなもんだろ。


「エリー、4体の代わりを早急に手配するように」

「はっ、かしこまりました!」


 いやぁ、それにしても気持ち悪いやつが4体も減って良かったわ。

 次はベッピンさんの人型が来るといいなぁー。


***

 次の日、謁見の間で新たな4人の紹介がされた。

 そして、あまりの気色悪さに絶句する。


「蛞蝓族のサイファです」


 でかい蛞蝓……俺蛞蝓嫌い……てかあのチューブみたいな口とかマジないわー……タコの方が全然良いんですけど。


「アメーバ族のエルです」


 蛞蝓と何が違うの? てかスライムに人間の顔が付いてるんだけど……しかも地味に美形な所が余計に気持ち悪い……蛇頭の方がましだっつーの。


「チチカカミズガエル族のエリザベートですわ」


 なにこの蛙? もはや形状が意味不明なんですけど……蛙の可愛らしさ皆無というか不気味な生物だし……


「ミイラ族のアルファブラッドと申します……」


 包帯巻こ? なんで素顔さらしてんの? 腐ってないけどさ……腐ってないけど……顔怖いよ……


 どうしてこうなった……

 新たな幹部4人を見て溜息を吐く。

 まともな人型が少なくて辛い。

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