間に挟まった

下降現状

間に挟まった


 世の中、考えてもわからないことなんか幾らでもある。そこまで頭がいいってわけじゃない俺の場合、そういうことはたくさん有る。

 その中でも、今のこの状況は、トップクラスなわけだけれども。

「どうしたのぼーっとして?」「私達と一緒だと、退屈?」

「いやそういうわけじゃないけど」

 両脇から聞こえてくる同じ声音に対して、僕はそう返した。

 そう、両脇。僕は今、屋上のベンチに座って、両脇を女の子に挟まれている。

 僕を挟んでいる女の子は、客観的にはものすごく可愛らしい二人だ。スラっと伸びた足とか、白い肌とか、整った顔立ちとか。

「ねぇ、どこ見てるの?」「えっち」

「あ、ごめん……」

 両脇の彼女たちに向かっていう。その可愛らしい顔は瓜二つ――というより、ほぼほぼ同じものだった。

 なにせ、僕の両脇に座っている彼女たち――綾辻涼花さんと綾辻舞花さんは、双子なのだから。

 見た目は当然瓜二つ、性格もそこまで変わっておらず、行動する時は大体二人一緒。髪に付けたリボンの色でほとんどの人間は二人を見分けているくらいだ。

「ねぇ、何考えてるの?」「やっぱり退屈なの?」

 そんな事を言いながら、僕の右にいる涼花、左にいる舞花は、じりっと距離を詰めて――というか、俺の腕に自分たちの腕を絡めて、制服を胸越しに押し付けてくる。

「だ、だから、そんな事無いって!」

 うちのクラス、どころか、うちの学校で同率一位の美人姉妹に、なんで両隣に座られて、こんな事をされているのか。

 ――考えても仕方ないし、聞くことにするか。

「逆に聞くんだけれど、綾辻さんたちはなんで僕をこんな所に呼び出したの…?」

 そう、そもそも、僕がこんな所に居るのは、この二人に屋上に呼び出されたからだった。なんだろう、何かやったっけ? なんて事を思いながらここに来た僕は、何故か二人にここに座らせられて、こういう状況になってしまったのだ。

 僕の問に、双子は首を傾げながら言う。

「分からない?」「分からない?」

 さっきよりもっと身体を寄せて、両耳に囁き声を流し込んでくる。耳が擽られているみたいで、ぞわぞわする。

「わ、わかんないって……」

「本当にわからないの?」「実は鈍感なの?」「違うわ涼花、きっと私達の口から言わせたいの」「あら舞花、私達辱められてしまうの」

 そんな会話を僕を間に挟みながら続けて、二人はくすくすと笑う。言っていることを、自分たちでもまるで信じていない。僕を使って、楽しんでいるみたいだ。

「いや、そんなつもりはないんだけど、実際、どういうつもりなの……?」

「人の居ない所に男の子を呼び出して言うことなんて」「一つしか無いと思うのだけれど」「言われないとわからないかしら?」「ちょっとがっかり」

「……え?」

 え、そんな分かるのが当然なの? 僕、そんなに駄目な奴? ……駄目かもなぁ。

「しょんぼりした」「ちょっと可愛い」

「えぇ……」

 くすくす楽しそうに笑う二人。分からない、この二人のことが、分からない。

「しょうがないから、教えてあげる」「察しが悪い君に、教えてあげる」

 必ず、輪唱するようにして二人は言葉を連ねていく。まるで、打ち合わせでもしているみたいだけれども、きっとそんなことはないんだろうなぁ。

「私はね」「私はね」「君のことが好き」「だぁいすき」

「……えっ?」

 甘く、蕩けるような声音で告げられた言葉に、僕の頭は完全に停止した。すき……?

「告白だよ」「私達は君のことが大好き」「それを言うためにここに呼び出したの」「ありがち?」

「え、でも、二人同時なんて、僕はどうすれば……」

「あれ?」「どうしてそうなるの?」「ああそっか」「そう考えちゃうのか」「うふふ」「真面目だよね」「でもそういうとこ好き」「だぁいすき」

「え、ええ……」

「君が気にしてるのは、どちらを選ぶのか」「っていうことなんでしょ?」「そんな事気にする必要ないよ」「だって、選ばなくても良いんだもん」

 え、なんでそうなるの? と思わざるを得ない。

「どういう意味なの?」

「二人一緒でいいよ?」「二人一緒がいいの」「だから、選ばなくていいよ」「私達二人と付き合って?」

「え、それでいいの……?」

 ちょっと独特な世界観をお持ちの娘達だとは思ってたけど、なんだかちょっと本物だったらしい。

「いやなの?」「嬉しくないの?」

 そう言って、二人は眉をひそめる。いかにも悲しそうで、そんな表情をさせてしまったことに、ちょっと胸が痛む。

 それに――

「それはちょっと、嬉しいけど……」

 可愛い女の子二人同時なんて、正直うれしいに決まってる。こうして挟まれているだけで、大分幸せだ。

 僕がそう言うと、二人は揃って頬を緩めた。二輪の向日葵が咲いたようで、一気にその場が明るくなる。

「だったら」「嬉しいな」「私達二人が」「今日から君の恋人だよ」

「えーっと、それはそれとして、聞いておきたいんだけど」

「なぁに?」「なんでも言っていいよ?」

「二人はどうして、僕のことがその……」

 好きなの? とちょっと聞きづらくて、口ごもる僕。そんな僕を見て、二人はくすくす笑う。

「それはね」「それはね」「私達普段と違うところ有るんだけど」「言ってみて?」

「違うところ……」

 そんなの、ひと目で分かる。

「リボンの色、普段と逆だよね?」

 僕がそう言うと、二人は嬉しそうに笑みを浮かべた。

「そういうところが」「すき」

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