第17話 日常
「にしても志雄さん、ハラハラするから無理はやめてくれ」
「それを悠馬が言うのかしら?」
おちょくるように志雄へ声をかけた悠馬に夏美が恐ろしい笑顔を向ける。
悠馬は思わず目をそらしてしまう。心の中で「リヴァイアサンの方がマシなんじゃないか?」と思うほど怖かった。
ビビりまくっている悠馬をよそに志雄がうなり声のような低い声をだす。
「悪かったなぁ。俺様としたことが焦っちまった」
「は?」
「ああ? あんだその間抜けた面は」
「総督が……反省してる?」
失礼すぎることだが、愛理が驚愕を言葉にしてしまう。志雄はいつもと打って変わり、声を荒げない。
「ああ、俺様だって反省くらいする。テメェらガキとは年季が違ぇんだよ」
今度は言葉も出なかった。夏美が呆れ返った顔をしているのがラルアには印象的だった。
三日。それが悠馬の入院期間だった。志雄は少し長いが五日ほどの入院期間でまだ入院している。話した結果、愛理と悠馬、そしてラルアが会議に出席し、会議の内容を志雄に報告することになった。
会議は難航し、各部隊が防衛網を設置することや、対処などを決めるだけとなった。決定権が全て志雄に委ねられる状況のため、いちいち確認しにいかねければならんかった。
愛理と悠馬の二人は特に問題なく会議に参加できたが、ラルアは終始オロオロと下を向くしかできなかった。
疲れ果てて悠馬の部屋にたどり着いたのは深夜。日付が変わるかどうかというところだった。
深夜だというのに愛理は豊満な胸を揺らしながら鼻歌を歌っていた。
「いやー! つっかれたぁ!」
「深夜にうるさいぞ愛理」
「でも疲れたじゃん! 悠馬はそういうの表情に出さないからわかんない!」
理不尽に文句を言われた悠馬は「?」という表情を浮かべるが、愛理には何処吹く風。ラルアと楽しそうに談笑している。
「楽しみだね?」
「うん……。緊張する」
悠馬の頭にははてなマークが浮かび続けていたが、部屋の扉を開けた瞬間納得した。
備え付けの単調な色のシューズボックスが落ち着いた色のものに変わり。風呂場につながる扉には使用中と書いてある可愛い看板がつけられていた。
部屋に入っていくとタンスやカーペット。様々な調度品でシックにまとめられていた。
悠馬は驚愕に目を見張りながら二人を見る。
「こ、これって……?」
「ふっふーん! 驚いた!?」
「ああ……。だって、何もなかった部屋にこんな……。た、高かった人じゃないか?」
珍しく悠馬はオロオロと部屋を見回す。誇らしげな愛理と不安げなラルア。ラルアを見て戸惑いながら悠馬は問いかける。
「ラルア、ラルアもやったのか?」
「……っ。うん」
肩を震わせながら頷くラルアの頭に手を置いて笑う。
「ありがとう。びっくりしたよ。あんなにつまらない部屋だと女の子には辛いんじゃないかと思っていたんだ」
驚いたラルアが勢いよく顔を上げて悠馬の目をまん丸の目で見つめる。ふっとラルアが心底安心した幸せそうな笑顔で笑う。優しく笑いかけた悠馬が愛理の手を掴んで部屋を出ていく。
「ラルアは部屋にいてくれ」
「あんっ。乱暴!」
幸せそうなラルアの顔をもっと見ていたいとも思ったが、それより聞かなければならないといつもより足音を鳴らして部屋を出ていく。扉を閉めて狭いキッチンに入る。
「ち、近くない?」
「あ、ああ、すまない」
ほぼ触れ合うような距離から半歩離れる。それから悠馬は真剣な表情になり小声で愛理を問いただす。
「こんな調度品どうやって手に入れた?」
「怖いってー。別に変なことはしてないよ? ラルアちゃんとお買い物に行って買ってきた」
「買ってきたって……。お前、調度品なんて俺らの給料で買えるもんじゃないだろ」
「私は貯金がありますぜ。……んーだいたい付きのお給料の10倍くらいかな?」
言葉を失う。悠馬の部屋の調度品のために彼女は給料の10倍を出したのだ。貯金した金を使って。
「返す」
「へ? いいよー、ラルアちゃんのためだもん」
「いや、半分は出させてくれ。じゃないと俺の気がすまない」
真面目な表情の悠馬を見て愛理は頬を膨らませる。
「いらないっ。私は私のしたいと思ったことをしたんだよ? それを否定するのは冒涜だよ!」
今度は悠馬がたじろぐ。だが、しかしと言い淀む悠馬に愛理がさらに言葉を続ける。
「悠馬がいつも頑張っていることを知っているから私は日頃の感謝と、家で少しは休んで欲しいと思えるように買ったんだよ? できればこんなことは言わせないで欲しかったな」
「…………すまない」
誤った悠馬を寂しそうに見つめる愛理。悠馬はその表情の意味がわからず僅かに眉を寄せる。
「悠馬はさ、まだリヴァイアサンに狙われているってどう思ってる?」
突然真面目な声音で言葉を投げかけてくる愛理に目を見張る。
「どう、か……。正直怖くないと言ったら嘘になるな。次は勝てるのか、一人も犠牲者を出さずに撃退したのは奇跡だ。次も同じとは限らない。そう思うと、怖いな」
「……私は、悠馬がいなくなってしまいそうで怖いよ。でも、私にはどうしようもない。だから、出来る限りのサポートをさせて欲しいんだ。どうせこの時代に買い物なんてほとんどしないんだから」
「そうか……。すまなかった。ありがとう」
狭いキッチンに一瞬静寂が落ちる。だが、愛理が悠馬を避けて扉を開けて部屋に戻っていく。
愛理とラルアの笑い声を聞きながら悠馬はふと、リヴァイアサンを思い浮かべる。
(リヴァイアサンは強かった……。あれが”龍王”)
震える手を見つめて顔を上げる。開けっ放しの扉の向こうに見える、愛理とラルアを見て悠馬はまぶしそうに目を細める。
「悠馬ー、何突っ立ってんのー?」
「ああ、今いく」
次の日悠馬の部屋へ騒音のクレームがきた。
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