こども会社は大人出入り禁止

ちびまるフォイ

こどもげないおとなたち

こども株式会社に入ると、受付から子供が出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。ごよやくはありますか?」


「いえ、ちょっと気になったので見に来ただけなんですけど」


「だいじょうぶですよ。こども会社はだれでもけんがくじゆうです」


「ちなみに、君は何歳なの?」

「じょせーにねんれいをきくのはしつれいですよ」


「す、すみません」


受付の女児に案内されて会社を見て回わる。


子供の会社と聞いたので、職業体験ができるものかと思っていたが

オフィスの中は完全なる仕事場で子どもたちはそこで仕事をしていた。


「すごい……どこも子供が仕事しているんですね」


「こども会社ですから」


「それで、保護者の方は? それに監督する大人は?」


「そんなのはいませんよ。ここはこどもがりーどする会社だもん」


「そうなんだ……」


はじめて見たこども会社のことをSNSで発信すると、

またたくまに拡散されて炎上に至る着火剤になった。


「こどもを働かせるなんてかわいそうだ!!」

「学校にも行かせないで仕事ばかりさせるなんて!」

「子供を大人の都合のいい道具にしか考えてない!!」

「親の金かせぎに子供使うなんて、子供に対しての虐待だ!!」


ものすごい偏西風をも跳ね返すほどの批難の嵐が吹き荒れた。

もっともだと思ったので、子供会社に取材に行くことにした。


「君はこのこども会社で働いているんだよね?」

「はい」


「辛くない? 親にここで働けって言われたの?」


「おとなって、じぶんのきじゅんでふこうだときめつけるよね」

「え?」


「ぼくはがっこうにいかなかったの。ふとうこう。

 で、いばしょがなかったからここにはいってしごとをしたんだ。

 ぼくじしんがきめて、ぼくがすきではたらいているんだよ」


「お父さんお母さんは?」

「ぼくのやりたいことをしてほしいって」


こども会社で働く他の子供に尋ねても答えはほぼ同じだった。

誰もが大人の求める「普通の子供の成長ルート」から外れ、

自分の意志で仕事を選んで会社に入ったという。


「ところで、この会社では何を作っているの?」


「すまーとでばいすにたいおうしたしんきあーきてくちゃと

 みどるうぇあのばーじょんあっぷだよ」


「は?」

「おじさん……こんなこともわからないの?」


この意味がわかるようになったのは、

こども会社CEOが新製品をプレゼンしたときだった。


新製品は驚くほどの先進技術で大人たちの生活を一新した。


「もうこの端末がなくちゃ生きていけない!」

「これがIT革命か!!」

「かがくのちからってすげーー!!」


子供ならではの驚異的な学習力と柔軟な発想。

それらが世界を激変させる製品を作り上げた。


「ふ、ふん。所詮は子供のラッキーパンチだ」

「我々大人の底力を見せてやる」

「あいつら特許取ってないぜ。こういう甘さは子供だな」


大人たちは子供の作り出した驚異の機器を調べ、

似たような製品を横並びに展開した。


子供と大人の技術戦争がはじまった。



……かに思えた。



「やっぱり、こども会社の方がいいよね」

「別の会社が作ったのってなんかダサくない?」

「すぐ壊れるんだよね。やっぱり正規品がいちばん!」


結果はこども会社の圧勝。


そもそも二番煎じで本家を超えることが難しいうえ、

こども会社は次から次へとおしゃれでカワイく高機能を実践する。


一方で、後発の大人たちはオッサン臭いレトロなデザインで人気を分断させてしまった。


「おとなってあれでしょ? ぼくらこどものあとおいしかできないやつらでしょ?」


こども会社の社員の一言。

もはや子供にとっての大人は知恵や経験が積もっただけのポンコツ扱い。


これには大人側も失われていた競争心を取り戻した。


「子供ごときに舐められてたまるか! 絶対に超えてやる!」


「社長! その言葉はもう三度目です! いっこうに勝てないじゃないですか!」


「それは……その……」


「あいつら子供の柔軟な発想をマネしたってできるわけないんですよ。

 我々大人は年を経るごとに常識っていう先入観ができているんですから」


「だ、だったらこっちも子供の力を借りればいいじゃないか!」


大人たちは「育児両立」という名のもとに、

会社に子供を連れてきて「職業体験」できるようにした。


実際は職業体験と言うなの実務作業になるが。


これで子供の力を借りることができると息巻いていた。


「社長、ぜんぜん子供が興味を示してくれません!

 みんなこども会社のほうに就職してしまいます!」


「ええ!? なんでだ!? 子供が好きな駄菓子いっぱい買ったのに!」


「駄菓子って……どの世代を狙ってるんですか。

 あっちは蛇口からジュースが出るんですよ」


「差がわからねぇ!」


こども会社は子供により運営されているので、

「なにをすれば子供にとって嬉しいか」が自分の目でわかる。

だから会社の環境はこどもが楽しい場所として整備されている。


けれど、大人の作った子供向けの施設はどれも

「こういうのが好きだろう」という押し売り感満載で子供は寄り付かなかった。


「もうダメだ……子供の力も借りることもできないし、

 このままいつまでも煮え湯を飲ませられ続けるのか……」


「しゃ、しゃちょう!!」


「今度はなんだ……? こども会社のアピールはもういいぞ」


「ちがいますよ! 潰れたんですよ、こども会社が!!」


「なんだって!? あんなに利益が出ていたのに!?」


「理由はわかりませんがこれはチャンスですよ、社長!」

「ああ! この機を逃してたまるか!!」


こども会社跡地に向かうと、すでに職を失ったこども達が帰るところだった。

他の大人や企業たちはこの人外レベルに優秀な人材を引き入れようと、

目を「¥」にして必死に勧誘を続けていた。


「うちにくればいくらでもお金をつんであげよう!!」


「君の実力こそ我が社で一番発揮できるはずだ! ぜひ我が社に!!」


「君が来てくれれば世界の発展に貢献できる! 一緒に世界を取ろう!!」


「君が我が社で働いてくれるならどんな要望でも答えてあげるよ!!」


大学サークル勧誘以上の必死さでくらいつく大人たち。

群がる大人の人垣にこどもは冷めた目で答えた。




「おじさんたち、まえにぼくらへ外であそべって言ってなかった?」



大人たちの目が一斉に泳ぎ、もう何も言えなくなった。

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