第2話魔法の糸の終わり

 

 ミミミと旅をしていて、私は徐々に気付き始めた。ミミミを縫った糸が旅をするたびに減っていく、ミミミのほつれた治療のために。その不思議な色とりどりの一本の糸が、この小さな糸巻きからなくなった時がきっと

「お別れの時なんだ」と。


「糸ちゃん、違う色で縫ったらだめだよ。僕の力が無くなって、いくら夢の中でも、元に戻れなくなってしまうかもしれない」


 ミミミからそう言われて、私はとても大事に糸を使うようにした。ピンクの横の白と水色の横の白をキチンと分けてとっておいた。


「上手になったね」とミミミはほめてくれたけれど、糸巻きの木が糸の隙間から見え隠れしだしたとき、私はずっと考えるようになった。


「ミミミとお別れするときには、たくさんお礼を言わなきゃいけない、ありがとうって、いっぱい言わなきゃ。ミミミが困るようなことは絶対に言っちゃだめだ」


何度も考えて、ミミミがいないところで学習発表会の劇のように練習もした。でも・・・いざその時がやってくると、やはり私は小学生だった。



「ミミミ! 行かないで!

 ずっと一緒にいて! 

 旅は出来なくてもいいから!

 約束したよね

 柿の実がなったら一緒に食べようって

 お願いミミミ! 」

 

私はありったけの言葉でミミミを引き留めようとした。「言ってはいけない」と心の中で誓った言葉さえ口に出してしまった。


「ごめんね、糸ちゃん、約束を守ってあげることができなくて」


悲しそうな、困ったような顔をお別れの日にさせてしまった。


それから一度も、夢の中ですらミミミと会えていない。久重(ひさしげ)さんとも。彼と会えたら少しは心が軽くなるかもしれないけれど、きっと

「ミミミと会いたい」と言ってしまうことを自分も彼もわかっているから。


 最後の時にありがとうという言葉が言えたのかも覚えていない。

それが私の「後悔」となってずっと残っている、そのまま、中学生になり、高校生になった。



 でもやっと私は心の整理がついた。

毎年毎年、小学校五年生は生まれてくる、きっとその誰かとミミミは旅をしている、と思えるようになった。そう考えられるようになったのは、私が来年「おばさん」になることが分かったからだ。お兄ちゃんにもお姉ちゃんにも赤ちゃんが生まれることになっている。


「ミミミに家族を作ってあげよう、まずは彼女から、さあ、かえって早速始めなきゃ」私は自転車を押し始めた。


「ミミミって・・・ちょっとふっくらした女の人が好きだったよね」


楽しく思い出しながら、自転車をこいだ。



私の大切な秘密のお話、あなただけにこっそり教えてあげようと思うけれど、

でも最初は少し悲しい所から始まるの。




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