約束と願いと
高山 響
永久と優香
「パパってママのこといつから好きだった?」
休日にテレビを見ていると息子と娘がいきなりそんなことを聞いてきた。
「そうだなぁ……」
俺は子供たちを膝の上に乗せ彼女のことを好きだと自覚したときのことを思い出した。
__________
それは、梅雨に入って間もない頃のある雨の日の事だった。
『今からそっちに行ってもいい?』
家でテレビを見ていると携帯の着信音と共に画面にメッセージが表示された。送ってきたのは幼馴染の優香だった。
『いいけど、どうした?』
『会いたいからじゃダメ?』
『まぁ、いいけどさ、雨降ってるのに来るの?』
そのメッセージを送ったとに外を見ると外は雨が地面に叩きつけられる音が激しく鳴っていた。
『いいじゃん、それとも永久がこっちに来てくれる?』
『ヤダ、こんな雨の中で歩きたくない』
『あー、だろうね』
『はぁ、迎えに行こうか?』
急に優香の態度が冷たくなったように感じ、そう尋ねると少しの間を空け意固地になってるような回答が返ってくる。
『別にいい!』
「はぁ……なんだそれ……」
彼女の返信に思わずため息が出る。
優香とは家が近く親が仲良かったのもあって小学校中学年頃までは一緒に遊んだりもしていた。遊ばなくなった理由はクラスの人たちに茶化されたのが恥ずかしかったからなのを覚えている。今となってはくだらないことだったと思う。ただ、俺はそんなくだらないことで遊ばなくなったのを後悔していた。
中学、高校と進学するたびに彼女は多くの人に告白されていた。ただ俺はそれがとてつもなく嫌だった。今まで傍にいた幼馴染ともう一緒にいれないんじゃないかという気持ちがどんどん大きくなっていたからだと思う。
俺はある時彼女に一つ訪ねたことがある。
「もし、俺がお前のこと好きって言ったらどうする?」
彼女はその問いに顔を赤くして黙っていたので俺が冗談というと彼女はただ一言
「そうだよね……」
そう呟いた彼女は俺と目を合わせずその日は帰っていった。
あれから数週間連絡をしても無視をしていた彼女からの連絡に俺はどこか期待していた。
テレビを見ながらボーっとしていると携帯電話の着信音が鳴り響く。画面に表示されたのは母親の名前だった。
「もしもし?」
「永久!今どこにいる!?」
母親の焦っているような声にどこか嫌な予感を胸に抱く。
「家だけど、なにかあった?」
「優香ちゃんが事故にあったって!」
「は……?」
俺は母親の言葉を理解できなかった。なにかの冗談だと思ったから……
母親が電話を切った後も俺の頭の中ではずっと彼女が事故にあったという言葉が響き渡っていた。冗談であってほしい。そう思いながら、彼女が居なくなるかもしれないと考えたら涙が溢れてきた。
「永久!病院行くよ!」
玄関から母親の声が聞こえ、俺は急いで車に乗り込む。
車の中で母親がなにか言っていたが何も頭の中に入ってこなかった。頭の中は彼女に死んでほしくない。ずっと傍にいてほしいという考えでいっぱいだった。
病院につくと彼女の両親と医者が病室の前で話していた。俺は彼女の両親に軽く挨拶をして、病室の中に入る。
「優香……」
彼女は頭に包帯を巻きベットで寝息を立てていた。手を握ると温かみがありそれが彼女が生きていると実感させてくれた。その瞬間に俺は安心したのもあり、治まっていた涙が再び流れる。
「優香……俺さ……お前のこと好きだ……だから死なないでくれよ……」
その言葉を発した瞬間彼女は俺の手を握り返した。彼女の顔を見るとニヤニヤしたような表情で俺を見ていた。
「へー、永久は私の事好きなんだ」
彼女はニヤニヤしながらもどこか嬉しそうな顔をする。
「いつから……起きてた?」
「えっと、永久が病室入ってきたぐらい?」
「起きてたなら反応ぐらいしろバカ!」
俺は泣きながら彼女にそう言うと彼女は俺の手を引き寄せる。身体が彼女の方に倒れこむと彼女は俺のことを抱きしめてきた。
「私も永久のこと大好きだよ」
俺はその言葉を聞き尚更泣いた。彼女は俺が泣きやむまで俺の頭を撫でていた。
______________
「パパ?」
息子と娘が聞きたそうに俺の顔を見ているが思い出すと気恥ずかしくなった。
「内緒かな?」
俺がそう言うと彼女が俺の隣に座る。
「パパがねー初めてママのこと好きって言ってくれたのはねー」
彼女がニヤニヤしながらあの時のことを子供たちに話そうとするので俺は彼女にキスをして話させないようにする。
「パパとママ、ズルい―」
子供たちがそう言うので彼女と顔を見合わせ笑いながら子供たちの頬にもキスをする。
子供たちは笑顔で俺たちの頬にキスをし返してきた。この時間がずっと続いてほしいと思えるほど幸せな時間だ。
______________
あの頃から数年経った今でも俺はあの時のことを今でも鮮明に思い出せる。あの時の気持ちも心配も。
だから俺はこれからも彼女と子供たちと幸せにいれるよう心の底から願った。
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