日々

となえるかもめ(かわな)

1.ノック

 彼は毎日くじかれる。その望みが叶えられた場面を、私は見たことがない。

 くじかれていることに彼は気づいているだろうか。成長途中の骨しく細い体で、旅行鞄のような学校指定の大きな鞄を肩にかけ、腰で支えて歩いている。背中は丸い。


 ドンドンドン

   ドンドンドン

     ドンドンドン


 7時54分、ドアを叩く毎日のリズム。あのドアの向こうに、どんな友人がいるのだろう。ドア横の窓から女性の声がする。


「ごめんなさい、先に行ってて」


 母親だろうその人も、毎日くじかれている。くじかれきって、毎日のリズミカルなノック音に、申し訳無さも感じにくくなっているだろう。

 丸めた背中を覆うような大きな鞄。どんな朝でもくじかれた彼の表情は、私からはよく見えない。


 毎日すれ違うだけの私は、58分の地下鉄に間にあうように、ハイヒールを鳴らす。あのノックを止める日が、いつかは来るのだろう。どんな友人から、どんな理由で、いま彼は離れられないのだろう。


 毎日くじかれる繰り返しが、成長途中の彼の今後に、どんな影をも落とさずにいてくれることを願う。


―――――――――――――――――――

1年半前に書いていた、近所の中学生のこと。

最近は見かけなくなりました。どんな変化があったのか、知る由もなく日々が行きます。

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日々 となえるかもめ(かわな) @toNae107

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