第96話 嘘つき男の罪滅ぼし
ひとりぼっちになって一ヶ月が経った。
最初は状況が飲み込めず、夢だと本気で思っていた。
寝て起きて、寝て起きて……それでも寝て起きて。
日に日に今いるこの世界が現実だと悟った。
「いらっしゃいませぇー」
「トリプルイチゴバーガーとポテトLサイズをテイクアウトでお願いします」
「かしこまりましたぁ。ただいま期間限定の──」
「結構です。すみません」
学校が終わるとその足でバーガー屋さんに寄るのが日課になっていた。
飲み物は注文しない。自販機で買うから。
──ピッ、ガシャン。
そうして何となく、この場所に来る。
バーガー屋さんから徒歩10分。噴水、木のベンチが並ぶ憩いの場。
この場所で一人。何をするわけでもなく毎日飲んだくれていた。……メロンソーダで。
一人で座るベンチは広々としていて、くつろぐには十分過ぎるほどだった。
こうしてここで、ボーッと過ごす。ただただボーッと。
夜遅くに帰り、家では寝るだけ。
そうしてまた学校に行く。
休日は朝から晩まで、ここでボーッとして過ごした。
日がな一日を消化するだけの、なにもない空っぽの毎日。
それでも、学校に通うのには理由があった。
今もこうして、この地に留まっているのは明確な目的があるからだ。
俺にはやらなければいけないことがある。こうなったからこそ、出来ること。
それは、ちほの笑顔を守ること。
この世界でのちほはまるで別人だった。誰にでも分け隔てなく笑顔を振り撒き、男子とも楽しそうに喋っていた。
その姿はキラキラしていて、とても楽しそうだった。
でも、それらは全て崩壊する。
”この世界”ではなく、どの世界でも入学当初は楽しく毎日を過ごしていたんだ。だってこの世界は、何も変わらない過去に過ぎないのだから。
助けられるだけの情報は持っている。未来で既に聞いているから。
今は五月二日。事件の始まりは六月十日。
始まりの日さえ叩いてしまえばどうにかなるはずだ。
叩いた時点で未来は変わる。その先は予測不能。
失敗は、許されない。
──ちほには散々嘘をついて悲しませた“未来”がある。
こんなことで許されるとは思っていない。単なるエゴかもしれない。
それでも、最後に彼氏らしいことをしよう。
それが、嘘つき男のせめてもの罪滅ぼしになるのなら。
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