第5話


『クソがッ!!』

 俺は部屋の壁を蹴った。殴った。暴れた。そして、妖精さんにストップを掛けられた。



『馬鹿たれ! グーパンしようとしたじゃろ!』

 俺がイラつく横で、妖精さんは激おこだった。


『やるならパーじゃ! 引っ叩くんじゃ! 女の子をグーで殴る男はな、終わっとる』

 両手を俺に突き出し何度かグーパーしパーで止めた。

 小馬鹿にされているような身振りだが、不思議と落ち着きを取り戻した。


 しかし、グーはダメでパーならOK。感慨深いな。


『わかったよ妖精さん。思いっきり引っ叩けばいいんだな』

『はぁ。もう好きにしろ。グーパンじゃなきゃええ。クソ女って事に関しては同意じゃからな』


 呆れ口調かと思えば熱い口調になり、続けた。


『じゃが、理由がなきゃダメじゃ! 引っ叩いてスッキリしてタイムリープ! こういう使い方はあかん!! 絶対にあかん!!』

 何度も言われている事だ。タイムリープの悪用は厳禁。何故ダメなのかは教えてくれない。禁忌にでも違反するのだろうか。


 結局俺は、白石を殴り損ねて昨晩に来てしまった。この気持ちはチャージと考えよう。

 攻略したらズタボロに、そうだ。ボロ雑巾のように捨ててやろう。覚悟しとけよ白石。



『リク! リク!!』

 妖精さんが痛々しい目で見てくる。どうやら怪しい笑みが溢れていたようだ。いけない。いけない。



『おーけーだよ。それで、情報はどう?』

『クソ女って事はわかったがのう。まだまだ足りんのう』

 妖精さんは人差し指を上に突き出し、分析結果を話してくれた。


『収穫があったとすれば、白石ちゃんの隣に居た子じゃな。四天王の1人、二見ちほにいみちほじゃ』


『ははっ。四天王ねぇ……』

『笑うでない! まったく、秋月ちゃん以外には興味ないんじゃから……』


 呆れつつも妖精さんは続けた。


『白石ちゃんに近づく為に二見ちゃんと付き合うのじゃ。あの様子、ひょっとしたらイチコロかもしれん』


『近づくためだけに付き合うのか? 別にいいけど……すごい遠回りをしている気が……』


『なにを言うか! 最短ルートじゃ! 二見ちゃんと付き合う事でリクの評価も上がる。一石二鳥じゃ!』



 興味無さそうな俺を見て、妖精さんが頭をコツンと叩いてくる。 な、なんだ?!

『あほー!! 四天王の二見ちゃんをイチコロじゃぞ? こんな奇跡無いんじゃからな!』

 いや、本当に興味ないんだよ……。誰だよ二見って。

 とは言える訳も無く。俺は静かにうなずいた。



『リクが白石ちゃんにドンッしてる時にときめいておったからのう。ドンッの1つや2つくれてやればいけるじゃろ! あれは……ときめき系ドン女子じゃ!』


『はいはい。オーケイ。ドンッやりますよ』


 随分と遠回りをしている気がする。俺と秋月さんとの間に計り知れない距離がある事を、嫌でも実感してしまう。




 ──イマイチ納得は出来ないが、二見ちほにいみちほとかいう女の攻略を始めることにした。


 

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