第3話
『走れ走れ〜!!』
『はぁはぁはぁはぁはぁはぁ』
俺は河川敷を走っていた。地獄の肉体改造を行っている。
細マッチョ。賛否は分かれるが、やはり武器である事に違いはないだろう。
俺はどん底から這い上がる。高校一年、三学期から。
『死ぬなよ? 辛いからって死にたいとか思うなよ〜?』
『し、死にたい……』
『す、ストーーップ!』
俺の死にたがりーを良い意味で妖精さんは誤解をしている。死にたいって言うと優しくしてくれるんだから、感慨深い。
『空手ポーズやっとくか! リフレッシュじゃ!』
『えいえい! えいえい! えいえい!』
『秋月パワーチャージ!! ドリャァァァァァ!』
夕焼けを背に行う空手ポーズ。
俺の肉体改造は続いた。
◆
そして、一年の三学期も終わりニ年に進級。俺はわがままボディと見事さよならをし細マッチョを手に入れた。
鍛え上げた筋肉のおかげか、クラス内カーストは上の下。末端だが上に数えられる程になっていた。
しかし白石とは同クラではない。そして秋月さんとも。
高校ニ年生。何してたっけ? 特に思い出せない。
秋月さんと同じクラスになれるのは三年生のみ。
俺はずっと数十年間に渡り、三年生を繰り返して来たんだ。
……まぁ、これからする事は一つ。白石の攻略だ。
俺は秋月さん以外の女性には全く興味がない。
つい最近まで名前を聞いても誰だかわからなかった。所詮はミジンコなのだ。
◆ ◆
──進級を終え、新しいクラスにも馴染んできた5月。俺たちは白石攻略を開始した。
『とりあえず、恋文でも出しとくかぁ? 何度でもやり直せばええ。ジャブじゃ!』
『こ、恋文?! 今時それは……』
『いやいや、だからこそじゃ! ピュアっ子ならこういうのが効くんじゃ。どれ、妖精さんが書いてあげよう!』
人差し指をフーンフーンと動かし、ペンが浮き、勝手に動き出す。何度見てもミステリアスな光景だ。
【一目惚れでした。愛してます。放課後、裏庭で待ってます。
三組の八ノ瀬陸】
『これでええじゃろ!』
ドヤ顔で両手を腰に添え、えっへんと今にも言い出しそうだ。
これはダメ。などと言える雰囲気ではない。何度でもやり直せばいいんだ。とりあえず従っておこう。
──ベタだが、ラブレターを白石の下駄箱に置いた。
そして裏庭で待った。しかし……
『遅い。遅いの〜? 今何時じゃ?』
『18時……』
◆
20時まで待ったが、白石が来る事は無かった。
『うける!! リク、こりゃ相当にヤバいぞ!!』
妖精さんは楽しげだ。
ごめんなさいと断る事すらしないのだから、全く相手にされていないのは明白。
『別の方法で告るとするか!』
『えっ? また告るの?!』
『当たり前じゃ! なるべく内面がみたい。やはり告白をして揺さぶるのが手っ取り早い』
ごもっともだ。俺たちは今日の昼休みに戻る事にした。
〝パチンッ〟
◆
「おいおい〜いきなり立ち上がってどうしたよ?」
杉山が驚いたような顔でこちらを見ている。
あ〜、ここは学食か。俺は飯を食っていたのか。
男友達との何気無いやり取りは嫌いでは無いが、何度もやり直すと毎回同じ事ばかりで萎えてしまう。
タイムリープの代償と言うのだろうか。次第に日常を楽しめなくなる。
仲良くなればなった分だけ後悔をする。三年生を繰り返し嫌って程、経験をした。
『この世界はどうせやり直すからのう、飯なんか食わんでもええぞ?』
そしてコレだ。今、飯を食おうが杉山に気を使おうが何をしようが、この世界でのやり取りは無かった事になる。
妖精さんの言う通りなのだ。
「杉山すまん! ちとトイレ!」
不思議な目で俺を見つめる杉山を横目に俺は足早にその場を去った。
◆
『目の前で好きだの愛してるだの騒いでこい! とにかく押して押して振られて来い!』
妖精さんは俄然やる気だ。
秋月さん相手では、やはり退屈だったのだろうか。ここ最近の妖精さんを見ていれば嫌でも伝わってくる。
『白石相手にデレる事は1ミリも無いからな。プラン遂行は確実だ!』
俺と妖精さんは拳を合わせた。
〝空手ポーズ〟
さぁ、行こうか。告白をしに!!
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