第2話
昨晩の俺の部屋に戻り、既に一時間ほど経った。
会話もなくただただ静かな時間だけが流れる。
空気は少し重たく、どんよりさえしている。
『うーん。うーーん』
妖精さんは必死に言葉を考えているようだ。
大丈夫だよ。俺たちの戦いは終わったんだ。遠慮せず、言ってくれ……。
既読無視は最後の望みだった。それがあの結果だ。
どんなに時を過ごしても秋月さんの前ではデレてしまいプランを遂行出来ない。
もう、俺が秋月さんと付き合う術はなくなった。終わりなんだ。
ボソッと『やはりこれしか……』と不気味な笑みを零し、妖精さんが話し始めた。
『正攻法は全て失敗した。リク、覚悟を決めろ。ここから先は邪の道じゃ!』
え、終わりじゃないの?
『邪の道って?』
『うむ。説明しよーう! 新プランは既に出来あがっておるからのう!』
新プラン……だと?
『ふっふっふっ。じゃあ、プラン名を発表するぞ!』
ニヤニヤと笑みが溢れる。こんなにも意気揚々とした妖精さんは久しぶりだ。
『プラン名は、、、、
【ボロ雑巾計画】だ!
男としての〝箔〟をつけるのだぁ!』
ボロ雑巾……? はぁ?!
『リク! 学園四天王と付き合い、ボロ雑巾のように捨て振るのだ!!』
へ?
──ボロ雑巾計画。なかなかに面白い内容だった。
〝御砂糖ヶ丘学園〟内でのブランド価値の向上が目的との事。当然、今の俺にはブランド力など微塵も無い。
学園四天王の彼氏ともなれば、否が応にも周りは俺を評価せざるを得ない。
なるほどな。理にかなっている。
精神論ではなく己を磨けということか。
しかしこれは、なんともまぁ、
シルプルかつ簡単なプランだ!
『四天王とは言うたがのう、狙うは四天王にしてマドンナ!〝
『ふっ、誰だよそいつ。イージーゲーだな』
『た、戯けが! まったくあほなやつめ』
呆れた様子の妖精さん。だが、ルンルン気分は据え置きのようだ。
──妖精さんはわかっていない。俺にとって秋月さん以外の女性など、ミジンコも同然。
壁ドン床ドン朝飯前。
顔に唾を吐きかけろと言われれば躊躇なく吐きかける。
どんなプランであろうと遂行はお約束。
白石攻略なんてイージーゲーだ。
あくびが出そうだ。はぁ。
『時間が必要じゃのう。一年の三学期に戻るんでええか?』
『は? そんなに戻るの?』
俺は驚きあわてた。たかが白石の攻略だぞ。
『当たり前じゃろう。白石ちゃんからしたらリクはミジンコ以下じゃ。攻略は超SSS級難度じゃぞ』
『あはは』
乾いた笑いが出てしまった。
ミジンコ同然と思った俺の負けか。なんせ相手はミジンコ以下だからな。もはや存在していないのではないか。
『恋愛マスターのプリチーな妖精さんの言う通りにしてれば大丈夫じゃ! 任せろリク!』
拳を突き出される。小さな小さな拳。しかしとても大きく頼もしく見える拳。俺も妖精さんに拳を突き出す。
〝空手ポーズ!〟で拳を合わせた。
『行こう! 妖精さん!!』
『おうとも!』
〝パチンッ〟
──過去に戻る事は出来ても未来へは行けない。秋月さんと仲良くなった大切な時間を全て置き捨て、
高校一年の三学期に戻った。
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