第0.5話 現実でした。


 俺はいま、学校の屋上に居る。

 月明かりが綺麗で風が気持ちい。絶好の死に日和だ。


 秋月さんに振られた今、生きる理由など何一つない。


 この先の人生は灰色。


 死にほど好きだった。この想いに嘘偽りはない。


「《死》をもって君への想いを芸術にしよう。永遠に。この場所に。刻もう」


 卒業式の今日、秋月さんは新たな一歩を踏み出した事だろう。

 俺も一歩、踏み出す。地面の無いこの先の一歩を。


「さよなら秋月さん。ずっとずっと……愛してる」


 ──シュッ。


 俺は踏み出した。地面まであっという間。秋月さん、君に出会えて良かった。


 「本当に……ありがとう」




 〝パチンッ〟


『気に入った! 気に入ったぞ!』


 死んだのか……?


『その病み具合、人知を超えておる!』


 俺は確かに飛び降りた。地面は……?



『勝手に惚れて勝手に振られて、飛び降りる!』


 何が起こってる?

 死後の世界か?


『ヤンデレって言うのか? デレては無いから……ヤンヤン? プッ』


 ……??


『おーい、聞いておるのかぁ? 死にたがりぃー?』


 ……??


『ええーい焦れったい! このまま死ぬか、秋月ちゃんとやらと付き合うか決めろ! 今すぐ!』



 ははっ。意味がわからない。

 けど……そんなのは決まってる。


 「付き合いたい」


『よぉーし! よく言った!』



 〝パチンッ〟


 ◆ ◇



 あ……れ?

 ここは……俺の部屋。


 カーテンから漏れる日差しが眩し……。


 待て。生きてる……のか?!


 ………………。なんてことだ。生きてる。

 ベッドに横たわってる場合じゃない。早く死なないと。


『カカカ! そんなに急いでどぉーした? まぁーた死のうとしておるのかぁ?』


 この声……「誰だ?! どこにいる?!」


『目の前におるじゃろ!!』


「っっ?!」


 目を疑った。全長にして15cm程だろうか。綺麗な羽根の生えた女の子。

 小人と言うにはあまりにも小さ過ぎる。この生物は……妖精……? 


『いつまでボケーッとしておる! この死にたがり病み男が!』


 この声、爺様口調、何処かで……。

 あれは、夢じゃなかったのか?


 いや、今が夢……。うん、そうだ。そうだよな。これは夢だ。俺は確かに飛び降りた。あの感覚は夢じゃない。



『おーーい!

 拗らせ死にたがり〜?

 マーキング死にたがりぃ〜!

 病み落ち童貞〜、おーーい!』



「黙れ」ギロッ。


 イラつくな。夢にしては茶番が過ぎる。



『カカカ! 良い目をするじゃないかぁ! おまえの病み具合気に入ったぞ!』


「待てよ、夢だとしても度し難い。一つおかしいのがあったな。マーキングってなんだよ? 取り消せよ」


『そこなの⁈ 病み男はぶっ飛んでるのぉ!』


 こ、こいつ。いけしゃあしゃあと……夢のくせに。


『なぁ、死をマーキングしようとしたじゃろ?』


 人差し指を上に突き出し偉そうにしやがって。本当にムカつくなこいつ。


『いいか、八ノ瀬 陸やのせ りく。死だけはマーキングしてはならん。残された者の気持ちを考えろ』



 なんだよこれ。説教されちゃってるのか。

 もうシカトだ。構ってられない。夢だとしても。



『ストーーップ! 何処に行くつもりじゃ? 最後まで話を聞けい! 病み男がぁ!』


 あ……れ?

 体が動かない。なんだろ……感覚がリアル過ぎる。夢だろ? 悪夢か?



『はぁ。結論から言おう。タイムリープじゃ。過去に戻って秋月ちゃんと付き合えるまで面倒を見てやる』


「はぁ?」

 今なんて言ったこいつ?


『既に一年前じゃ。気付かないのか?』


 信じられるわけがない。けど、落ち着いた雰囲気で放たれるその言葉には妙な説得力があった。


 部屋を見渡した。……一目瞭然だった。

 恐る恐るスマホの日付を確認すると、去年の日付。


 急に現実味を帯びてしまったせいか、心も体もふわっとする。


 夢か幻か……現実か……わからない。


 でも、秋月さんと……付き合いたい。

 この想いだけは確かにここにあって、紛れもく本物だ。



『シャキッとせい! これから全力でサポートしてやる! 恋愛マスターにして、とってもきゃわぃぃこのプリチーな妖精さんがな! よろしく!』


 ◆


 ──死の直前に妖精さんと出会った。ここから始まるのはタイムリープ。


 何度でも過去に飛べる不思議な力を持った妖精さん。

 未来へ行く事は出来ないけれど、何度でもやり直せる。


 俺は、全力で秋月さんを攻略してみる事にした。

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