第27話 コウの決断 別れた道

 厳しい戦いが行われる。

 コウはよく戦った。ドラゴンを相手に恐れずに挑んでいった。

 でも、さすがに分が悪いよ。ドラゴンってゲームだともっと後に登場するモンスターでしょ?

 あたし達まだ三番目の町に着いたばかりだし、船も手に入れてないし、パーティーメンバーだって増えてないんだよ。

 この戦いは厳しすぎるよ。

 コウの受けるダメージが増えていく。高嶺ちゃんがいればすぐに回復出来るのに。

 逆にコウの当てる剣はドラゴンの鱗にはほとんど有効打になっていないようだった。

 何でこんなに強いモンスターがここで出現するんだろう。トロルが相手なら勝てていたのに。

 あたしは理不尽なゲームバランスに不満をつのらせるばかりだった。こんなの絶対におかしいよ。神様の代理としての権限を行使して修正しないといけない。

 あたしは動く決断をした。これ以上コウの傷つけられる姿を見ていられなかったんだ。


「コウ! あたしがやるわ。そいつから離れて!」

「ルミナ! 止めろ! 手出しするな!」

「大丈夫! あたしは強いんだから、任せて! スターフレア!」


 あたしが魔法を止めないと見ると、コウはすぐに離れてくれた。

 杖を掲げ、あたしはすぐさま呪文を唱える。宇宙から降り注ぐ極大の炎をドラゴンの背中に目がけて叩きつけた。

 燃え上がるドラゴン。だが、まだ倒れない。やっぱりここのゲームバランスおかしいよ。あたしは次の魔法の詠唱に移った。もう一発だ。

 コウが何かを叫んでいたけど、あたしの耳には聞こえていなかった。ただ神様の代理としての権限を行使してステータス全開の必殺攻撃を放った。


「ディメンションゲート!」


 あたしは次元の狭間へと繋がるゲートを開き、ドラゴンをそこへと吸い込みに掛かった。

 さすがステータス全開の魔法攻撃。門の引き込む力は強大でドラゴンといえど逃がしはしなかった。

 ドラゴンはよくもがいたがすぐに力負けしてすぽんと穴に吸い込まれ、消滅した。こうして戦いは終結した。

 これでもう大丈夫。もっと早く手を出しておけば良かったね。

 あたしは安心するのだが、コウの体は震えていた。


「ルミナ、どうして手を出したんだ……」

「だって、ドラゴンが相手じゃコウの実力じゃ無理じゃない」


 あたしは場を和ませようと気楽に言ったのだが、コウは吠えた。初めて見る彼の怒りの顔だった。


「無理って何だよ! ルミナは俺を導くために来てくれたんだろ! 俺を信用できなかったのかよ!」

「コウ……」

「俺のことを勇者だって言ってくれたじゃないか! 俺に任せるって、そう言ってくれたのはルミナなのに……」

「…………」


 あたしにはどう言っていいのか分からなかった。

 今になって自分の失敗を悟っていた。コウを導くためにあたしはこの世界に来て、今までも不必要に手を出すのは良くないと分かっていた。

 それなのに彼の戦いに手を出してしまった。

 コウは後ろを向いてしまう。どうしよう。あたしには言葉が出てこないよ。

 困ってしまって広場を見回していると、倒れたトロルの傍に鍵が転がっているのが見えた。

 コウも気づいたようだ。そっちを見て言った。


「姫を助けよう」

「うん」


 あたし達は気まずい沈黙のまま鍵を手に入れ、奥にあった牢屋に近づいていって鍵を開けた。その部屋の中でうずくまって座っていた姫が顔を上げて、あたし達はびっくりした。


「わたくしを助けに来てくださいましたの?」

「高嶺ちゃん?」

「タカネ!?」


 だって、その子って高嶺ちゃんにとってもよく似ていたんだもの。瓜二つと言っても過言ではないよ。

 あたし達はびっくりして、お姫様はしばらくポカンとしてお互いに見つめ合ってしまった。彼女の方が先に気を取り直して立ち上がって礼儀正しく挨拶してきた。


「初めまして、勇者様方。わたくしはサード王国の王女サカネと申します」

「サカネちゃん!? ああ、えっと、初めまして。あたしはルミナだよ」

「コウだ。サカネは何でモンスターにさらわれていたんだ?」


 何か似ているのですっかり友達に再会した気分。迫力が本物の高嶺ちゃんよりも控えめだったお蔭もあるだろう。

 コウもすっかり高嶺ちゃんと接するのと同じ態度をしていた。高嶺ちゃんと仲良かったもんね。

 彼女の礼儀正しい挨拶の仕方なんかも高嶺ちゃんとそっくりだった。お姫様なんだから当然か。

 あたし達はてっきりモンスターはサード王国を狙ってお姫様をさらったものだと思っていたが、それは違っていたようだ。

 サカネ姫は懐から一つの神秘的な玉を取り出してきた。


「モンスター達はこれを狙っていたのです」

「これは?」

「これは竜封玉といって竜の力を封じることの出来るサード王国の宝です。魔王の幹部の一人ネクロマンサーはこれを奪ってからドラゴンを王国に放つつもりのようでした」

「つまり、先に牢屋を開けてこれを手に入れるのが正規のルートだったわけか」

「正規のルート……ですか?」


 ゲームを知らないこっちの世界の人に攻略の順番とか言っても分からないよね。

 ゲームでは絶対に勝てない敵が出現することがある。そんな時は一度撤退して別の道を探すのがセオリーなんだけど、あたしはあろうことか自分の力を過信して力押しで突破してしまったんだ。あたしの失態だよ。

 コウはドラゴンとの戦いを思い出したのかまた黙ってしまった。

 うう、気まずいよ。でも、今は今のイベントに集中しよう。

 モンスター達は姫をさらったものの、目的の宝をまさか姫本人が持っているとは思わなかったようだ。

 そりゃ国に宝があるぞと言われたら普通は手の簡単に出せない城の最深部の宝物庫の奥に厳重に保管されていると思っちゃうよね。

 とにかく、姫を助ける目的は達成した。

 あたし達はサード王国へ帰還することにした。



 来た道を引き返す。デッカイ山脈を背に今度は王国へ向かって歩いていく。

 一緒に助けに来たのにお互いに気まずくなって口を利こうとしないあたしとコウの様子に姫は終始不思議そうな顔をしていたが、国が近づくと笑顔になった。

 高嶺ちゃんに似ているけど、彼女よりは表情を表に出しやすい子供っぽい性格のようだった。

 王国に着くとすぐに兵士達が出迎えてきた。


「おお、姫様。よくぞご無事で」

「姫様を救ってくださるとは、さすがは勇者様だ!」


 喜ぶ兵士達。サカネ姫も柔らかく微笑んであたし達にお礼を言ってくれた。


「この度はありがとうございました。ぜひ後ほどお城の方へいらしてください。精一杯のおもてなしをさせていただきますわ」


 姫と兵士達が去って町の入口に残されるあたしとコウ。城に行けば次の目的地へと進められるフラグを立てられただろうけど、そんな雰囲気じゃなかったよ。

 その上、コウがとんでもないことを言いだした。


「ルミナ、俺、勇者辞めるよ」

「え!? なんで!?」

「ごめん……」


 コウが去っていく。その寂しい背中に何て声を掛けたらいいのか分からなくて。

 あたしはただ戸惑う事しか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る