第20話 ルミナの悩み 海底トンネルの戦い
村から少しフィールドを歩いた海岸近くに海底トンネルの入り口がぽっかりと口を開けていた。
海岸から海の方へと目を凝らすと、遠くの水平線に大陸の陰がうっすらとあるのが見えた。あれがこれから目指すオオキナ大陸なのだろう。
あたしの神様の代理としての特別な権限を行使すれば海の上をスイスイッと走って洞窟なんて通らずに直接大陸に渡っていくことも出来るが順序は大切だ。
順序をすっ飛ばすと途中にあるイベントを見逃したり進行不能になってしまう不具合が発生するかもしれないからね。
あたしは以前にうっかりバグを踏んでしまって全ての障害物が通り抜け可能になって困ってしまったゲームを思い出してしまう。
この世界がゲームではない現実でも順路は守った方が適切であろう。現実世界の観光地でも順路には従うように。好き勝手に行くのを喜ぶのは子供とお兄ちゃんぐらいだろう。なんて言ったら子供に失礼か。
あたしは入口を塞いでいる岩に村長さんからもらった爆弾をセットすると、興味深そうにあたしの両横から覗きこんでいたコウと高嶺ちゃんを下がらせて自分もすぐにその場を離れた。
爆弾を置いた場所の近くにいると自分も爆風でダメージを受けてしまう。そんなことはゲームの常識だし、現実ならもっと物騒だ。
あたし達は十分に離れた位置で様子を伺った。
ドカーーーーン! ガラガラガラ……
爆弾が爆発して岩は木っ端微塵に吹き飛んだ。道が開かれたよ。
それだけならオーライだったんだけど、爆発は洞窟に住むモンスター達の目も覚ましてしまったようだ。殺気のような機嫌の悪そうなオーラが漂ってきた。
そして、洞窟の中からの風に乗って唸り声も聞こえてきた。この洞窟のモンスターはちょっと手強そうだ。そんな雰囲気がする。
「準備はOK?」
「もちろん」
「回復ならわたくしにお任せください」
あたしは心強い返事をコウと高嶺ちゃんからもらって、中へと進むことにした。さあ、洞窟の探検を始めるよ。
この洞窟は二つの土地を結ぶ海底トンネルという話だったが、別に一本道に整備されているわけではなく入り組んだ自然のダンジョンの構造をしていた。
日頃から利用している商人ならば正解の道を知っていて一直線に進めるのだろうが、あたし達は初めて来る知らない場所なので手探りで進まなければならない。
ツギノ村にいた商人に訊けば正しい道順を教えてもらえたかもしれないが、商人が自分の商売道具になる情報を簡単に教えてくれるとは思えない。帰るのも面倒だし、ここはこのまま突っ切ってしまいましょ。
あたしはそう判断した。コウと高嶺ちゃんも同意する。
あたし達は別れ道を何かありそうだなと思った方向を選んで歩いていった。
途中で宝箱を見つけた。商人が置いたものだろうか。薬草が入っていた。行き止まりだったので戻り、別の道を選んで進んでいく。
ひんやりとした洞窟だった。海の下を通っているせいか時折水が流れている。
慣れない始めて来る場所だしモンスターの気配を感じるので、あたし達は周囲を警戒しながら進んだ。
あたしのレベルは高くてもコウと高嶺ちゃんはそうでは無いので、仲間に気を使わなくちゃいけない。
やがてモンスター達が姿を現した。
ここではしびれくらげ、回転するヒトデ、巨大ガニ、ポイズンリザードなんかが出るようだ。海に近いだけあって水系の敵が多いね。
「結構強そうな敵だけど大丈夫?」
「大丈夫さ! これぐらい!」
初めて見るモンスター達を相手にコウは良い返事。何回かの戦いを経て勇者として自信を付けているようだ。こういう時こそ注意しないといけないんだけど、過剰に注意してやる気をそぐ必要もないだろう。
「いざとなったらわたくしが回復魔法を使いますから安心してください」
高嶺ちゃんからも心強い言葉。こんな時どう行動すればいいか知っているようだった。さすがあたしより頭が良い委員長だけのことはあるね。彼女に対しては何も言う必要が無さそうだ。
この洞窟のモンスター達とのバトルが始まった。
攻撃の押収。コウは上手く敵を処理していって、すぐに危険になりそうな感じは無いので、あたしは高嶺ちゃんと一緒に様子を見ていたんだけど。
「うわっ、なんだこれ。動けない!」
何とコウがしびれくらげからマヒを食らってしまった。痺れていたら道具が使えないよ。せっかく麻痺消し草を持って来ているのに。
このままじゃ痺れが抜けるまで行動が出来ない。敵から一方的に攻撃を受けてしまう。そう思った時、高嶺ちゃんが動いた。
「キュアパライズ!」
なんと魔法の光がコウの体を包み込み、麻痺が治った。
「ありがとう、タカネ!」
「どういたしまして」
礼を言うコウに高嶺ちゃんは礼儀正しく挨拶を返す。
麻痺の治ったコウはすぐにしびれくらげと回転するヒトデを倒して、巨大ガニとやりあった。カニは固いよ。武器が全く効かないわけじゃないけどカニの甲羅には効果が薄い。
離れた位置にいたポイズンリザードがフリーになっていたのが失敗だった。
「うわっ、なんだこれ。気持ち悪い!」
毒の息を吹きかけられてコウが毒に侵されてしまったよ!
麻痺に続いて、ここに来て状態異常攻撃の連発だ。
でも、大丈夫。毒なら毒消し草を持って来ているから。今度は行動出来るからすぐに使えば平気だよ。そう思っているとまた高嶺ちゃんが動いた。
「キュアポイズン!」
魔法の光がコウの体を包み込み、彼の体から毒が消え去った。
「ありがとう、タカネ!」
「礼には及びませんわ」
コウのお礼に高嶺ちゃんは優雅に返す。
コウはすぐに硬くて時間の掛かる巨大ガニを放ってポイズンリザードに向かっていった。数回の斬撃の押収で巨大ガニから怒り(ヘイト)を買っていたので巨大ガニはすぐにコウを追いかけていった。
コウの足は速い。すぐにポイズンリザードに斬り掛かった。
一息ついて高嶺ちゃんがあたしに話しかけてきた。
「瑠美奈さん、あなたは彼と一緒に戦いませんの?」
「あたしは……」
「あのカニならば剣よりも攻撃魔法の方が効きましてよ」
「…………」
高嶺ちゃんの言いたいことは分かっているよ。あたしが参戦すればもっと早く片付けられるって。
でも、立場が違うんだ。高嶺ちゃんは頭の良い子だ。神様から頼まれた事や特別な権限の事とか話せばすぐに分かってくれた。
だが、全てを納得した上でまだ不服そうだった。
「そうやってあなたは、全てが終わるまで今の立場を続けるつもりですの?」
「あたしはそのつもりだよ。最後までコウを導く」
あたしは自分の役割を完遂させる気でいたし、そうすることがコウの為になると信じていたけど……
どこかで今の関係を変えなければいけないような、そんな予感を感じていた。
コウは変わらず戦いを続けている。
ポイズンリザードを斬り伏せて巨大ガニを会心の一撃で吹っ飛ばし、彼が戻ってきた。
「ルミナ、モンスターは倒したぞ! 先へ進もう!」
「うん!」
「その前に!」
先へ行こうとするあたし達を高嶺ちゃんが呼び止めた。彼女は僧侶の杖をコウに向けて呪文を唱えた。
「お怪我をされていますわ、ヒール!」
「うお、治った。ありがとうな、タカネ!」
屈託なく笑う彼の顔が眩しくて。一緒のレベルで戦える高嶺ちゃんをうらやましく感じてしまって。
あたしは何だか面白くない気分になってしまった。
「何してるんだ、ルミナ。先へ進むぞ」
「うん」
彼はもう自分の進む道を決められる。あたしが全てを導かなくても。
それでもまだ、あたしの旅が終わったわけではない。
今はただ前へ進もう。そう決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます