第16話 委員長、動く
次の日も天気は絶好の晴れ模様。あたしの心は曇り模様。それもそのはず、今日も学校があるからだ。
学校に行く準備を整えたあたしは朝からだるい気分で玄関を出た。
「なんでこう学校って毎日あるんだろう。週に三日ぐらいでいいのにね」
「ワン!」
玄関先の犬小屋で、あたしの愚痴にコウは元気に答えてくれる。あたしはちょっと元気が出た。
「そうだね。君も頑張ってるんだから、あたしも元気出して行ってくるよ」
犬のコウに見送られ、あたしは学校に向かって歩いていった。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムが鳴っていつもの授業が始まる。さあ、じっと座ってこの苦行に耐え抜こう。
学校の授業は退屈だけど、静かに座っていれば文句を言われないのが唯一の利点かな。
あたしは先生の説明する授業の声を耳に流し、窓から外を見て考えてしまう。頭に思い描くのは向こうの世界のことだ。
コウは何してるかな、料理は美味しかったのだろうか、これからどうしよう。考える事はいろいろあって、先生の話を聞いている余裕なんてあたしには無かったよ。だから、
「では、次のページを神崎さん読んでくれるかな。神崎瑠美奈さん!?」
「当てられてるよ」
「ひゃい!」
友達に後ろからボールペンで突かれて当てられていることに気付き、慌てて立ち上がった。だが、いきなり当てられてどこのページかなんて分かるわけがない。
「35ページだよ」
「あ、35ページね」
隣の席の子が親切に小声で教えてくれた。あたしはそのページから読み始め、当てられた箇所を読み終わって着席した。
安心して息を吐いたのも束の間、先生からお小言をもらった。
「神崎さん、授業はちゃんと聞いておかないと駄目ですよ」
「はい」
みんなに笑われてあたしには返す言葉が無かった。
その時のあたしは気づいていなかった。みんなが笑う中でただ一人笑わずにあたしを見ていた冷静な委員長の視線に。
もう大丈夫と思っていたら次の授業でもまた当てられた。その次の授業でも。
その度にあたしは大慌て。のんびり考え事をしている時間が無いよ。
何で今日はこんなに当てられるの? と思っていたら、その謎は次の授業で解けた。先生が当てる人を探している。
「それじゃあ、次の問題を~誰にやってもらおうかな。そうだ、今日は何日だから出席番号何番の~」
どおりでよく当てられると思った。
日付と出席番号で当てる人を決めるのは止めてください! 油断できないじゃないですか!
もちろんあたしに先生に抗議できる権限などあるはずがなく、(向こうの世界でなら神様と同等の権限を持ってるのに)、黙って当てられた問題を解くしかないのであった。
黒板の前に来てチョークを走らせるあたし。あたしは気づいていなかった。
そんなあたしの背中をじっと見て、何やら採点している様子の委員長の視線には。
キーンコーンカーンコーン!
「終わったあああ」
今日の授業の最後を告げるチャイムが鳴った。放課後だ。何か今日はいつもより多めに当てられていつもより多めに疲れたよ。
でも、もう終わったんだ。これから帰ってゲームが出来る。
あたしはいつもより大きい解放感を胸に感じながら鞄に荷物を詰め込んで、足取り軽く教室を出ようとしたのだが。
「お待ちなさい! 神崎さん!」
「え!?」
そんなあたしの前に立ちふさがった女子がいた。気の強そうで真面目な視線をぶつけてきたのはクラス委員の鷹宮高嶺(たかみや たかね)だ。
とてもお金持ちのお嬢様という噂だが、あたしとは何も接点が無い。ゲームをたくさん持ってきて見せびらかして自慢をするわけでもないお金持ちなんて何も意味が無いよ。
ゲームならお兄ちゃんが貸してくれるし。
鷹宮高嶺は優雅に可憐に髪を掻きあげる仕草を見せると偉そうにあたしに言葉をぶつけてきた。
「最近のあなたの行動を見させていだだきました。はっきり言って下降線です。このままでは次のテストは危ういでしょう。わたくしはクラス委員として落ちこぼれになりそうなクラスメイトを見過ごすわけには参りません。早急な事態の改善を図らねば……」
「ごめん、お小言はもういいから」
「ちょっと、神崎さん!」
もう、やっと授業が終わって解放されたのになぜさらにお小言を聞かなければならないのか。ただでさえ昨日お母さんから怒られてしょげているのに。
あたしはもう今日は早く帰って向こうの世界へ行きたかったので、遮ろうとする委員長の手をさらりとすり抜けて、
「お待ちなさい! まだ何も話をしていませんわ!」
「ごめん! 話ならまた明日!」
あたしはする気の無い返事を残して足早に廊下を去っていき、高嶺はその背中を見送って静かにポケットからスマホを取り出し電話した。
「もしもし、ヘリを用意してください。行き先はこちらで指示します」
その時のあたしは甘く見ていたんだ。お嬢様の行動力とクラス委員の責任というものを。
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