第11話 ツギノ村に到着

 ツギノ村はタビダチ王国の町よりは地味で簡素な村だった。いかにも都会から離れた田舎の村って感じ。

 静かだなと思ったのは建物が質素で規模が小さかったからだけでなく、入口から見える範囲に人がいなかったからだと少し経ってから気が付いた。

 このまま村に入っていいのだろうか。いいよね? この村に来るためにここまで来たんだもの。

『ツギノ村へようこそ!』とか言ってくれる人がいないと入っていいものか迷ってしまうね。ゲームに登場するあのキャラにもいる理由があったんだと思いながら、あたし達は足を前に進めることにした。

 隣からコウが訊いてくる。


「ルミナ、まずはどこから行く?」

「そうねえ……」


 あたしは考える。こういう村だと奥にある大きい家に住んでいる長老に会えばイベントが進行するものだけど、このリアルの世界でいきなり他人の家に押しかけるのは気が引ける。

 ゲームでなら平気で他人の家に上がって部屋をしらみつぶしに歩いてドアを全部開け放ってタンスや壺を調べまくったりするぐらい余裕で出来るけど、ここはゲームの世界に見えても現実で、そんなこと出来るわけが無い。

 あたしには神の使いとしての特別な権限を使うつもりも無いし。普通に見られる旅人でいたいんだ。

 人の家を訪れるのには何か理由が必要になるはずだ。もちろん勝手にタンスを開けたりするなんてもっての他。

 まずは情報を集めよう。そう思って、あたしは訪れる場所を決めた。


「まずは酒場を探して情報を集めてみましょう」

「酒場か……」


 コウは酒場の事をよく知らない様子。子供が行っちゃ駄目な場所だと思っているのかな。ゲームの世界だとそうでは無いんだけど。

 酒場は情報の集まる場所で、そこには様々な情報を持っている人がいるのだ。

 あたしは自分に任せてと請け負って村の中を進むことにした。

 それにしても人の姿が見えないね。みんな仕事に行っているか家の中にいるのかな。民家のドアや窓はみんなしっかりと閉まっていてよく分からない。

 大声で呼びかけるのも迷惑行為になるだろう。

 ゲームだと何の遠慮も無く片っ端からドアを叩けるものだけど、さすがにリアルだとそうはいかないね。


「用も無いのに玄関を叩くな! このいたずらっ子め!」


 とか怒られたら目も当てられない。コウが見てるしね。冷静な行動を心掛けないといけない。

 酒場を探して村を歩くあたし達の前に店が見えてきた。武器屋と道具屋のようだ。

 村は静かだが、店は営業しているようだ。

 目指していた酒場とは違うけどせっかく目についたので、あたしはコウを誘ってその店に寄ることにした。


「へい、らっしゃい」


 店員が普通に迎えてくれる。良かった、普通の人だ。

 この村の事を訊ねようかとも思ったが、彼は商売にしか関心が無さそうに手もみしてニコニコしている。

 話を聞かせてと言ったら、何かの商品を押し付けられそうだ。そんな空気がした。

 まあ、情報は酒場で聞けばいいかと思って、あたしとコウは品物を見ることにした。


「銅の剣と棍棒はもういらないね」

「鎖鎌が売ってるぞ」

「高いなあ」


 うーん、田舎の村だから品揃えが良くないね。高い鎖鎌が売ってたけど、コウには似合わないと思うし、またお金を貯めるのも面倒だ。ここはパスでいいだろう。

 続いて道具屋に入る。入ってすぐに気が付いたけど不思議な良い匂いがした。

 タビダチ国の道具屋の店員と同じ格好をして踊っている店員(この格好と踊りって道具屋の間で流行ってるのかな?)に訊ねると、


「ここは酒場に行く通り道にあるから匂い消しの香を焚いているんだ」


 と、教えてもらった。

 何か匂う物があるんだろうか。あたしにはよく分からなかったけど、ともあれ商品を見ることにする。


「新しく麻痺消し草が売ってるね」

「麻痺をしてくる敵がいるんだろうか」

「まだ毒を使ってくる敵も現れてないけど……いくつか買っていくか」


 値段はそれほど高いわけではない。タビダチ国周辺より敵が強くなった分、手に入るお金も増えて所持金に余裕が出来ていた。装備品はまだ高いけど。

 あたし達は回復用のアイテムをいくつか買って道具屋を後にし、すぐ近くにあった酒場の場所を確認してから先に教会に寄ってお祈りを済ませ、また酒場の前にやってきた。

 今度こそ入ろう。


「ここに入るの?」

「うん」


 コウはちょっと緊張している様子。酒場という名前のイメージから未成年が入ってはいけない場所だと思っているのかもしれない。

 あたしだって現実世界だったら尻込みしていたかもしれないけど、ゲームの世界の酒場だったら平気なことは分かっていたので。


「さあ、入るよ」


 西部劇のガンマンよろしく、堂々とドアを開けて入っていったのだった。

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