第25話 光 十三

 「あっお待たせ~待った?」

試験終了後、待ち合わせ場所に美玲がやって来る。

 そして僕はいつものように、待ち合わせ時間の少し前に着き美玲を迎える。

 その日は8月が目前に迫った7月の終わり。ただ異常に蒸し暑く、天気を司る神様がおかしくなって、熱の配分を間違えてしまったのではないか、なんてどうでもいいことを考えたくなる季節だ。

 そしてここ、現実世界には、頭のおかしくなってしまった、僕がいた。

「ううん、全然待ってないよ。」

「そっか~良かった!かずくんは優しいね。それで、明日も試験あるけど、今日はどこで一緒に勉強…、」

そこまで言いかけた美玲を、僕は少し大きな声で制する

 「僕は優しくなんかないよ!」

すると美玲は、そんな僕の異変に気づく。

 「…かずくん?どうしたの?」

そして僕は、さっきあった講義室での一件を美玲に話す。

 「…そう、だったんだ…。

 でも私はそんなこと、気にしないよ。私はかずくんと一緒にいられればそれで…、」

「そういう問題じゃねえよ!」

僕は、またも美玲を制する。

 「…僕の気持ち…、あんたなんかには分かんねえよ!

 所詮僕は闇属性なんだよ!それで、昔から今日みたいに陰口叩かれて、それでいじめられてきたんだよ!」

 僕は美玲にそう言う。

 『違う。僕が言いたいのは、そんなことじゃない。

 僕は美玲に、自分のことをもっと分かって欲しい。ただ、それだけなんだ。』

 美玲にそう言ってしまった後、僕は心の中でそう訂正する。でも、僕の口は、それを許してくれない。

 「あんたはいいよな。何せ、光属性なんだからな!僕と違って、友達もいっぱいいるし、正直、モテるんじゃねえのか?」

「かずくん、それは違う、違うよ…。」

それまで黙って僕の言うことを聞いていた美玲は、「モテる」という僕の言葉に反応して口を開く。

 『違う。僕は、そんなこと本当は思っていない。

 僕は、本当に美玲のことが好きだ。だから…、本当は好きな人を悲しませたくない!』

 その時、僕の心と口は、完全に乖離してしまっていた。

 「何を言っても一緒だよ!所詮、僕たちは闇と光なんだよ!一緒にいることは、できねえんだよっ!」

再び美玲が沈黙する。

 『僕、最低だ…。

 僕はただ、美玲に当たり散らしてるだけじゃないか。』

僕は何とか自分の口を自分で制する。しかし、次の言葉が出てこない。

 そして美玲も、黙ったままだ。

 またその時、2人の目からは、大粒の涙が流れてきていた。

 …重すぎる沈黙。それを先に破ったのは、美玲の方だった。

 「分かった。とりあえず今日は帰るね。

 でも私、かずくんのこと信じてるよ!

 かずくんは、本当は優しい人だもんね!だから今日は、ちょっと嫌なことがあって、私に当たってるだけだもんね!

 …もし、かずくんが本当に私のことが必要じゃないっていうなら、私はもうかずくんと連絡はとりません。

 でも、私はかずくんのことが好きだし、かずくんのこと信じてるから…。

 だからいつでも連絡してきてね!

 じゃあ、バイバイ、かずくん!」

『美玲…!』

そう言って去って行く美玲を僕は心の中で呼び止めたが、それは心の中だけで、声に出ることはなかった。

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