第119話 戦争の終わり

 奴隷兵は前線に取り付き爆発するよう命令されているので、単機で突っ込む戦車には目もくれない。

 それどころか避けていく。

 これは嬉しい誤算だ。


 しかし、順調なのはそこまでだった。

 立ちふさがる重歩兵、後続からは魔法が放物線を描いて飛んでくる。


『突破するぞ。掴まれ』


 装甲に物を言わせ強引に人をなぎ倒して進む。

 電撃の盾に触れた重歩兵は感電して昏倒した。


 弓も射掛けられたが、装甲を撃ちぬく事はできない。

 魔法も当たるが土魔法の装甲を削る事はできても破壊には至らない。

 当然のことながら削られれば魔法で装甲は元通りに回復させた。


 馬ゴーレムに乗った騎兵が体当たりを仕掛けてくる。

 鈍い音と共に馬ゴーレムがはね飛ばされる。

 一際豪奢なテントが覗き穴から見えた。


 あれが本陣か。

 魔力ゴーレムを突撃させて爆発を起こす。

 テントは粉みじんに吹き飛んだ。


 これで戦争は終わりか、あっけないな。

 装甲車を消しゆっくりと味方の陣を目指す。

 迷彩スキルを使っているから敵には気づかれないはずだ。


 帝国軍の兵士が退却の合図を出している。

 伝令が奴隷兵に退却を伝えていた。

 軍の中にも奴隷兵の扱いに不満な人間がいたのだろう。

 奴隷兵を何人も追い抜いたが奴隷兵は走る事もなく立ち止まり呆けていた。


 味方のいるラインまで来た時。


「人間爆弾の障害がなくなった今こそ帝国を打ち滅ぼす時。帝国兵を皆殺しだ」


 そう、聖騎士が叫んでいる。

 異端国家認定するってこういう事か。

 もう人死には勘弁だ。


 何か俺に出来る事はないか。

 もう、俺に出来る事はないのかな。

 俺は無力感にさいなまれた。

 いや、出来る存在なら知っている。


「超越者、見ているんだろ。何でもしてやるから、戦場を隔てる壁を作れ」

『なんでもするというのなら、手を貸してやろう』


 戦場に高さ300メートラぐらいある壁が出来た。

 聖騎士が魔法で壊そうと試みたがびくともしない。

 これで戦争は終わったのだよな。

 これで良かったんだよな。


 聖騎士が来て俺に向って言う。


「これは貴殿の仕業か。こんな事が出来る人間は他にはいないだろう」


 俺がやった訳ではないが、やらせたのは俺だ。

 文句は甘んじて受け付ける。


「そうだ、俺がやった。ちなみに解除なら不可能だ」

「命令違反で拘束させてもらう」


 俺は拘束されて本国に送り返された。

 しばらく牢獄で暮らし、裁判を受ける事になった。


「フィル・サンダー準男爵。帝国への追撃を邪魔したとあるが、相違ないか」

「はい、間違いありません」


「国王様」


 裁判長と国王が内緒話をしている。


「判決、フィル・サンダー準男爵にソリュート村を与える。今後許しがない限り村から一歩も出る事は許さない」

「判決を受け入れます」


 俺は無罪なのか有罪なのか分からない微妙な立場に追いやられたようだ。


「思い切った事をしましたね」


 ランデ男爵が側にきてそう言った。


「戦争を止めるにはあれしか思いつかなかった」

「あそこが封鎖されると大規模侵攻はまず無理です。おかげで戦争は膠着状態ですよ」

「どうなるんだ」

「教会が圧力をかけて帝国の関係者を処罰して一件落着でしょうね」

「それは良かった」


「判決を不思議に思ったでしょう。今回の判決は打算で成り立っています」

「というと」

「あれだけの戦力です。あなたを確保しておきたいのですよ。秘密兵器として。でも教会や各国の手前もある」

「なるほどな。俺は大人しくこれからは村で過ごすよ。短い付き合いだったな」

「あなたなら、また日の目をみる事もあるでしょう」

「じゃあ、またな」


 俺はソリュート村に出立する為に王都の門を一人出て輸送機を作った。


「私も一緒に行く」

「私もですわ」

「やだな、師匠。置いていくなんて」


 モリー、ユフィア、リリオの三人が俺を囲んだ。


「しょうがない奴だな。分かった一緒に行こう」

「私も忘れては困るわ」

「マリリさん。商会はどうするんですか」

「辺境の村に本店があっても平気よ。ゴーレム騎士団は優秀だから、どんな道でも交易するわ」


「家政婦を忘れてもらっては困るわ」

「エリノーラ」

「あなた、私がいないと困るでしょ」

「そんな事もないけど」

「こんなすけべな主人の雇われる家政婦なんて私ぐらいよ」

「来たいなら止めないよ」


「俺もいるぜ」

「ケネス、道場はどうしたんだ」

「それなら畳んださ」


「しかたないな。みんな一緒に行こう」


 俺達は輸送機に乗ってソリュート村を目指した。

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