第118話 大侵攻

 馬ゴーレムを駆けさせ前線への道を急ぐ。

 ヒュっと風切り音がして物理防御の魔道具が発動する。

 振り返ると剣を振り切った転移使いが着地した所だった。

 危なかった物理防御の魔道具を装備していて助かった。


「ライタ、転移使いだ。こっちも転移で対抗するぞ」

『ラジャ』


 俺は転移して転移使いの背後をとる。

 魔力ゴーレムを作りスタンガン魔法を発動させると転移使いは消えた。

 お互い背後を取り合う転移対決となった。


 五回目の転移の時に転移使いは逃げられずに感電。

 スキルを契約魔法で封じて武装解除する。

 すると、見慣れない魔道具が出てきた。


「なんだと思う」

『転移の魔道具じゃないかな。充填して発動してみろよ』


 俺はライタの言うとおりにすると、頭の中が数字で溢れかえった。


「ちょっと、何これ」

『異次元座標計算機だな』

「ライタ一万人分の計算をしているのか」

『どうやらその通りだと思う』


 魔道具はありがたく頂いておいた。

 これがなければ転移使いは転移できない。

 転移使いを放置して、俺は先を急いだ。



 前線基地に着くと見張りの兵士は何事かと飛び出してきた。

 基地の様子をみるにまだ人間爆弾の猛威にはさらされていないようだ。


 俺は司令部に案内された。


「報告を持って来た」


 俺が持って来た文書を読むと司令部に緊張が走った。


「何っ、大規模侵攻の恐れあり、人間爆弾に注意されたしだと。よくやった」


 翌日、大侵攻が始まった。

 奴隷と思われる兵士が大挙してこちらに駆けてくる。

 矢や魔法で応戦するも、いかんせん数が多い。


「うわー、死にたくない」


 そう叫びながら、奴隷兵が突っ込んでくる。


「恨むなよ。撃て」

「ぐっ」


「来るな。とりつかれた誰かこいつを」


 とりつかれた兵士を巻き込んで奴隷兵が爆発する。

 被害は甚大だ。

 ひどい、こんな事があっていいのか。


 無抵抗な人間を撃つなんて、胸糞悪い。

 だが、撃たねば味方の兵士が死んで行く。

 助けてやりたいが、爆発するまでに解除するには工夫が必要だ。


 俺は水魔法でクロロホルムを展開する。

 頼むから、停まってくれよ。

 クロロホルムの気体に奴隷兵は次々に突っ込んで気を失った。

 俺は空気タンクを作動させながら敵兵の救助にとりかかる。

 気絶した兵士の魔力を安定させて奴隷契約を解除してやった。


 俺が助けた人なんて所詮一握りだ。

 もっと根本からなんとかしないと。

 現在戦況は悪い。

 ものすごく押され気味だ。

 帝国はいったいどれだけの奴隷兵を動員したのだろう。


 俺は司令部に駆け込んだ。


「俺を自由に行動させてくれ」

「この状況を打開できるのかね」

「なんとかして本陣まで突っ込む」

「むちゃだが、失敗しても損害は君だけか。許可しよう」

「それと、魔石をありったけ用意してくれ。電撃の簡易魔道具を作る。人間爆弾を足止め出来るはずだ」

「それはありがたい」


 急いで電撃の簡易魔道具を作る。

 作るそばから設置していって夕暮れになる頃には前線全てに行き渡った。


 夜になっても奴隷兵の突撃は止まない。

 電撃で気絶した奴隷兵は手足をしばり俺の所に運ばれた。

 徹夜で兵士の魔力を安定させて奴隷契約を解除してやる。




 朝になると戦況は一変していた。

 特徴のある銀色の騎士が多数応援に駆けつけている。

 この鎧は聖騎士だな。


 隊長らしき人に話し掛ける。


「俺はこれから一人で敵陣に突っ込む。もし奴隷達の足が止まったら捕虜として扱ってほしい」

「団長にそう伝えておく。彼らは禁忌の実験の被害者だ。無下にはしないだろう」

「なんで聖騎士がこんなに駆けつけたんだ」

「国ぐるみで禁忌に手を染めたとして、教会は帝国を異端国家と認定した」

「そうか、それなら安心だ」


 聖騎士の活躍もあって戦況はこっちに傾いている。

 チャンスだ。


「ライタ、転移で本陣までひとっ飛びという訳にはいかないよな」

『そうだな、視認できる範囲でないと転移は成功しないだろう』

「じゃあ、空を飛んで行くか」

『どうだろ、魔法で撃ち落される危険があるな』

「火魔法をつるべ撃ちしながら突っ込むか」

『もっと良い方法がある。戦車だ。砲塔はいらないから、装甲車だな』

「よし、それで行こう」


 擬似物質で装甲車を作る。

 タイヤは水魔法だ。

 これを循環させ進む事になる。

 前面には土魔法の装甲と電撃の盾をつける。

 これで人間爆弾の群を突っ切れるだろうか。

 でも、やるしかないんだ。

 誰かがこの戦いを止めるしかない。

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