第111話 張り込み

 魔獣退治は一段落しているので、今日から孤児院で張り込みだ。

 アルヴァルの奴来ないな。

 刺客も来ない。

 一応リリオにはゴーレム騎士団で一番の手練てだれをつけてある。

 人数も多いし大丈夫だろう。


 孤児について考えた。

 孤児達は魔力の器を無理やり拡充されられたのだな。

 仕組みについては考えない。

 考えるとライタが実行しろと言ってくるに決まっている。


 今のままだと孤児達が危険だ。

 治療の手立てが見つかればいいが。


「来たぞ」

「抜かるなよ」


 俺は一緒にきたセシリーンに声を掛けた。

 俺達は迷彩スキルで姿を隠している。

 孤児院の前でセシリーンが剣の柄でアルヴァルを殴った。

 あっけなく気絶するアルヴァル。

 俺は契約魔法でアルヴァルのスキルを使えなくして、一応ロープで拘束した。


「起きろ」


 セシリーンがアルヴァルを起こす。


「くっ。こんなので俺を捕らえたと思ったら大間違いだ」


 魔力に映るアルヴァルの魔力がおかしい。

 魔力が加速度的に増えていく。


「セシリーン、離れて」


 ロープがぶちぶちと千切れて飛んだ。


「くあああ、この全能感はどうだ。むっ、魔力の増加が止まらん」


 俺は集まる魔力を魔力結晶ゴーレムに吸収した。

 間に合うか。


「くそう、理論は完璧のはずだ」


 アルヴァルは全身から血を噴出してぐったりと横たわった。

 アルヴァルの全身から魔力が抜けていく。


「アルヴァルは死んだよ」

「禁忌を扱う者の末路なんてこんなものだ。力を過信して自滅する」


「孤児達の治療をしてやらないと」

「あてはあるのか」

「禁忌に踏み込む事になりそうだ」

「頼むから都市をふっ飛ばさないでほしい」

「ああ、善処する」


 魔力量は超越者によれば精神感応エネルギーの味の差だ。

 つまり孤児は精神感応エネルギーが不安定になっているのだな。

 安定させるにはどうすればいい。

 不安定になったのだから、安定させる手もあるはずだ。


「孤児達にどんな実験をされたのか聞き取ってくれ」

「駄目だ。禁忌について聞くのは職務に反する」

「俺が聞くしかないか」



 アルヴァルの死体の後始末をセシリーンに頼み、俺は孤児院に入った。


「こんにちは」

「はい、こんにちは」


 中にいた中年女性の院長は気さくに挨拶を返してくれた。


「突然ですが、アルヴァルがやっていた実験を教えてほしい」

「駄目です。実験の事は口止めされてます」


 院長の顔が険しくなる。


「アルヴァルは実験して死んだよ。孤児達が危ないんだ。頼むよ」

「あなたの真剣な様子から本当の事だと分かります。なんでも聞いて下さい」

「実験は具体的にはどういう物だった」

「魔力変質スキルを繰り返し掛けられました」


 魔力変質を人間にかけると精神感応エネルギーが不安定になるのか。

 これは困った。

 魔力変質を更に掛けると逆効果だろうな。


 要するに孤児達は自分の魔力を見失っているのだろう。

 精神感応エネルギーの味を固定すればいい。

 やってみるか。


 孤児の一人に実験する事に同意してもらった。

 同意の条件は金だ。

 気は進まないが、仕方ない。


「俺が死んだら妹にお金を渡してくれ」

「約束するよ。じゃあやるぞ。契約魔法、精神感応エネルギーの味を固定するのを許可する」


 ふぅ、どうなるかと思ったが爆発はしなかった。

 子供もぴんぴんしている。

 二時間経っても子供の魔力量は変わらない。

 成功だな。

 契約魔法で精神感応エネルギーという言葉を喋れないようにした。

 魔力の真実に近づく者が現れないようにするためだ。

 孤児の中から魔力の真実に気がつく者が現れたらその時は俺が後始末すると誓った。


「終わったよ」

「こっちもアルヴァルの始末は終わった。まだ実験の書類の行方が分からないが、捜査で明らかになるだろう。今、聖騎士を総動員している」


 結局、あの刺客は現れなかった。

 アルヴァルの護衛ではなかったようだ。

 やはり俺の推測通りか。

 闇ギルド総元締めの権限が俺にあるようだ。


 宿に帰るとゴーレム騎士団の人間が戦闘準備に入っていた。


「どうした」

「申し訳ありません。リリオがさらわれました。これをさらった人間が残していきました」


 残したと思われる言伝を見ると人質を返してほしくば、フィル貴様が一人で来いとある。


「怪我人は出なかったのか」

「ええ、護衛は全て一撃の下に気絶させられました」

「そうか、依頼にはない殺しはしない主義なのだろうな。俺が一人で行く。手出しするなよ」


 俺は一人で決闘に出向く事になった。

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