第110話 魔力斬

「どう、捜査の進展は」


 俺はセシリーンに尋ねた。


「それとなく聞き込みして孤児院の事情は分かった。資金援助の見返りに実験に協力しているらしい」

「アルヴァルを死刑台に送れそうかな」

「無理だな。逮捕すると、無罪になりそうだ。」


「犯罪を犯した国に移送するというのは」

「それも無理だな。帝国の横槍が入るとみて、まず間違いない」


八方塞はっぽうふさがりなのか。アルヴァルを野放しか」

「捜査なんてのは地道なものだ。諦めるな」


「そうだな。よし、こっちから罠を仕掛けてやろう。おとり捜査だ」

「何を餌にするんだ」


「この国の国家機密を餌にする。食いついてきたら、スパイ容疑だ」

「国家機密をどうやって手に入れるんだ」

「それらしい書類をでっちあげりゃいい。逮捕したら真偽鑑定でスパイ行為をしたか聞く」

「なるほど、それなら引っ掛かりそうだ」


 公開されている軍事情報に偽の情報を織り交ぜてそれらしい書類を作ってもらった。


「おやっさん、エール二丁と串肉盛り合わせ」


 俺は酒場で声を張り上げた。


 俺とセシリーンは情報屋に扮した聖騎士がアルヴァルに情報を売る所に立ち会う事にした。

 少し離れたテーブルで取引を監視する。

 髪の毛も染めたしフードを被っているから俺だとは分からないだろう。

 魔力ゴーレムも連れてきていないから魔力の濃さから気づかれる事もないはずだ。

 散々待たせた後にアルヴァルは現れた。


「遅かったな」

「実験に手間取ってな」

「これが約束の書類だ」


 アルヴァルはろくに書類を見もせずに受け取った。


「点数稼ぎはめんどくさい」


 アルヴァルはそう言ってから席を立って酒場を後にした。

 ここまでは上手く行った。


 後は帰り道に俺がアルヴァルを無力化するだけだ。


「よう、アルヴァル奇遇だな」


 俺は後ろから声を掛けた。

 振り返るアルヴァル。


「いいかげんお前もしつこいな」

「あんたが禁忌を犯すからだろう」

「火魔法」


 俺はファイヤーランスを石の盾で防いだ。

 その時。


「斬」


 剣を持った剣士が虚空を切り裂いた。

 なんだ。

 アルヴァルの護衛か。

 それにしても関係ない所を空振りするとは目の悪い奴だな。


『魔力ゴーレムが切られた』


 ライタから切羽詰った報告が届く。

 魔力ゴーレムが確かに一体減っている。


「斬、斬、斬」


 舞うように剣士が動き次々に魔力ゴーレムが切られて行く。

 俺は慌ててトレントゴーレムをアイテム鞄から出した。


「斬」


 またも虚空を切る剣士。

 トレントゴーレームがぴくりとも動かなくなる。

 見るとゴーレムと繋がる魔力のひもが切られていた。


 やばい。

 こんな事なら、セシリーンさんについてきてもらえばよかった。


『目をつぶれ』


 目をつぶると閃光がまぶた越しに見えた。


「不覚」


 そういうと剣士は引き上げていった。

 アルヴァルの姿はすでにない。


 魔力を切る剣なんて反則だろう。

 魔道具の一種だろうな。

 魔力の感知はどうやっているのかは分からないが何かしらのスキルだろう。




「すまん。逃がした」


 俺は宿でセシリーンに謝った。


「何があった」

「魔力を切る護衛が出てきた」

「そいつは魔力斬のシルヴじゃないか」

「有名なのか」

「闇ギルドお抱えの殺し屋だ」

「アルヴァルが護衛依頼したのかな」

「護衛はしないはずなんだがな」

「俺の暗殺依頼を引き受けたかもしれない。しかし、妙だ。俺がこの国でアルヴァルに会ったのは初めてだ。殺しの依頼はできないと思う」

「何か事情があるのかも知れん」


 自分の部屋に行くとリリオが居た。


「師匠、顔見知りのおじさんと会いました」

「どんな知り合いなんだ」

「爺やの知り合いです。師匠が後見人だと言いましたが、まずかったですか」

「いや、それは知られている事だから」


 待てよ、闇ギルドの総元締めの後見人って何も権限がないのか。


「くそう、あの爺め。俺を何かに巻き込みやがったな」

「爺やがどうかしたんですか」

「いや、気にしなくて良い」


 なんとなくで推測できた。

 後見人は総元締めの権限を使えるのだろう。

 それなら、リリオを始末しに動きそうなのだが。

 ライタの知識では大統領が死ぬと副大統領があとを継ぐ。

 もしかしてリリオが死ぬと俺に完全に権限が移るのだろうか。

 それならリリオを始末しないのも分かる。

 そういう事か。

 俺はてっきりリリオが殺し屋に狙われるとばかり考えていた。

 でも、これで良かったのかも。

 俺が狙われるのなら跳ね除けられる。

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