第87話 ウイングアント

 ギルドで情報収集の最中に鐘が火がついた様に激しく鳴らされる。

 何だ。

 建物を出て空を見上げると黒い塊がある。

 鳥魔獣の群か。

 段々と群は街に近づいて来る。

 空が陰るほど群れ近づいた時に正体が分かった。

 虫魔獣だ。

 弓を持った冒険者と兵士が出て来て一斉に矢を放つ。


 落ちてきた虫魔獣を見るとワーカーアントに羽が生えたものだった。

 普通の羽蟻は女王蟻だろう。

 ワーカーアントが羽蟻になるなんて。

 ウイングアントとでも呼ぼうか。


「ぎゃあ」


 冒険者の男が腕を食いちぎられた。

 ワーカーアントは草食なのに、こいつら肉食かよ。

 対空ミサイルの数もこの大軍には対処できない。

 新兵器が必要だな。

 幸い硬さはワーカーアントと変わりないようだ。

 安価な対空ミサイルが必要ってことだろう。

 ワーカーアントを倒すぐらいの対空ミサイルならDランクの魔石でも作れる。

 俺はギルドでありったけの今回の件に使える魔石を集めた。

 そして、マリリの店に急ぐ。

 みんなそこに居るはずだ。


 マリリの店に行くとリンナ以外はみんな揃っていた。


「聞いて、虫魔獣を撃退する。手を貸して」


 俺は対空ミサイルメイカーを作った。

 俺とモリーとユフィアは魔力の充填係だ。

 ゴーレム騎士団の面々が簡易魔道具を作りギルドから来た冒険者に渡した。

 空にオレンジの軌跡を引いて街のあちこちから対空ミサイルが発射されているのが窓から見えた。


「魔石が尽きるまで作るぞ」

「「「はい」」」


 時間の感覚が無くなるほど集中して対空ミサイルを作った。

 気がつくと魔石がもう無い。

 空にはまだウイングアントが飛んでいた。


「俺は迎撃に出る。みんなはどこかに立てこもってくれ」

「気をつけてね」


 マリリがドアの所に来て送り出しながら言った。


 リンナはたぶん城壁だろう。

 俺は風魔法を撃ちながら城壁に向かう。

 地上は酷い有様だ。

 食い荒らされた死体と撃ち落されたウイングアントの屍骸が混在している。

 群の半分は退治出来ているように思う。

 城壁では兵士と冒険者がウイングアントを撃退すべく弓を撃ちまくっていた。

 リンナの姿をその中に見つけ少しほっとした。


 吸着スキルを使い城壁にスルスルと上る。


「戦況はどうだ」


 俺はリンナに声を掛けた。


「どうもこうも駄目ね。数が多すぎる」

「一発でかいのをやるか」


 さてどうするかな。

 範囲攻撃が望ましい。

 街一つ分の空をなんとかしないといけない。

 そんなのは無理だ。

 なら集めりゃ良い。

 ソルジャーアントは匂いに引き寄せられた。

 ワーカーアントの屍骸なら幾つか持っている。

 これに引き寄せられないか。

 俺はワーカーアントの屍骸を切り刻み城壁の下に落とした。

 ウイングアントが続々と集まったくる。

 良いぞ。

 充分な数が集まったのを見て特大の火魔法をかました。

 消し炭になって吹っ飛ばされるウイングアント。

 群の九割は倒したはずだ。

 残り一割は兵士と冒険者に任せよう。


 その時、巨大なウイングアントが現れた。

 4メートラほどはあるだろうか。

 さしずめジェネラルウイングアントだな。

 単体ならこっちの物だ。

 ドラゴン用の対空ミサイルを放つ。

 やっぱりだ。

 飛んでいる時は魔法防御は使えない。

 羽に穴を開けられジェネラルウイングアントは落ちた。



「じゃあ、行って来る」


 俺はリンナに告げた。


「死なないで」

「無敵の看板に偽りはないさ」


 俺は城壁を駆け下り、ジェネラルウイングアントが居る街の中央部に急いだ。

 ジェネラルウイングアントは食事中だった。

 俺はゴーレムをありったけ出した。

 ジェルの桶を出して、スライムゴーレムを作る。


 ゴーレムの突撃が始まった。

 魔力結晶ゴーレムが一噛みで粉砕される。

 ミスリルより硬いのにな。

 トレントゴーレムが関節を狙って剣を振り下ろすがあまりダメージにはなっていない。

 やはり一噛みで破壊された。


 頼みの綱のスライムゴーレム十体を一斉に取り付かせる。

 噛みに行って噛めないのに不思議がる様子のジェネラルウイングアント。

 柔らかいってのは逆に強いのだな。

 火魔法を相手が持っていたら瞬殺されるだろうけど。

 この場ではスライムゴーレムは最強だ。

 取り付いたゴーレムを凍らない程度に冷やしていく。


 すぐに効果が出ないのが難点だな。

 壊れたゴーレムをトレントゴーレムで回収して直して出撃させる。

 次々に一噛みでやられるゴーレム。

 こっちの魔力量は無限に近い。

 根競べだったら負けないさ。


 徐々に動きが鈍くなるジェネラルウイングアント。

 あと少しだ。

 ダメ押しで魔力ゴーレムが液体窒素を撒く。

 完全に動きが止まった。

 加速砲の準備に入る。


 砲弾を加速砲にセット。

 みるみる加速した砲弾はジェネラルウイングアントに突き刺さる。

 頭に大穴を開けたジェネラルウイングアントはぴくりとも動かなくなった。


 俺達の勝利だ。

 しかし、今回は危なかった。

 やはり本道を発見して女王を仕留めないとらちがあかないな。

 俺はマリリの店に向かった。

 店が半壊している。

 マリリ達は大丈夫か。

 店に入るとウイングアントの屍骸があって奥の部屋に通ずる通路にはバリケードが作られている。

 バリケードの前には魔木のゴーレムが警護していた。


「みんな大丈夫か」

「店は壊れたけど、怪我人はいないわ」


 バリケード越しにマリリと話した。

 それから、俺達はゴーレムを使い店を片付けた。


「沢山の人が亡くなったわね」


 悲しそうに言うマリリ。


「もっと早く国が本腰入れて取り組んでいれば、違った結果もあっただろう」

「しょうがないわよ。今までは少しの危険ですんでいたのだから」

「鎮魂の意味も込めて今は勝利の祝杯を挙げよう」

「そうね。ぱーっと行きましょうか」


 半壊したマリリの店先でパーティをした。

 住居を奪われた人にも料理を振舞う。

 何時しかパーティは炊き出しになっていた。

 俺はアイテム鞄からありったけの食料を出して使った。

 こういう事がもう起こらなければいいのにと思う。

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