第86話 伐採と簡易魔道具

 今日は伐採の手伝いだ。

 木を倒せば見晴らしが良くなってミリタリーアントの何かがつかめるかもという淡い期待を持った。


 魔力ゴーレムから風の刃が放たれる。


「倒れるぞー」


 樵が警告の叫びを上げた。

 メキメキという音と共に大木が切断され倒れてくる。

 おっと、こっちに倒れてきた。

 土魔法で石のドームを作ると、倒れてきた木がそれを叩いた。

 轟音がドームの中に響く。


「兄ちゃん。大丈夫だったか」


 現場監督のエルフが声を掛けてきた。


「ええ」


 木の倒れてくる方向は予測できるのだ。

 枝ぶりを見れば分かる。

 太陽の日当たりのせいで枝の茂り方が偏るので、枝が沢山茂っている方向に木は倒れる。


 だいぶ木を伐採してコツをつかんだと思ったんだけどな。

 やっぱり本職には敵わないな。


 木の種類は様々で、やはり魔木が多い。

 俺は次の木に取り掛かる事にした。

 今度の木は切ると中が空洞になっている。

 腐ってこうなったのか木の特性なのかは不明だが。


「ハズレの木だな」

「ハズレの木?」

「これは空洞で木材としては使えない。枝はこんなに茂っているのにな」


 たしかに奇妙な木だ。

 枝は生い茂り、葉も青々としている。

 幹が空洞にしては木が元気だな。

 これがこの樹の特性って事なのだろう。




「出るぞ、アイアンカッターの幼虫だ」


 倒れた大木に1メートラの穴が開いていて、そこからおが屑が噴出される。

 白い胴体に黒光りする頭と顎をもった虫魔獣が這い出てきた。


「斬撃強化、せいっ」


 斧を持った樵が虫魔獣に打ち込む。

 すぐに虫魔獣は動かなくなった。

 強い魔獣ではないんだな。


「あれには気をつけろよ。油断して指を千切られた奴はかなりいる」

「でも弱そうだ」

「幼虫だからな。親は樵の手に負えるものではないよ」


 そんなハプニングもあったが伐採は順調に進んだ。

 木を切った場所には子供が苗を植えている。


「あれは何をしてるんだ」


 俺は気になった事を近くの樵に聞いた。


「ああやって木を植えている。森がなくなれば虫魔獣の被害も少なくなるのは分かっているんだが。森の恵みも大切だ」

「良くも悪くも森と共存ってところか」

「一時期は虫魔獣の被害が凄くてな。スタンピードを起こさなくても年々被害は増えた。でもこのところ被害が減ったように思える」

「理由が何かあるのか」

「冷却地雷のせいだろうな。討伐は金になる。アイアンカッターの外殻なんて金貨だぜ。そりゃ安全に討伐できれば一攫千金を狙おうって気にもなる」


 冷却地雷を作ったのは余計な事だったのかな。

 子供を巻き込む気は無かったんだけどな。

 地元の子供もホーンラビットを獲っていたな。

 似たような物か。

 俺の気にする事でもないと思う。


 だが子供達が安全に虫魔獣を討伐できるように手は尽くしたい。

 噴霧型の冷却装置はどうだろうか。

 水魔法を使い作り出した液体窒素を噴霧するのはどうだ。

 水魔法は魔力消費が激しいから魔石の大きさが大きくなる。

 駄目だ。

 子供に買える金額にはならないな。


 冷却スキルは生活魔法だから、魔力消費は少ない。

 冷却スキルを使う簡易魔道具が望ましいな。

 だけど、大きな空間を冷やすとなれば魔力が大量に要る。

 上手くいかないな。


 一瞬だけ噴霧するのはどうだ。

 それなら魔力を少なく出来る。

 俺は伐採を止めて液体窒素噴霧の簡易魔道具を作った。

 苗を植えている子供達を集めた。


「虫魔獣の動きを一瞬鈍らせる物を配るぞ。虫魔獣からどうしても逃げられない時に使え。過信はするなよ。一瞬動きが止まるだけだからな」


 子供達は真剣な表情で話を聞き頷いた。

 命が掛かっている事が分かっているのだろう。

 生意気な発言をする子供はいない。


「感想が欲しい。その為にも生きて帰ってくれ」


 まだ何か考えられそうな気がする。


「ライタ、冷却の魔道具で何か良い案が無いかな」

『冷却手榴弾はどうだ』


 手榴弾というと投げてしばらくたってから、周囲を冷却する。

 なかなか良さそう。

 但し値段が問題だ。

 パワーを強くすると冷却地雷ぐらいの値段になってしまう。

 冷却地雷は実質ギルドのお金で作ったから良いが子供が買える値段ではない。


「駄目だ。価格が高くなる」

『コスパは常に付いて回る問題だ』


「効率良い冷却ってなんだろう」

『分子の動きを止めれば良いんじゃ』


 魔力に命令では出来そうだな。

 スキルには無いだろうな。

 却下だな。


「生水と冷却と送風という生活魔法の合わせ技はどうだろう」

『気化熱と冷却のダブルで冷やすのか。パワーがどうかな』


 たしかに冷却効果は弱そう。

 強くすると魔石の値段が跳ね上がる。

 上手くいかないな。


「値段と効果が釣り合わない」

『ギルドに持たせたら良いんだよ。道具の貸し出しの制度でも作らせろよ』


 たしかにそれなら値段は気にしなくても良い。

 ただ、無茶をやる奴は増えるだろうな。


「なんか無理そうだな」


 冷却手榴弾は普通にマリリの店から売り出そう。

 それが一番良いような気がした。

 子供が討伐するのがいけないのだ。

 大人が高い金払って道具を買って討伐するのが正常な状態だと思う。

 液体窒素噴霧の簡易魔道具は安価でマリリの店から売り出そう。

 森に行くときのお守りだと考えれば良い。


 俺が出来るのなんてこの程度だ。

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