第77話 リンナの工房にて
いよいよ出発だ。
「あの、サンダー準男爵、何もないのですが」
「まあ見ててくれよ」
俺は半分呆れ顔のランデ男爵を尻目に輸送機の作成に取り掛かる。
一瞬でずんぐりした機体が出来上がる。
「なんか可愛いのね」
マリリが感想を述べる。
その横ではランデ男爵のあんぐりと口を開けた姿が目に入った。
そんなに驚かなくても。
「さあ入って」
胴体に開いた穴から入りアイテム鞄からソファーを出し設置する。
『皆様おはようございます。この飛行機はライタ航空、エルフ国行き、101便でございます。当機の機長はフィル、私は客室を担当しますライタでございます。御用がございましたら遠慮なく客室乗務員にお知らせください。間も無く出発いたします。シートベルトを腰の低い位置でしっかりとお締めください』
ライタが皆に聞こえないのを良い事に下らない事を言っている。
ランデ男爵は落ち着いたのかソファーにふかぶかと座っていた。
モリーとユフィアは窓際の席を確保して乗り出すように窓に顔を寄せ離陸を今か今かと待っていた。
マリリ達一向はお行儀良く座って隣同士と雑談を始めた。
「ライタやってくれ」
輸送機はふわりと浮かび上がり、おおっと言う歓声が上がる。
ある程度上空にでると皆はくつろぎ始めた。
軽食を摘まんだり雑談に興じている。
そして、四時間ほど飛び休憩の為に訪れるアドラムが見えてきた。
街の人を驚かすのも悪いので少し離れた所に着陸。
アイテム鞄から馬ゴーレムを出し一団は街に向かった。
街に入るとマリリ達はは自分の店に行ったので、俺とモリーとユフィアはリンナの工房を訪ねた。
三人はブーツに皮のシャツと皮のズボンという一般的な旅人の格好だ。
「よお、リンナ。久しぶり」
「突然ね。それより後ろのちっちゃい子は誰」
「紹介しておく弟子のモリーとユフィアだ」
「モリーだよ、よろしく」
俺の後ろに控えていたモリーが片手を上げて元気に挨拶した。
「ユフィアです。よろしくお願いします」
ユフィアはおずおずと進み出て挨拶し頭を下げた。
「二人共よろしくね。と言うことは私の妹弟子になるのよね」
「そうだな、この二人には俺の全てを伝えるつもりだ」
「そう、私は薬草の人口栽培とあの白いポーションの作り方を教えてもらえれば文句はないわ」
「うーん、白いポーションなんだけど、作る過程で使っているスキルが禁忌に凄く近いんだ」
「なんとかならない?」
そうか、一番問題なのは魔力量だ。
とりあえず魔力ゴーレムが使えれば良い。
魔力ゴーレムを作る簡易魔道具が解決の鍵だ。
俺は魔石を取り出し魔力視を組み込んだゴーレム使役の簡易魔道具を作った。
そして、それをリンナに手渡す。
「何これ。えっ、何かぞっとする物に包まれているんだけど」
リンナは魔力ゴーレムに包まれている。
どうやら成功したみたいだな。
「その感覚は出来るだけ無視した方が良い。禁忌に踏み込むぞ」
「でどうするの」
「そのぞっとする物から魔力を吸い取れ」
「やってみたわ。確認してみる、ステータス。すごい魔力が回復している」
「王水の作り方は濃塩酸と濃硝酸を三対一で混ぜる。それを水魔法で作り魔石を溶かすんだ」
モリーが見て見て変な道具と言ってポーションを作成する道具を指差す。
「なるほど水魔法で溶かした後に魔力変質を掛けるのね。こら、モリーちゃん道具に触らないで」
「モリー、暇なのは分かるが我慢しろ」
「ごめん」
「暇なのは仕方ないわよ。お茶にしましょう」
「そうだな。ところで回路魔法は覚えた?」
「ばっちりよ」
リンナはお茶の準備をしながら俺に答えた。
「じゃあ第二段階だな魔法防御の簡易魔道具を作るからそれを習得だな」
「お茶菓子にクッキーを用意したわ。みなさん召し上がって」
二人が良いのという目で俺を見上げる。
「せっかくだから、頂いとけ」
モリーは猛烈な勢いでクッキーを食べ始めた。
ユフィアは上品にお茶を飲んだ後クッキーに手を伸ばした。
「それで、話を戻すけど。他に覚えたいスキルはあるか」
「抽出と混合と洗浄は欲しいわね」
「見事にポーション作りに偏っているな」
「ええ、ポーション職人ですもの。そこは譲れないわ」
「分かった。作っておくよ」
「何か長旅に出るような格好だけど、これからどこか行くの」
「エルフ国までちょっとな」
「エルフ国は今大変らしいわよ。エルフのコミュニティがあるのだけど、そこで話題になったわ」
「へえ、どんな」
「逃げて来た人によると、スタンピードが六回ぐらい起こったらしいわ」
「でも討伐はできたんだよな」
「エルフ国の主戦力は弓と魔法だから、空を飛ぶ虫魔獣と相性が良いみたい」
「今までのはなんとかなったが今回は相性が悪いのか」
「そうね。今まで出てきたのはバッタ、ゴキブリ、カマキリ、こおろぎ、セミ、カミキリ虫の魔獣だそうよ」
「どれも手強そうだ」
「カミキリ虫以外は紙装甲で矢が威力を発揮したらしいわ」
「カミキリ虫はどうしたんだ」
「幼虫を討伐して成虫は魔法でやったと聞いたわ」
「なるほど」
「そこでちょっと相談があるのよ」
「物によるけど聞くよ」
「私は子供の頃にエルフ国からこの街に移り住んだわ。他のエルフも同様な人が多いの。それで親戚が心配で誰か様子を見に行けないか探していたところよ」
「誰か一緒に連れてって欲しいのか」
「私が行くわ」
「分かった一緒に行こう」
一時間で準備するようにリンナに告げて俺達はマリリの店に行った。
「チェルはアドラムと王都の間の定期便を。セシリーンは私とエルフ国へ。ティルダはアドラムの取りまとめをお願い」
マリリが真剣な顔で言った。
どうやら会議中みたいだ。
マリリとチェルとティルダは椅子に座り、セシリーンと他の団員は立って話を聞いている。
「はい」
「私は護衛だからな」
「ちぇ留守番か」
「文句言わない。アンジーとロナとメリンは新しく入った人を鍛えてね。その人が自分の手足になるのだから」
「「「はい」」」
アンジーとロナとメリンは副団長候補なんだな。
三人とも俺より若そうだ。
「ジェシェは副店長よ。私がいない時の店の事はお願い」
「はいですな」
ジェシェはマリリより年がいっている様に見える。
顔は笑っていても目が笑っていない。
油断できない感じだ。
マリリが雇った人間だから文句は言えないが。
本当に信用できるのかな。
「じゃあ各自持ち場に戻ってよろしく。解散」
マリリがそう言うと団員が動き始めた。
人が引いた時を見計らって俺は話し掛ける。
「マリリさんも商会長が板についたね」
「こら、冷やかさないの。保護者がするような目はやめて」
「良い機会だから希望者にスキルのコツを教えよう」
「もうはぐらかして」
俺は希望する団員にスキル獲得のコツを教え始める。
今回は筋力強化も教える項目に加えた。
スキル獲得のコツを教える時に科学的に分かる事は詳しく教える。
こうすると覚える効率がよくなるのではないかと期待したからだ。
そして、同行する団員に簡易魔道具を支給して、荷物を預かりアイテム鞄に収納した。
準備が整う頃にはリンナも合流して再び空の旅となった。
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