第78話 エルフ国首都に到着
ワイバーンの領域を飛び越えるとエルフ国の国境だ。
街道はワイバーンの領域を遠回りしているから遠くなるが空を飛ぶと早い。
植生が変わり何となく南国ムード漂う森林になった。
物見遊山している場合でもないがゆっくりと低空飛行する。
今日中には到着する予定だから三十分ぐらい遅く飛んでもいいだろう。
輸送機には幾つも窓があり外が見える。
モリーとユフィアは大はしゃぎだ。
森の樹は魔木らしく変わったものが多い。
オレンジ色の綺麗な樹があったので紅葉しているのかなと思ったら果物の実が沢山生っていた。
こんなに実が生ると魔獣も良く育つのだろうな。
小鳥大群が眼下で森から泉の様に湧き出す。
雷鳴の轟きにも似た雄叫びが上がり、グリーンの巨体が姿を現した。
巨体はぐんぐん加速して、輸送機と並んで飛んだ。
ドラゴンだ。
不味い、首を曲げてブレスをこちらに吐こうとしている。
風魔法を使い輸送機の速度を急激に落とす。
がくんと揺れが起こり輸送機の中に立っていた人間は皆つんのめった。
「ライタ」
『一番から四番ポッド、対空ミサイル全弾発射』
「へいへい」
俺は小声でライタに返事をした。
そして、ゴーレム騎士団に向けて言葉を続ける。
「皆さんやっちゃて下さい」
なんちゃって輸送機の胴体に穴が四つ開きそこから風が吹き込んでくる。
ゴーレム騎士団の面々の長い髪がはためいた。
取り出した対空ミサイルの簡易魔道具がオレンジ色の軌跡を描いて射出されていく。
後ろから追いかけていたドラゴンとミサイルはドッグファイトを展開。
次々に上がる爆炎。
やったか。
これがフラグって奴か。
爆炎から衣を脱ぎ捨てるようにドラゴンが姿を現す。
無傷とはいかなかったみたいだ。
翼には所々穴が開いている。
効いてるぞ。
ドラゴンの速度も落ちている。
これなら。
「皆さん、中央を空けて」
俺の声に従って皆が壁際に寄る。
加速砲を輸送機の機内に展開した。
本来なら荷物を降ろすハッチある所を大きく開け。
狙いを定めて追いすがるドラゴン目掛けて誘導弾を加速砲で放った。
空中に血の大輪の花が咲く。
ドラゴンは一声鳴いて墜落。
ふう、なんとかなったな。
長い事後ろを向いていると輸送機が墜落しそうだ。
慌てて機首の方に戻り、前方を見る。
眼下には岩の絶壁があり、そこから幾本もの滝が流れていて、虹の橋を掛けていた。
極彩色の鳥が多数飛んでいた。
心が洗われるような景色だ。
「綺麗ね」
マリリが言った。
「あそこがドラゴンの縄張りだったのかも」
「あの絶景を守りたかっただけなのかも知れないわ」
「悪い事したかな」
「そうかもね」
「これで、サンダー準男爵もドラゴンキラーですね」
ランデ男爵が甘いムードをぶち壊した。
『余計な時に出て来てとか。思っているだろ』
ライタが冷やかした。
「そんな事無い」
「おや、満足されてないご様子」
ライタが余計な事を言うから。
「なんとなく誇る気になれない」
「そうですか。エルフ国では誇れるような活躍に期待してます」
眼下には再び雲海のごとく森が広がる。
道が唯一、文明がある事を証明していた。
所々開けた場所がありそこには家屋がごちゃっと建っていた。
「あっ、あの村は昔行った事がある」
リンナが何時の間にか機首の方に来て独り言を洩らす。
「懐かしいのか」
俺は前から視線を外さない様にして声を掛けた。
「ええ、エルフ国の思い出が昨日のように思い出されたわ」
「会いたい人もいるんじゃないから」
「ヴァレ兄に会いたいな。従兄弟なのよ。集音スキルを覚えたばかりの頃だったわ。小さな物音にも敏感になって臆病になった時に励ましてくれたの」
「そうか、会えるといいな」
「ええ」
飛行は続いて、眼下にエルフ国の首都が見えて来る。
木が無い所が河しかなかったので水しぶきを上げて着水した。
やっと、エルフ国に到着したぞ。
輸送機を静かに岸につける。
胴体の横が開き搭乗していた人達を降ろした。
お疲れと声を掛けて輸送機を消す。
同じ姿勢が身体を固まらせたのだろう、降りた人達は伸びをしたり屈伸をしたり剣を振ったり様々だ。
輸送機が消えた事に驚いているエルフの漁師にリンナがすいませんと謝っていた。
俺は罪滅ぼしに魚を幾つか買い求めた。
アイテム鞄から馬ゴーレムを出す。
全員騎乗し、街に向かって行軍を開始した。
魔木の馬ゴーレムはさほど珍しくはないのか、奇異の目で見られる事はなかった。
街に近づくと道は石畳になり、馬ゴーレムは馬蹄の音を響かせた。
道の左右には露店があり、こういう営みはどこもかわらないなと思った。
建物の幾つかは壊れていて、スタンピードの爪痕を思わせる。
横を行くリンナの顔が曇る。
故郷を破壊されて悔しいのだろう。
今回の件はできるだけ頑張ろうと思った。
道が込み始め俺達は移動を徒歩に切り替えた。
「外国人の支援反対」
「外国の軍隊は入れるな」
声を張り上げている一団がいる。
耳を澄まして聞いてみると、救援してもらうなんてもっての他だと言っている。
属国にされる危険を冒してまで救援してもらう事は無いとも言っていた。
「受け入れ賛成」
「もう限界だ」
「外国との融和を」
一方でもう耐えられないとの声もある。
救援でも何でも手を尽くすべきだとも言っていた。
「なんか感じ悪い」
「そう言うなよモリー」
「でも、喧嘩するよりも先にする事がありそう」
「そうだな。魔獣を一匹でも多く退治すればいいのにな」
『人間の愚かさだな。俺の世界でもこんな感じだ』
出だしから前途多難な感じだ。
宿を取る。
森の雫亭という宿だ。
「お客さんは外国の人みたいだけれど、どっちだい」
「受け入れ反対か賛成かって事。そんなのどっちでも良い。世界から魔獣の脅威が消えればな。かといって魔獣を全滅させようとも思っていない。上手く言えないけど、ほどほどが良い」
「そうだよね。何よりほどほどが一番さ。森の恵みも採り過ぎると大変だし繁殖しすぎも困る。そういう事だね」
「ああ、そうだ」
「気に入ったよ。宿代をまけてあげるよ」
なんでか分からないが宿の女将に気にいられてしまった。
前途多難だと思っていたがなんとかなりそうな気もしてきた。
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