第70話 ゴーレム騎士団の戦闘

 教会所属のポーション職人は上の指示に従って痛み止めを作っているようだ。

 盗聴の簡易魔道具を仕掛けて命令系統を上に遡る。

 そして、遂に突き止めた黒幕はホレス大司祭という人物だった。


 証拠は中々集まらない。

 どの人物がただ単に命令に従っていて、どの人物が悪事を働いている意識があるかの線引きが難しいからだ。

 ホレス大司祭を告発すれば一発だが、盗聴器では証拠にならない。

 そこで取った作戦は痛み止めの帳簿を押さえる事だ。


 作成した数と使用した数が合わなければ責任問題に問える。

 過去の帳簿をこっそり持ち出し、皆で調べてみたところ帳尻は合っていた。

 これは治癒師が加担しているな。

 中々敵も尻尾は出さない。




「セシリーン、こうなったら。治癒師に罪状鑑定かけまくりましょう」

「そうだな、特別査察だな。聖騎士の権限の一つを使おう」


 俺達は治療院に査察に入った。

 騎士団がゴーレムと一緒に治癒師の部屋になだれ込む。


「なんだね君達は」


 治癒師の代表の男が言った。


「聖騎士の権限により今から治癒師に罪状鑑定をかける」

「横暴だ。なんの嫌疑だ」

「薬の横流しだ」


「はい、そこ。今、書類を隠したでしょ。出しなよ往生際が悪い」


 騎士団のメンバーがテキパキと治癒師を裁いて行く。

 俺とセシリーンと団員は手分けして罪状鑑定を掛けた。

 この日の為に罪状鑑定の簡易魔道具は沢山作って置いた。


 驚いた事に治癒師の大半が罪状鑑定に引っ掛かる。

 誤診などを気に掛けている者が多い。

 そうだよな誤診すれば罪の意識は芽生えるよな。


 そこからは真偽鑑定の出番で薬の横流しの事実がある者を捕らえる事ができた。




「大変です。ホレス大司祭が反乱を鎮圧すると言って兵を集め始めました」


 息を切らせて教会兵が知らせにきた。

 俺達の行動を知って打って出る事にしたのだな。

 俺達を反乱の首謀者にするつもりなのだろう。


「戦いならこっちに分がある。決戦しよう」

「そうだな、やむ得ない。一当てしよう」


 俺の言葉にうなづきながら、セシリーンは答えた。


 それから、俺達は大司祭の屋敷に進軍した。

 敵は300人ほど、味方は騎士団が十二人だ。

 圧倒的にこちらが負けているが、俺が魔力ゴーレムを出せば戦力差はすぐ埋まる。


 敵は屋敷の庭に展開しており、鉄柵を盾に篭城戦をするようだ。

 弓矢を全員装備している。

 数が多いのだから打って出ると思ったが臆病なのかな。


 俺達は馬ゴーレムに乗り俺が先頭で陣形を組んだ。

 安全なのは加速砲で遠距離から一方的に攻撃なのだが。

 教会兵は命令に従っているだけなのでなるべく怪我をさせたくないとのセシリーンの言葉でこの作戦になった。


 土魔法を前面に出した突撃する。

 矢が土魔法に当たって弾かれ、突撃で鉄柵が壊れる。

 俺達は庭になだれ込んだ。

 俺はライタに命じて魔力ゴーレムの電撃を使い教会兵の排除を試みた。

 教会兵と私兵の区別はすぐつく教会兵はお揃いの鎧を着て教会紋章の入った盾を装備している。

 私兵はたぶん闇ギルドの人間なのだろう、盗賊みたいな格好をしていた。


 魔力ゴーレムの電撃で教会兵がばたばたと倒れる。

 これで教会兵は全員が倒されたと思う。




 ゴーレム騎士団はというと。


 馬ゴーレムに私兵が群がる。

 前方に立っていた私兵は馬ゴーレムの前足に蹴られて吹っ飛んだ。

 馬ゴーレムの下に一人もぐりこむが、何も出来ずに後ろ足に蹴られて踏まれた。

 普通なら馬の下にもぐりこむと腹を攻撃し放題なんだけどゴーレムに急所や痛覚はない。


 馬上のゴーレムが大剣を振り下ろす。

 一人頭を勝ち割られて戦線離脱した。

 死人出ている気がするけどゴーレム騎士団に罪状鑑定は関係ない。

 罪状鑑定を受けなくて良い職業に兵士と傭兵がある。

 ゴーレム騎士団は傭兵ギルドに登録していると聞いた。




 他はと目をやると。

 馬ゴーレムに角を生やして頭突きをしている団員がいた。

 剣技が苦手なんだろうな。

 馬の下にもぐりこまれたと思ったら、馬ゴーレムの腹にトゲを生やして押しつぶした。

 面白い発想だ。

 次は何をするのかと注目していたら、戦闘用ゴーレムがするりとすべった。

 そして、曲乗りするような格好になったと思ったら近くに居た私兵の首を絞めた。

 そこは剣でなぎ払うとかじゃないのか。

 そして、驚いた事に馬ゴーレムが前足を腕にからめ折る。

 なんでもありだな。




 魔力結晶ゴーレムを馬ゴーレムに乗せて魔法を放っているのが目についた。

 魔力なんて関係ないとばかりに土魔法をつるべ撃ちしている。

 この団員はたぶん魔力量が少なくて魔法使いにはなれなかった口だろう。


 他の団員も似たり寄ったりで奮戦している。

 馬ゴーレムと戦闘用ゴーレムを同時に扱うなんて器用だと思ったがタネがある。

 馬ゴーレムと戦闘用ゴーレムを一つのゴーレムとして扱うのだ。

 ケンタウロスを扱っているイメージだ。

 この間、こっそり教えて貰った。




 セシリーンとティルダが遅れて駆け込んできた。


「抵抗する者は聖騎士の名に置いて成敗する」

「セシリーンさん、ぼやぼやしていると部下にみんな持ってかれるよ」


 セシリーンとティルダの蹂躙が始まった。

 セシリーンは斬撃強化スキルを発動すると剣を持っていた男の片腕を切り飛ばした。

 そして、返す刀で首を薙ぐ。

 容赦がないな。

 そして、男を蹴飛ばすと受け止めた男ごと刺し貫いた。

 本当に容赦がない。

 怒らせないようにしよう。


 セシリンーンは剣を手放し、短剣を両手に持ち呆気にとられている男二人に向かって投げた。

 短剣は喉に突き刺さり男達は短剣を抜こうとして息絶えた。

 剣を引き抜き、次の獲物を探すようだ。




 ティルダを見ると低い体勢で地を這うように走り、足を切断して回っている。

 つむじ風が攻撃しているようだ。

 くるくると回るありさまは舞踏のようにも見える。

 俊足と筋力強化のスキルを発動しているに違いない。


 俺は援護しようと思ったが必要ないみたいだ。

 その様子を見ていた私兵は次々に武器を捨てて降参する。

 弱いな。

 良く考えたら当たり前か。

 病人相手の商売に武術は要らないだろう。

 薬代という枷があるのだから切った張ったはしてないはずだ。


 俺達の査察を事前に察知できなかったから腕の立つ人間を呼び寄せる暇もなかったと思う。




 生きてる敵は全員武装解除して契約魔法を掛ける。

 そして、屋敷の扉に突撃をかけたが跳ね返された。

 内側で土魔法を使い補強しているに違いない。


 俺は馬ゴーレムから降り、加速砲を放った。

 轟音と共に扉が吹き飛ぶ。


 セシリーンは皆ちょっと待てと団員に声を掛けた。

 そして、開いた入り口から中に入り、しばらくしてホレス大司祭を引きずり出して来た。

 セシリーンの返り血の量から察するに中でも戦闘があったようだ。


 とにかく、こうして腐敗の温床は潰された。

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