第69話 偽薬

「そろそろ情報ってのを喋らないか」


 俺は店の商談室でセシリーンに話し掛けた。


「駄目だ。貴様には話せない」

「俺は知っているんだ。村に潜入した時に孤児院からでなく定期的に違法奴隷が送られてくると聞いた」

「貴様はどこまで知っている」

「送られてきた人は病人かその家族だってな。教会がやっている治療院が怪しいんじゃないのか」

「そこまで知られたか。そうだ、治療院で金を払えない人間が違法奴隷になっている。その数は年間で千人を越える」

「大事だな」

「ハーヴァルに大きい治療院がある。そこが腐敗の温床らしい。密告の手紙にそう書いてあった」

「話は聞いたわ。騎士団で乗り込みましょう」


 マリリがコップを手にドアを開け入って来た。

 さてはドアにコップを当てて聞いていたな。


「駄目だ。危険だ」

「俺も反対だな」

「セシリーンが怪我をする所はもう見たくないわ。それにフィルも危ないまねして欲しくない」

「団員は巻き込んでいいのか」

「厄介事は大人数で当たればなんとかなるものよ。それに団員もセシリーンを助ける為だったらなんでもするって言ってたわ」

「セシリーン、慕われてるな」

「み、みんな、ありがとう」


 セシリーンが少し涙目になっていた。


「しょうがない。知られてしまったんじゃな。セシリーン、みんなで乗り込もう」




 俺達はハーヴァルに向かって移動を開始。

 ゴーレム騎士団の面々は馬ゴーレムにゴーレムと二人乗りする何時ものスタイルで行進する。

 道中は魔獣が何回か出てきたぐらいで障害と呼べるものはなくハーヴァルに到着した。


 ハーヴァルは周りを森に囲まれている長閑な街だ。

 そして、近くには湖があり観光名所にもなっていた。

 街は治療都市とも呼ばれていて、治療院が立ち並んでいた。

 俺達は魔石ポーションを売りに来た隊商という事で街に入る。


 マリリとセシリーンは密告者に会いに行き、ついでに魔石ポーションを売りに行くようだ。

 しばらく経ってマリリとセシリーンは帰って来た。


「どう、なんか分かった」

「薬代や治療費の吊り上げは行われていないようだ。ただ払えないとなると高利貸しを紹介されるらしい」


 俺の問いにセシリーンが答えた。

 高利貸しは闇ギルドと繋がっているだろうから捕縛できるけど、教会の関係者はどうもな。


「高利貸しを紹介しただけじゃ、どうにもならないな。しばらくこの街に滞在して情報を集める手だな」

「そのようだな。団員にもそれとなく街の噂話を集めてもらうとするか」




 俺はやることがなかったので、魔石ポーションを作る。

 そして、魔石のカスで造花を作った。

 造花を露店で売る。

 街の人に色々な話を聞くと怪しい話は出てこなかった。


 俺と同年代の女の子が露店の造花を真剣に見ていた。


「どう、綺麗だろう。十本買ったら一本おまけするよ」

「人間も造花みたいに枯れないと良いのにね」

「それじゃ生きているとは言わないだろう」

「うっ」


 女の子は胸を押さえて苦しむ。

 そして震える手で薬を出すと少しこぼしながら飲んだ。


「大丈夫か」

「薬を飲んだから大丈夫」

「どんな薬なんだ。俺もたまにポーション職人の真似事をするから興味がある」

「いいわよ、これよ」


 女の子は封を切っていない薬を取り出した。

 薬はポーションだった。

 しかし、その効果は強力な痛み止めだ。


「これ痛み止めのようだけど」

「えっそんなはずは。これを飲み続ければ治るって」


 治療師が病人が絶望しないように嘘を言ったのかな。

 でも何か胡散臭い物を感じた。


「私死ぬの。もう助からないの」

「ライタ、超越者の知識で彼女の病気を調べてくれ」


 俺が小声でライタに頼んだ。

 彼女は放心していて、俺の独り言も耳に入らないみたいだ。。


『おう、調べたぜ。治癒魔法で治るな』

「そうか、手っ取り早く直すか」


 ライタが彼女を治癒魔法で治す。

 もちろん魔力は自然の魔力に偽装して体に侵入させた。


「痛みが全く無くなったわ。痛みも感じなくなったのね。もう駄目なんだわ」




 彼女には申し訳ないが囮になってもらう事にした。

 露店をたたみ彼女の後をつける。

 彼女はオラン治療院という所に入っていった。

 教会ではないのだな。

 教会なら話は早かったのに。


 迷彩スキルを発動して彼女に続いて中に入った。


「話が違います。薬を飲んでいれば治るって」


 彼女は治癒師と思われる男性に詰め寄っていた。


「ちっ、めんどくさい事になったな。あなたの病気は治らないんですよ」


 やぶ決定かもしくは嘘をついているかだな。


「じゃあこれまで掛かった薬代を返して下さい」

「返せるわけないじゃないか」

「訴えてやる」


 治癒師は瓶を出すと彼女に浴びせた。

 彼女は倒れこんだ。

 俺は阻止しようとしたが駄目だった。

 ちくしょう間に合わなかった。

 死ぬな、死ぬんじゃない。


『心配するな眠っているだけだ』


 俺はほっとして薬瓶を一つ倒してしまった。


「誰かいるのか。こんな所を見られたら破滅だな。闇ギルドに連絡を取って彼女を連れて行ってもらおう」


 俺は彼女を回収にきた闇ギルドの人間を眠らせ、彼女を助け出した。

 ライタに良い考えがあるというのでそれに乗った。




「あれ、私は。どうしたのかな」


 俺はどくろの仮面を被り姿を現した。


「俺は死神だ」

「いよいよお迎えが来たのね」

「悲劇に浸っているところ悪いがお前は病気じゃない。お前の病気は俺が殺した」

「そうなの」

「今後は好きなように生きるといい。治癒師は嘘をついた天罰が下る。近づかない事だ」

「そうします」


 俺は迷彩スキルを発動して姿を隠した。


 闇ギルドの人間と治癒師を捕まえた事でからくりが分かった。

 効かない薬で代金を絞りとり違法奴隷に落とす。

 そんな手口らしい。


 俺達は偽薬の材料の薬草を簡易魔道具で製造して、ハーヴァルの街で売りに出した。

 大量に欲しいと教会の治療院から打診が来た。

 餌に食いついたようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る