第40話 潜入タイン商会

 今だ。

 ドアが開いて中に誰も居なくなった瞬間を俺は見逃さなかった。

 廊下の角を曲がったのを確認して、タイン商会会長の弟の執務室に、俺は迷彩スキルを使い忍びこんだ。


 数分後、副ギルド長である弟が帰って来たので観察する。

 数時間、張り付いただけでは何も分からない。

 判明したのは名前がリステリーという事と無能だという事だけだった。

 駄目だなと諦めて盗聴と盗撮の簡易魔道具を隙を見て取り出した。

 簡易魔道具は猫と犬の置物の形に偽装してあり、本棚の空いている場所にちょこんと設置。

 これでなんとかなるだろうと、お茶くみに来てドアを開ける事務員の脇からすり抜け部屋の外に出た。

 ちょっとお尻に手が当たった気もしたが、ばれてないようだ。

 副ギルド長のいたずらだと事務員は思ったようで、副ギルド長に悪態をついてドアを閉めた。




 何か情報がないか探して商業ギルド中をうろつく。


「くそっ、リステリーの野郎、好き勝手しやがって」


 廊下で悪態をつく人物を見つけた。

 年の頃は四十台で髪の毛が若干薄くなっている身なりの良い男だった。


 この男は使えるかも。

 ばれないように後ろをついて行く。

 移動は水魔法の循環だから、足音がしないのでばれないとは思う。

 執務室に一緒に入り観察する。

 名前はトバイロスだという事が分かり、なんとギルド長だった。


 俺は迷彩スキルを解いて姿を現す事にした。

 眉をピクリと上げただけで驚かないトバイロス。


「えっと、怪しい現われ方だと思うけど、怪しい者じゃ無いんで」

「そうか、では何者か語ってもらおう」


「俺はフィル。Bランク冒険者でタイン商会の悪事を暴こうとしている者だよ」

「なるほど冒険者ギルドが遂に動き始めたか」

「いや、俺の独断だ」


「ふぅ、がっかりだな。失望したよ」

「でも俺も中々役にたつと思わないか」

「そうだな、リステリーぐらいなら、なんとかなるか。でもな、タイン商会が黙ってないだろう」

「詳しくは言えないが、声と映像を記録する魔道具をリステリーの部屋に仕込んだ。この後、タイン商会にも仕込む予定だ」

「よし、タイン商会に魔道具を仕込んで生きて帰ってこれたら話に乗ってやろう」

「分かった。その時はよろしく」


 商業ギルドを出て、近くの脇道に入り迷彩スキルを解く。

 さて、次はタイン商会だな。




 タイン商会は大通りに面した所に店を構えており、人が盛んに出入りしていた。

 迷彩スキルを発動して店の中に入る。

 店の中は綺麗に商品が陳列してあって掃除も行き届いていた。

 扱っている商材はざっと見ただけで衣服、家具、雑貨、食器、工具、本と幅広い。

 売り場も商業ギルドの面積に匹敵するであろう広さだ。

 そして売り場は三階にまたがっていて、事務所は四階らしい。

 三階と四階をつなぐ階段の入り口は厳重な警備が敷かれていた。


 警備員の近くに寄った時。


「むっ、風に乱れが」

「何か入り込んだ可能性がある。刺客が見えない魔獣を放ったのやも」


 迷彩スキルはメジャーじゃないのか。

 そういえばスキル大全にも載ってなかった。

 そのスキルを持った魔獣は少ないのかも。


「応援を呼ぼう」


 Cランクだと風魔法を風圧で察知すると知っていた。

 それから考えるにこいつらCランク以上なのだろうな。




 応援が大量に四階から追加された。

 うわ、大事になったな。

 さて、どうやって中に入ろう。


 俺は吸着のスキルを使い天井を這って移動する事にした。

 ドアの開けられたタイミングを見て、頭上をこっそりと通過した。


 四階に侵入し、執務室と思われる目当ての部屋を見つける。

 魔力視で部屋の様子を探る。

 中に人は居ないようだ。

 だが、部屋には鍵が掛かっていて入れなかった。

 これは、待つしかないだろうな。




 待つこと一時間。

 やっと用心棒を引き連れた一団が現れた。


 近づくとばっさりやられそうだ。

 簡易魔道具に魔力ゴーレムを付けて運用する手だな。

 ドアを開けた時に念動スキルと迷彩スキルを掛けて簡易魔道具を忍び込ませ設置した。


 ドアが閉まったので集音のスキルを作動させる。


「さっき、ことりと何か物を置いた音がしなかったか」

「気のせいだろう。俺は聞いてない」


 用心棒が話をしている。

 あんな小さな音にも反応するとは近づいたら危ない所だった。

 これ以上は危ない気がする。

 退散するとしよう。


 ついでにニエル商店にも簡易魔道具を仕込んだ。

 商業ギルドのトバイロスの執務室に再び忍び込んで姿を現す。


「タイン商会に魔道具を仕込んだよ」

「そうか、証拠を何か見つけたら知らせろ。そうすれば色々動いてやろう」

「契約成立だな」

「吉報を期待しているよ」




 俺は自宅に戻り、色々な生産を始めた。

 火球カードに魔石ポーション、ぬいぐるみ用の簡易魔道具、家具の変形の簡易魔道具、それにフィギュアを作った。




 沢山の商品をゴーレムに持たせ、ルシアラの店を訪ねる。

 マリリはルシアラと話をしている最中だった。


「こんちは」

「おう、いっぱい持って来たな」

「フィル、ありがとうね。私の為に」

「気にしなくても。マリリさんには世話になったから」


「それで、ネットの野郎の尻尾はつかめたか」

「そちらは追々」


「フィル君、危険な事してないでしょうね」

「大丈夫だよ。協力者も見つけたし」




「この白い液体は何?」

「魔石から作った疫病治療ポーション」

「それは高く売れそうね」

「それなんだけど、なるべく安く売ってほしい」

「でも、今まであるポーションとの兼ね合いもあるし」

「疫病治療ポーションでしか治らない患者が沢山いるみたい」

「そうね、それなら十分の一ぐらいで売りに出されるようにしないとね。薬師ギルドに交渉してみるわ」




「これからはちょくちょく納品にくるよ。それと薬草なんだけど、置いておく所がほしい。どこか安全な広い場所を借りれないかな」

「うーん、今までの薬草の利益をつぎ込めば借りれない事もないけど。警備が大変ね」

「ルシアラ、女ゴーレム使いが余っているんだろ。魔木ゴーレムを沢山貸すから、警備させたら良いんじゃないか」

「それは良いな。大賛成だよ」


 ルシアラは大賛成みたいだ。

 それと、薬草にする前に雑草を選別できないかな。

 選別できれば手間が減るんだが。

 そうなると育てる必要がなくなって、村が潤わない事になるな。

 当分は今まで通りで行くしかない。


「じゃあ、沢山の薬草を集めるよ」

「私は置き場所を確保しておくわ」




 とりあえず、やる事は魔木ゴーレムの量産と薬草集めとタイン商会の証拠集めだな。

 そうだそれに金策の為にダンジョンを攻略するんだった。

 タイン商会の方は簡易魔道具が三日ぐらい作動するはずだから行動はその後だ。


 それと、ゴーレムポーションを何かに使えないかな。

 俺が治癒魔法師として働くのは論外だな。

 スキルを受けいけれなくとも効果を発揮すればもの凄い便利なんだけど、上手く行かないのは分かっている。

 俺に使うポーションが無くて困った時に役立つくらいか。

 これから忙しくなりそうだから、タイン商会の件が片付いたら考えてみよう。

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