第39話 ゴーレムポーション
リンナの工房のドアをノックして返事を待つ。
反応がないので気にせず入る。
「リンナ、お礼を持ってきたぞ」
「フィル、いつ来たの。考え事して気がつかなかったわ」
俺は魔石から作った造花を差し出した。
「ありがとう、嬉しいわ。ところでこの花のモデルはどの国の花」
「架空の花だから、存在しないよ」
「良かった。植物の知識には自信があったから、知らない花だったらプライドを損なうところだわ」
「そう言えば、考え事って?」
「例の白いポーションよ」
「あのポーションに何か副作用とかあったのか」
「いいえ、でも不思議な結果だったわ」
「そうなんだ」
「スキルと同じように受け入れないと効果を発揮しないの」
「へえ、なるほど」
使っている魔力は俺の魔力だもんな。
薬草の魔力は何か特別なんだろう。
「それとね、魔力疲労が起こったわ」
「それで悩んでいると」
「あのポーションの作り方に非常に興味があるのだけれど」
「教えても良いよ。ただし、吸光スキルを持っている人を紹介してほしい」
「何をするの」
「見せてもらうだけだよ」
「なにか良く分からないけど、お安い御用よ」
「じゃ言うよ。魔石を水に溶かしてポーションを作るスキルを掛けるんだ」
「魔石の粉にスキルを掛けるのは良く知られている方法だわ。魔石を水に溶かすのはどうやるの」
「水魔法で王水って物質を作って溶かすんだ」
「そんな方法が。でも実現は無理ね。魔石をポーションにするのは、魔力がね、もの凄く必要になるの。ざっと百人分よ」
「へぇ、それは凄いな」
「あなたはどうやったの」
「そこは裏技を使った。それは教えられない」
「そうなの、けちね」
「禁忌に係わる事柄なんだ」
「それじゃ、しょうがないわ。魔石を使ったポーションは幻と言われているのよ。国中探しても一本あるかどうか。私も見たことがないわ」
「じゃあ、売るのやめた方がいいのかな」
「いえ、効率が非常に悪いから誰も作らないだけで。効果は普通のポーションと変わりがないから作るべきよ」
「それじゃあ、高価と言われる疫病治療ポーションを沢山作ってみるよ」
マリリの商材がまた一つできたな。
そして、リンナに連れられて、吸光スキルを持っている老人がいる治療院にやってきた。
白塗りの壁の治療院は清潔そうな感じがするけど冷たい印象もあるな。
その一室に入り、リンナは白髪の老人に挨拶をした。
「こんにちは、イシオさん」
「リンナちゃんじゃないか、久しぶりだね」
「初めまして、フィルです」
「それでね、フィルに吸光スキルを見せてやって欲しいの」
「こんな物で良かったらいつまでも見てってくれ。吸光」
吸光スキルは光を魔力に作り変えるのじゃなくて、光を魔力を呼ぶ物に変えている。
これを記録するのは骨が折れそうだ。
吸光で呼んだ魔力を記録するってのが一番簡単に思える。
後でゆっくり考えよう。
「何かお礼がしたいのだけど」
「それなら、この忌々しいひざを何とかして欲しい。痛くてかなわない」
「リンナ、どんなポーションなら治せる?」
「骨が磨り減って痛いのよ。傷を治すポーションなら少しの間だけど痛みがやわらぐわ」
今日はポーションは持ってない。
一度帰ってから届けるのが良いのかな。
そうだ、この場でポーションを作るのはどうだろう。
しまった、魔石も持ってない。
ある物と言えば魔力ゴーレムだけ。
魔力ゴーレムも魔力もっているよな。
それなら、ポーションになるかも。
やってみるか。
「イシオさん俺のスキルを受け入れて」
「おお、分かった」
俺は魔力ゴーレムに魔力変質のスキルを掛けて、傷を治す魔力に変えイシオさんに接触させた。
ゴーレムは体に吸い込まれ消えた。
「痛みがやわらいだ。治癒魔法か。しかし、だるい。不思議な治癒魔法だな」
「治癒魔法と似たようなものです」
「ねぇ、あなた幾つスキルを持っているの」
リンナから予想外の言葉を貰った。
「沢山だな。そうとしか言えない」
「フィルさん、厚かましいお願いがあるのだが。この治療院に居るシャロちゃんにも治癒魔法を掛けてやってくれないか」
「良いよ」
「助かった。あの子の痛みを少しでも減らしてあげたい」
俺とリンナはシャロちゃんの病室を訪ねた。
シャロちゃんは六歳ぐらいの女の子で盛んに咳をしている。
ベットには赤痰病の患者が寝ています健康な方以外は近づかないで下さいと書いた札があった。
「リンナ、赤痰病って何?」
「肺病の一種よ。疫病治療ポーションでしか治らないわ」
そうか、それならゴーレムをポーションに変えれば治せるかも。
「シャロちゃん、イシオさんに頼まれたんだ。スキルを掛けるから受け入れて」
「ゴホ、ゴホ、うん」
俺は魔力ゴーレムに魔力変質のスキルを掛けて、菌を殺す魔力に変えシャロちゃんに接触させた。
そして、続いて傷を治す魔力のゴーレムも接触させた。
「だるさが収まる頃には元気になっていると思うよ」
「赤痰病を治す、治癒魔法なんて」
「秘術だ」
リンナが俺を胡散臭そうな目で見ているが、すまない教えられない技術なんだ。
治療院から帰って、俺は盗聴の簡易魔道具作りを始めた。
集音スキルって魔力で空気の振動を読み取ってその読み取った振動を耳の中に空気の振動として再現している。
再生する機能まであるのか。
念動で再生するのはちょっと面倒だと思っていたからちょうど良い。
音を拾ったところで魔力を回収し回路魔法で音を記録した魔力の帯を作る。
録音の魔道具は出来た。
再生は記録した魔力の帯を順に集音スキルの後半で再生すれば良い。
記録したのを何回も繰り返し聞けないのが残念だが、それなりに使える物が出来た。
問題は映像記録だ。
吸光スキルで集まった魔力を記録するのは簡単に出来たが、再生が上手くいかない。
吸光スキルの魔力の形式を照明スキルで元の映像にするのは無理があるようだ。
「ライタ、なんとかならないか」
『変換器を作るんだな』
「どうやって」
『まずは、魔力のオンオフを動かしてデジタル信号を作る』
「それから」
『論理回路を作れればデジタル回路の完成だ。後はそれを組み合わせればオッケーだ』
「俺には出来そうにない」
『魔力操作のスキルを使えば出来そうなんだが』
「ライタに任せるよ」
『それじゃ、寝てる間に片付けておくよ』
朝起きたら、見慣れない魔力の塊が体の中に。
魔力走査するとどうやら変換器らしい。
なんて事をするんだライタの奴。
「おいライタ」
『凄いだろ擬似スキルだ』
「体に影響は無いんだろうな」
『魔力の塊だから、大丈夫だろう』
「でもどうやって作った」
『回路魔法って人間にも作用するみたいだ。超越者って裏技が大好きみたいだから試してみたらできた』
「もうやるなよ」
『いやここまでやったら。コンピューターを目指そうよ』
「夜に勝手に作りそうだな。仕方ないな。爆発だけは避けろよ。朝になったら死んでたなんてごめんだ」
『大丈夫だよスキルの組み合わせで製作したから』
ライタの奴、変に暴走したりしないだろうな。
信用できないが、信用するしかない。
何日か簡易魔道具を試して、これで諜報活動の準備が整った。
見てろよ、ネットとタイン商会。
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