お菓子の家をかじりたい。
文月みつか
【白雪姫】 毒リンゴの調達
「まあ、おいしそうなリンゴだこと」
白雪姫はおばあさんから手渡された真っ赤なリンゴをうっとりと見つめた。
「味見してみるかい?」
「いいの?」
「もちろん。おいしかったらたくさん買っておくれよ」
「う、うーん……」
しばし考えこむ白雪姫。
「でも、余計な買い物をすると小人たちに怒られそうだから、やっぱり遠慮しておくわ」
「そ、そうかい。なら、そうだね、買わなくてもいいから試食していいよ。その代わり、おいしかったら口コミで評判を広めておくれ」
「やあねぇおばあさん。この辺りに住んでいる人なんて、ほかにいないわよ。もし評判を流すとしたら、七つの山を越えて人里に下りないと。あたしにそんな無茶しろっていうの?」
「も、もういいよ。タダでやるから……」
「タダ? タダほど高いものはないのよ、おばあさん。そのくらい、私みたいな小娘でも知っているわ。私が小人さんの家に侵入してタダでご飯を食べたりタダで寝泊まりした代償は、一生仕えてタダ働きすることだったのよ」
「へ、へえ、かわいそうに」
おばあさんはもうこのやり取りが面倒になり始めていた。
「そういうことなら、このリンゴはあんたにこそうってつけだよ。小人たちに食べさせるがいい。たちまち血が凍りついて、永遠の眠りにつくよ。あんたは自由の身さ」
「えっ、ホント!? もー、それならそうと早く言ってくれればこんな回りくどいやり取りしなくて済んだのに。だめよおばあさん、若くてかわいい子が妬ましいからって安易に毒殺しちゃあ。でも、タダでもらうのはやっぱり気が引けるから、この食器と交換でどう? いいのよ、どうせ今夜には必要なくなるんだから。ああ、今日はなんてついてるのかしら!」
老婆は小人の家を後にすると、ぶるっと身震いした。
「そういやあの子はあたしの子だった。忘れてたよ……」
~・~・~・~・~・~・~
グリム初版ではお妃様は白雪姫と血のつながった実母でしたが、苦情が多かったのか、第七版では継母に変更されています。
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