その902 二人目
…………何だ、今の。
俺は今、ナタリーに何をされた?
何が起こって俺の手はこんな事に……?
ヒールなんかではない。確かにダメージこそ負うだろうが、こんなに芯に届くような、鈍く熱い激痛は走らないはず。
じゃあナタリーは一体何を……?
そこまで考えたところで、俺はハッと思い出したのだ。
これまで積もり積もった
――これは……
――な、何の冗談だよ。手が、手が生えてやがる……。
四肢の欠損すら回復させる伝説上の魔法、
――あの
――え、もしかしてナタリーの事ですか?
――そうです、ナタリーさん。
――ナタリーが何か?
――いえ、何がっていう訳じゃないんですけど、何か気になるような……そんな感じがして。
――曖昧ですね?
――何となくですけど、ちょっと気になる存在っていうか……。
――曖昧だな?
――う~ん……と、
聖騎士学校に入学した直後、俺と法王クルスとアリスで話し合ったあの時。
アリスとナタリーは大した交友も結んでいなかった。
だが、アリスはナタリーの事を言語化できない上で気になる存在だと言った。
――アリスさんってさ。
――アリスさん?
――うん。
――聖女なんだよね?
ナタリーが
ナタリーもアリスの事を……。
互いが、互いを気にしていた理由。
――やっぱりアナタ、聖女に似てるわね。
――アリスちゃんに?
――あの子もたまに確証がないのに決めつけて言うところがあるの。まぁ、アナタたちの場合、似てるのはそれだけじゃないけど。
クロードがシギュンを取材した時、シギュンは年齢も種族も違う二人を似てると言った。
だが、似ているのか?
似ているのではない。
――今日は
言いながらナタリーは俺の腹部にポンと拳を置いた。
――……っ。
――え? ごめん、ちょっと強すぎた?
ついさっきの出来事。
だが、俺の腹部には今のと似た鈍い激痛が走った。
俺はこの激痛を今までに何度も何度も経験してきた。
――ダンジョンで聖水を誤って飲んでしまった時。
――初めて【魔人】と戦った時。
――そして、【聖女アリス】に……出会った時。
アリスと出会ってから、俺は幾度もこの痛みを身体に刻み込まれた。今更間違うはずがない。
だからこそ、今のこの現状が理解出来ない。
いや、理解したくないというのが本心かもしれない。
リィたんも、エメリーも、アリスだって開いた口が塞がらないのだ。
今にも泣きそうで、何を話したらいいのか、どんな説明をすればいいのかわからないといった表情を浮かべ、俺に助けを求めるナタリーに、俺は……。
「……ぁ」
ナタリーの右手を再び手に取り、俺はただ、両の手でギュッと握りしめた。
そして、笑いながらナタリーに言ったのだ。
「いいね、この力があれば千人力だよ」
困惑なんて顔に浮かべちゃいけない。
それが一番ナタリーを不安にさせるからだ。
俺が言うと、ナタリーは少し驚いたようで、ホッとしたような表情を見せた。そして、俺に対して隠し事をしていた謝罪もあったのか、俯き、しかし前に進むようにコクンと一つ頷いたのだ。
「……今のって、【聖加護】……ですよね……?」
話さざるを得ない内容。
それ故、
「……そうみたい……だね」
だが、答えたのはナタリーだった。
「つ、つまりナタリーさんって……!」
エメリーが答えに辿り着く。
いや、【聖加護】を目にした瞬間、その場で全員が気付いてたはずだ。
だが、それを口に出来なかっただけ。
余りの衝撃故。余りの
「
今まで沈黙を貫いてきたリィたんがそう言った。
そう、ナタリーは【聖女】である可能性が非常に高い。
ならば、魔界でドゥムガと戦った時、腕を食い千切られ意識を失ったナタリーに対し、俺がテレパシーを使い、潜在能力を解放するかのように発動したあの
……なるほど、俺の【チェンジ】を二人が見破れるのには二人の特性が関係あったのかもしれないな。
聖女という同じ立場だからこそ、二人は互いが互いを意識し合っていた……という訳か。
……魔王復活の直前だというのに、とんでもない事が発覚してしまった。
俺はナタリーに聞く。
「そうか、霊龍が『今、貴女が考えている通りです』って言ったのは……」
「うん、あの時私は霊龍に聞きたかったの……私のこの力の秘密を」
ナタリーの説明に得心した俺たちだったが、一つ疑問が残った。
それを気にせず言える存在と言えば、やはりリィたんになるのだろう。
「だが、同じ時代に聖女が二人……これはどういう事だ、ミック?」
俺は疑問に答えられなかった。
いや、答えたくなかったというのが正解かもしれない。
だからこそ、当事者であるナタリーが言ったのだろう。
そう、俺を指差して。
「たぶん、
そうなんです。
僕のせいかもしれないんですよ。
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