その892 史上初の侵入5

 聖女アリスの【聖加護】アタックは、俺を巻き込み、俺のドッペルゲンガーに大きなダメージを与えた。

 その隙をき、エメリーとリィたんの猛攻によって無事倒す事が出来たのだった。

 無事でないのはそう、私である。


「むぅ……顔がチリチリする……」


 俺の愚痴を拾ったのか、ナタリーが言う。


「アリスちゃんが本気だったら、今頃強制送還だったよ」

「た、確かに……ドッペルゲンガーも瞬殺だったよな……」

「あれでいて、ちゃんと考えてるんだよ。アリスちゃん」

「……へぇ」

「何?」

「いや、アリスさんの事よくわかってるんだなーと」

「ううん、何となくそんな気がするだけだよ」


 ナタリーが不確定の情報を出すとは思えない。

 何らかの確信めいたものがあるだろう。

 そういえば、ナタリーとアリスは接点があるようでないような。以前ナタリーがアリスを気にするような事を言ってたり、シギュンは二人を似ていると言っていたし。

 ……そういえば、この前のスキンシップの時……?


「「おぉ……」」


 驚きと感嘆の声を漏らしたのはハンとキッカ。


「まるで神話の世界ですね……」


 と、レミリアが零す。

 それもそのはずで、第五階層に降りた今……皆の眼前に現れたのは、五色の龍全員のドッペルゲンガーだからだ。

 皆があんぐりと口を開ける中、リィたんの表情が微妙に険しい。


「むぅ……」

「どうしたの、リィたん?」


 俺が聞くと、リィたんは不満を零すように言った。


「あれは本当に私に似ているのか?」


 どうやら単純な疑問のようだ。

 しかし、ここで答えを違えればリィたんの頬が膨らみ、戦闘にも影響が出てしまうかもしれない。

 俺は立会人オブザーバーであり、皆の冒険を邪魔してはいけないのだ。かといって喜ばせても戦闘に影響が……ふむ、難しい質問である。

 個人的には頬が膨らむリィたんを見、模写し、額に飾りたいとは思うのだが、今の俺の立場がそうさせてくれない。

 ――と、いうわけで。


「さっきの俺のドッペルゲンガーは似てたの?」


 秘技、質問返し。


みてくれ、、、、はミックでも、目を見ればすぐに違いがわかるものだ」

「じゃあ、そういう事なんじゃないの?」


 立会人オブザーバーとして……そう、立会人オブザーバーとしてはこれがベストな答えだと思います。


「……むぅ」

「どうかした?」

「いや、我が主ながら、ズルい回答だと思っただけだ」


 完璧に見透かされてる四歳児とは俺の事だ。

 さて、どんな回答をしていれば正解だったのか。

 そもそも、正解を探している時点で俺はわかっていないのだろう。


「ふっ、我ながらズルい言い方をしたな」

「え?」

「喜べミック」

「へ?」

「私も徐々に染まってきているようだ」


「何に?」と聞くのは野暮なのかもしれない。

 だけど今、『私も』って言いませんでした?

 俺の脳が該当者を探している中、オリハルコンズは戦闘を開始した。

 ――が、


「ハァアアアアアアアッ!!」


 リィたんの気合い魔力はドッペルゲンガー全員を委縮させた。

 その隙を衝き、リィたんは水をまとわせた魔槍ミリーを投擲したのだ。

 狙った先は当然、相性抜群の炎龍ロードディザスター。

 直撃と同時、炎龍のドッペルゲンガーは聞いた事がないような濁った破裂音を発して世界から消失した。

 炎龍ロイスには絶対に見せられない炎龍色の雨が降る中、魔力操作で手元に戻した魔槍ミリーを、リィたんが担ぐ。


「フン、先程のミックのドッペルゲンガーに比べれば、もろいものだな」


 確かにそうかもしれない。

 俺のドッペルゲンガーは、正直、世界くらいなら軽く滅ぼしてきそうだからな。勿論、この後復活するであろう大魔王陛下には敵わないだろうが……いやぁ、どうも嫌な予感がするんだよなぁ。

 一応……二手、三手と対抗策は考えてはいるものの、相手が相手なだけに、いかんせん自信がない。


「おーい、ミケラルドさーん」

「……どうしたんですか、ミケラルドさん?」


 さて、死亡フラグを全力で回収しにくる世界でない事を祈りつつ、今からでも入れる保険も探しておきたいところだ。


「あのー……ミケラルドさん?」

「え?」

「「どうしたんですか?」」


 ふと気づくと、美少女が不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。しかも二人。

 一人は返り血をおべんとう、、、、、のように頬に付けている勇者。

 もう一人は先程俺を滅しかけた聖女である。


「あれ? 戦闘は?」

「もう終わりましたよ?」


 エメリーの背後を見やると、見るも無残な惨殺現場がひろがっていた。


「えぇ……早くないです?」

「あはは、リィたんさんが張り切っちゃって……」


 控えめに言うエメリーだが、エメリーの剣にもちゃっかり血がビッシリである。

 やはり、初手でリィたんが炎龍のドッペルゲンガーを倒したのが良かったのだろう。

 魔槍ミリーの石突、、を地面に置き、生き様を語るようなリィたんの背中は、いつも以上に格好良かった。


「珍しいですね、ミケラルドさんがボーっとするなんて」

「私だってボーっとする事くらいありますよ」


 言うと、アリスは首を傾げてしまう。

 すると、近くにいたラッツが反応した。


「このダンジョンにおいては、ミケラルド殿の信頼を得られたという事か」

「おー、私たちもしっかり成長してるって事ねっ?」

「大将がボーっとするくらい安心出来るパーティにはなったってこったな、ははは!」


 ラッツにキッカとハンが続く。

 そんな三人の反応、その三人に同調するような他のメンバーたち。

 俺はそれが照れ臭かったのだろう。

 だから、俺はこの反応に最も反対しそうなアリスに目を向けた。

 俺が言いたかった事がわかったのか、アリスは俺を見据えこう言ったのだ。


「信頼してくれて、ありがとうございます」


 何だって?


「私も信頼してますよ。少なくとも、ミケラルドさんの強さだけは」


 何とも、アリスらしい信頼である。


「さぁミック、最後は霊龍のドッペルゲンガーだぞ!」


 最後にリィたんがしっかり締め、皆は最高のテンションを保ったまま第六階層へと向かうのだった。

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