その881 下種く、卑しく、聖女的に2
「聞いてない……私、こんなの聞いてないです……」
後方で肩を震わせ、俯きながらとぼとぼと歩くアリス。
四肢には鎖が繋がれ、それぞれの先端に重力操作とフルデバフが施された鉄球。
その姿はまるで極悪な囚人のようである。
「手が……足が重いです……」
悲しみ染まるアリスだが、既にこの状態で
さて、俺はといえば、アリスから預かったアイビスの
「ふーん、なるほど……そういう事か。もしかしたら挑戦してみるだけの価値はあるかもな」
そう呟きつつ、アリスの恨めしそうな視線をかわす。
「それ、溶かしちゃうんですか……?」
「いえ、思い入れもあるでしょうし、ある程度の手入れはしておきましたので、これはこれでアリスさんで保存しておいてください。私からは別に、後程プレゼントさせて頂きます」
「出来れば今がいいんですけど……今が」
やけにプレッシャーが強い。
まぁ、現在アリスの身体には武具という概念が存在しない。
誰もが目を引く美貌でさえも、土塗れに汚れていて残念な様子である。
「スケジュールの最中は全てグーかパーかチョキで対処して頂くって話でしょう」
「パーはともかく、チョキで何をしろと……?」
「目潰しとか目潰しとか他にも目潰しとかあるじゃないですか」
「目潰しの他に二つもあったなんて……」
まぁ、何だ。
俺のボケに正確に突っ込めなくなるくらいには、精神が疲弊しているようだ。
「でも、その聖女は皆さんに希望を与えられるでしょうか……」
「絶望と無情は味わえるでしょうね」
「女の子たちのなりたい職業ランキング一位が……」
「仮面を被るんですよ、アリスさん。聖女だって三日野宿して垢塗れになるんだって事は黙っておけばいいんですよ」
「うぅ、絶対に誰にも言えません……」
項垂れ、涙を流すも、その状態は長く続かなかった。
ピクリと反応し、ピタリと涙を止めたアリス。
「いいですね、その反応。ちゃんとモンスターの気配を感じ取っていらっしゃる」
「ミケラルドさん、後ろです!」
「私はもうアリスさんの後ろですので、どうぞご存分に」
「嘘!?」
正面から現れたモンスター【マスターオーク】を前に、アリスは顔を引き
本来、アリスはランクSなので、
当然、冒険者ギルドが想定しているのは
ところがどっこい、俺は早々に戦線を離脱。アリスちゃんは孤立無援となる。しかも、手足には厄介な重り付き。
なんて可哀想なんでしょう。
「ミケラルドさん! ミケラルドさんっ? ミケラルドさんっ!?」
「いいですよ! 素晴らしい回避です! 足下がお留守ですよ! 一度言ってみたかったんです、これ!」
「そういう事じゃないです! ちょっとミケラルドさん!?」
「大丈夫だよアリス! 君ならこのダンスレッスンを乗り越えられると信じてるよ! わんつー! わんつー!」
「くっ、この……!」
剣鬼オベイルでも宿ってるんじゃないかって声を漏らしたアリスは、マスターオークの連撃に上手く対応している。
右手の封じられし鉄球を振り回し、マスターオークの戦斧を鎖で絡めとる。
「いいですよ! 既に囚人スタイルの戦闘法は確立されてます! 後は慣らすだけですよ!」
「今、囚人って言いました!? 囚人って言いましたよねっ!?」
「頑張れ! 頑張るんだアリス!」
俺は目に涙を
そう、大空から。
「そこから降りて来る気ないですよね!?」
「あぁ大変だ!? 私の魔力に釣られてもう一匹のマスターオークが!?」
「絶対呼んだでしょ!? 呼びましたよねっ!?」
「頑張れ! 頑張るんだアリス! 逃げずに!」
「このサイコキネシスの
「まさかマスターオークがサイコキネシスをっ!?」
「そんな訳ないでしょう!」
「くっ、指が勝手にマスターオークに【スピードアップ】をっ!?」
「速い! 速いです、ミケラルドさん!?」
でも、ちゃんと避けてるんだよなー。
「「あ」」
捕まっちゃった。
「ミケラルドさん!? これは誰がどう見てもピンチですよね!?」
「アリスさん! そのままだと
「だから助けを求めてるんですけどぉ!?」
「聖女ですからここはグッと堪えて」
「この……!」
直後、アリスの両手が神々しく光る。
アリスだけに許された霊龍印の【聖加護】の発動。
重りのせいで出力は低下しているものの、モンスターが嫌がる攻撃ランキング一位に位置する【聖加護】。
これを受けたマスターオークはアリスの拘束を解き、目に殺意を宿す。一瞬にしてアリスを脅威として認識したのだ。
「次回、美少女アリスの本領発揮」
「上の吸血鬼は後でどうにかするとして、まずはあなたたちです!」
俺の貞操が危ないかもしれない。
歯磨きでもしておこうか。
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