◆その852 オリハルコンズの招集2

「では会議を始める。と、その前に彼女を紹介せなばならないな。【マイン】殿」


 法王クルスの言葉により、女ドワーフの【マイン】が一歩前に出る。身長こそナタリーに近いものの、その顔立ちは大人のもので、釣り目のオールバックポニーテール。黄土色の瞳をちらりとミケラルドデュークに目をやった後、拳を胸にトンと置いた。


「ガンドフより参りました【マイン】と申します。ガンドフ領までの間、皆さんの道案内をウェイド王より任されました。短い道中ではありますが、よろしくお願いします」


 キツイ印象ながらハンは嬉しそうにマインに手を振る。エメリーから順番に、オリハルコンズの自己紹介が始まる。

 そんな中、ニヤケ面をやめないハンを、キッカが肘で小突いた。


「っ、ぁにすんだよ?」

「彼女知らないの?」

「え?」

「ウェイド王の親衛隊長よ。そんなとぼけた顔してると斬り殺されちゃうわよ」

「げ、親衛隊長が王の下を離れていいのかよ」

「それだけ信頼されてるって事でしょう」

「うへぇ……」


 皆の自己紹介が終わり、最後にデュークが立ち上がる。


「えー……」


 口籠る法王クルス。彼もデュークの扱いには困っている様子だ。しかし、クルスの気苦労など意に介する事なく、デュークは自己紹介を始める。


「どうも、スペシャルアドバイザーのデューク・スイカ・ウォーカーです。ガンドフまでの道中、皆さんのサポートをするためミケラルド氏より個人的に依頼を受けて参りました。よろしくお願いします」


 デュークの挨拶の後、カタンとアリスが立ち上がる。

 対面に座るデュークをじっと見て、クルスに言う。


「サポートというのはどういう事でしょう? ガンドフまでの道のり、聖騎士団の護衛もあります。リィたんさんもいらっしゃいますし、魔族四天王がいなくなった今、そこまで気を張る必要はないと思うのですが?」


 デュークは目を丸くし、クルスもまた目を丸くした。

 二人は見合い、再びアリスに視線を戻す。

 すると、話題にあがったリィたんが割って入った。


「そうとは限らん」

「「え?」」


 エメリー、アリスは、零した言葉と共にリィたんを見る。


「最近ガンドフ近辺でキナ臭い話、、、、、があがっている。木龍クリューから聞いたがな、用心に越した事はないというだけだ」


 アリスがデュークに視線を戻す。


「そうなんですか?」


 質問ではあるものの、その言葉は些か強いものであった。


「龍族二人のお言葉とあれば、その可能性は高いんじゃないですか。ウェイド王もマイン殿を派遣してくれた程ですし。彼女、かなり強いですよ」

「い、いえ……私など皆さんの足下にも及びません」


 かしこまるマインを見ながら、キッカとハンがラッツに言う。


「明らかに強いわよね」

「だな、少なくともラッツよりは強ぇ」

「我ら三人で同等、といったところか」

「「むぅ……!」」


 そんな中、エメリーが小さく挙手する。


「あの、リィたんさんの仰るキナ臭い話って……?」


 すると、リィたんが隣に座るナタリーを見た。

 ナタリーが立ち上がり、エメリーの質問に答える。


「重武装した不審者の目撃した、と。その動きから実力も相当なものだと木龍クリュー殿が言ってました」

「く、木龍クリューさんが相当って仰るのだしたら怖いですね。闇ギルドの生き残りか、もしかすると魔族かもしれませんね」


 エメリーはリィたんの話とナタリーの説明に納得し、デュークがここにいる意味を理解した。

 しかし、立ち上がったアリスはそのままずっとデュークの目を見て離さない。


(いやー……相変わらず疑り深いなぁ……)

(怪しい……!)


 デュークとアリスの視線のやり取りを無視し、法王クルスは説明を続けた。


「聖騎士団の第一部隊の後方にオリハルコンズを置き、その後ろに第二部隊が続く。ガンドフ領に入り次第、第一部隊が後方に付き、第二部隊は国境に待機。後方に回った第一部隊に代わり、【ガンドフ陸戦隊】がガンドフまで先導する手はずとなっている。ガンドフに着いてからはウェイド殿との謁見の後、アリス」


 未だデュークを見続けるアリス。


「あの……アリス?」

「え? あ、はい!」

「アリスは鍛冶師ガイアス氏と合流し、エメリーとの相談の後【勇者の剣】製作に入ってもらう。これまでの成長を見せつける時だ。最高の力を剣に注ぎ込め」

「はい、わかりました!」


 アリスの返事の後、クルスはエメリーを見た。


「エメリー」

「はい!」


 立ち上がるエメリー。


「作るのはアリスとガイアス氏だが、お前の剣を作るのだ。どんな些細な注文でも構わない。積極的に製作に参加するのだ。それが結果的に世界を救う事になる」

「は、はい!」


 魔王復活に伴う勇者の自己犠牲。

 どれだけ入念な準備をしようとも、それが万全と言えるのか。その問いかけに答えてくれる者はいない。法王クルスの決意がそこに表れていた。

 皆はそれを目の当たりにし、喉を鳴らす。


「出発は明日。道中何が起こるかわからない。無論、こちらで出来る事は何でもする。不足があればすぐに言ってくれ。が、私にも用意出来ないものがある。世界のために身を投じる覚悟。無理は言わない。しかし、やるからには覚悟を決めて欲しい」

「「はいっ!」」


 会議室に響いた決意の声。

 そんな中、デュークとアリスはまた見合っていたのだった。

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