◆その817 絶対的制裁5

 ――証拠の捏造ねつぞう

 ありもしない証拠をもあったかのように用意している事。

 今回の法王暗殺未遂事件、ミケラルドが捏造した証拠は無数に存在する。


 一つ目、オリヴィエがゲバン私邸、、、、、に設置した【ビジョン】。

 これは、オリヴィエがミナジリ共和国に協力、ひいては法王暗殺を望んでおらず、逆に救おうとしたという証拠である。これにより、オリヴィエはゲバン協力による罪の減刑が認められる。


 二つ目、【ビジョン】の爆発。ミナジリ共和国の国境線までやってきたゲバンの手元でそれを見せ、爆発させる。

 これは、「一歩も動くな」という指示に対し、ゲバンだけ動かし、、、、、、、、尚且なおかミナジリ共和国に向け、、、、、、、、、、攻撃を加える、、、、、、という状況を、世界に見せ認めさせる事。

 これによりミナジリ共和国はゲバン個人に対してのみ、ミナジリ共和国の防衛をするという大義名分が得られる。


 三つ目、クインの証言。クインはゲバンと奴隷契約を結んでおり、本来であれば証言など得られるはずがない。しかし、ミケラルドはクインを拘束した後、奴隷契約を強制的に解除し、【血の呪縛】を使って意のままに操ったのだ。

 このクインの証言により、ミケラルドが世界に見せた映像により大きな信用度を持たせたのだ。


 ミケラルドがゲバンに法王クルスの映像を見せている頃、関所の外壁で様子を見守っていたナタリーに、国境線沿いから戻って来たレミリアが聞く。


「しかし、あれだけの証拠を一体どのようにして集めたのでしょう?」

「んー……まぁ、バレても別に困らないし、話してもいい……か」


 ナタリーはそう判断し、レミリア、そして隣で唖然としながら【魔導艇ミナジリ】を見上げるドゥムガに説明した。


「オリヴィエ殿が初めてミナジリ共和国に来た日に、ミックが法王陛下とゲバンにダイヤモンドを持たせたでしょう?」

「え……あの大きなダイヤモンドですよね? オリヴィエ様が盗難を装ったという……」

「そう、持ち返ったゲバン用のダイヤ、保管用の箱に、既に【ビジョン】を取り付けてたんだって」

「そんなに前から……?」

「聞いた私も呆れちゃったわよ」


 レミリアが苦笑するも、ナタリーは更に続けた。


「それに、ミックが迎賓館の窓を突き破った後」

「え、まだあるんですかっ?」


 そんなレミリアの問いに、ナタリーは肩をすくめるばかりである。


「……交渉の末、協力は得られなかったけど、言い訳のためにオリヴィエ殿にあげたネックレスにも……ね」

「うわぁ」

「あ、勿論それは怒ったよ」

「他国の姫君の私物に【ビジョン】……ですか」

「まぁミックには『もう二度と盗撮はしません』っていう血判状は貰ったからそれで手打ちにしたんだけどね。実際、あのネックレスは保険だったみたいで、出番はなかったらしいし」

「……確かに、先程の映像はネックレスからの視点というものではありませんでしたね。……ではあの短刀、、、、は?」

「これが笑っちゃうんだけどね、今日映像に映ったシギュンは……全部ミックなんだよ」

「えっ!?」


 驚きの余り口を塞ぐレミリア。

 すると、レミリアの代弁者かのようにドゥムガがナタリーに聞いた。


「するってぇとアレか。つまり、あのガキの自作自演って訳か?」

「一応、非公式ながら法王陛下とアイビス様に許可は貰ってたらしいけど、法王陛下の私室を血まみれにしちゃうとか、ミックは相変わらずどこかおかしいよね……」

「いや、そういう問題じゃねぇだろ……」

「え? 自作自演は問題ないでしょう」

「な、何でそうなるんだよっ?」

「実際シギュンは法王暗殺をする予定だったんだし、それをミックが代わりにやっただけでしょ?」


 キョトンと小首を傾げるナタリーに、ドゥムガがあんぐりと口を開ける。そして独り言のように言うのだ。


「俺様としちゃ、あのガキもおめーも大差ねぇような気がすんぜ」

「え、何か言った?」

「あ、いえ! 何でもありません、ナタリー様! へへへ!」

「ふーん、変なドゥムガ」


 すると、ハッと気付いたようにレミリアが言った。


「で、ではシギュンは今も法王国にっ!?」

「そうだね、ミックの分裂体が見張ってるみたいだから悪さはしてないだろうけど……何、心配?」

「いえ、そのような事は。ですが、このまま放置という訳にもいかないのでは?」

「だよね、だから私もミックにそう言ったの」

「……ミケラルド様はどのように?」


 すると、ナタリーは首を横に振ってから言った。


「笑って誤魔化すだけで、なーんも教えてくれなかったのよ」

「ははは……ミケラルド様らしいですね」


 そこへジェイルが割って入った、、、、、、

 ジェイルらしからぬ行動に対し、ナタリーが小首を傾げる。


「……ジェイル?」

「ミックなりに考えがあるのだろう。シギュンを囲う牢が破られた以上、法王国でシギュンを捕え続ける事は出来ない。おそらくシギュンは近い内にミナジリ共和国へやって来る事になるだろう」


 その言葉を聞き、ナタリーはいぶかし気に目を細めてジェイルを見た。


「レミリア、今のジェイル……やけに流暢に喋ってたよね?」

「え? あ……確かにそうかもしれませんね。いつものジェイル団長より……ん? ナタリー様?」

「ジェイル、手、見せて」


 黙るジェイル。

 目を逸らすジェイル。

 ナタリーの気迫に負け一歩下がるジェイル。

 そこへナタリーが飛び掛かる。

 嫌がるジェイルを無理やり押し倒すナタリーに、レミリアもドゥムガも動揺を隠せない。


「あ! やっぱりミックが用意したカンペシート読んでた!」

「いや、これは……その」

「どうせミックに『シギュンの事を聞かれたらフォロー入れて欲しい』とか頼まれたんでしょっ!? 私とレミリアの間に入った時からおかしいと思ってたのよ!」

「くっ、殺せ……!」

「ミックから何か聞いてるんでしょ?」

「わ、私が口を割ると思うか?」

「ジェイル、確か厨房の改装がしたいとか言ってたわよね?」


 びくりと反応するジェイル。


「シギュンの事を話してくれたら、私がロレッソに掛け合ってあげてもいいんだけど?」

「ぐっ!?」


 ナタリーの精神攻撃に、ジェイルがひるむ。

 遠い空の上でニヤリと笑うミケラルドの背を見ながら、ジェイルが思う。


(……ミック、許せ……)

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