その800 来訪という名の飛び込み

 遊覧船のようにサマリア港周辺を航行し、リィたんの姉御船長にも大満足。とりあえず、動力まりょくは上手く変換出来ていたし、余剰エネルギーのキャパは魔力タンクちゃんで十分だと言えた。予備の動力を備蓄していく事が今後の課題という事で、初回の航海を終えた俺たち。

 処女航海を終えた【魔導艇ミナジリ】をサマリア港の船渠ドックに厳重保管した後、ミナジリ共和国へ戻った俺にロレッソからニュースが飛び込んで来た。


「オリヴィエ殿が?」

「えぇ、突然ながらまたミケラルド様にお会いしたくなった……と」

「嘘だよね」

「それは、どの行動に対する発言でしょうか?」

「会いたいってところ」

「本当かもしれないのでは?」

「思ってもない事を言わないでよ」


 どの口が言う? とばかりに俺が言うと、ロレッソは大きな溜め息を吐いた。


「私としては、早いお世継ぎをと考えております故」

「え、こっわ。何それ、俺まだ四歳児だよ?」

「ミケラルド様が最前線に立たないのであれば、それほど急いで頂く必要はないのですが……」


 ロレッソの目が刺さる。

 まぁ確かに、俺が魔族四天王と戦うって時にはしっかり俺を立てて応援してくれたけど、ロレッソとしてはミナジリ共和国の先が心配なのもわかる。

 だからこそ、俺の代わりとなる存在を探すのは当然っちゃ当然なのだが……、


「そもそも元首制なんだから、俺の血縁じゃなくても元首にはなれるだろう」

「ミケラルド様の血縁者というだけで票が集まるんですよ。王制が大半を占める世界ですからね。当然、血縁関係を重視している民も多いという事です」


 なるほど、慣習による思考支配か。

「これまでずっと王制だったから、血は大事だよね」と受け取る民が多い以上、元首制というのは悪手だったのか? いや、まぁそれでもこの方法が間違いだとは思いたくない俺もいる。

 俺は気分を入れ替えるために鼻息をすんと吐き、ロレッソに言った。


「……とりあえず会うけどさ、いつ頃来るの?」

「既にリーガル国境に到着したとの事です」

「じゃあ明日か。にしても連絡が遅かったんじゃ……?」


 ちらりとロレッソを見る。そして彼は言った。


「何度も連絡は入れたはずですが?」


 確かに作業中に何度か【テレフォン】が反応してたような?


「私が『忙しいところ失礼します。お手隙の際に折り返しご連絡を』と申し上げたところ、返答があったのが昨日。その内容も『【魔導艇ミナジリ】の処女航海があるから暗部に招集命令を』との事でしたね」

「お、折り返しって言うから緊急性がないものと……その……ね?」

「ミケラルド様からオリヴィエ様に『いつでもいらっしゃってください』と仰っていたので、特に急ぐ理由はないかと思いまして」


 そう爽やかな笑みを向けてくるロレッソはずるいと思う。

 まぁ、狡いを体現したかのような俺が言える事ではないけどな。

 俺は自分が言った言葉を後悔するように溜め息を吐き、言った。


「……はぁ、わかった。歓待の準備は――」

「――既に済んでおります」

「手土産の準備も――」

「――手配致しました」

「儀礼用の口上シュミレーションを――」

「――こちらがカンペシートです」

「……うぐぅ」


 俺の名はミケラルド・オード・ミナジリ。

 宰相に性格を読み込まれ、手の平の上でタンゴとワルツとタップダンスを踊る道化者さ!


 ◇◆◇ 翌日 ◆◇◆


「……この度は魔族四天王討伐のお祝いを申し上げると共に、ミケラルド様との親交を更に深めるべく祝いと友好の証を手土産として持参致しました。父ゲバンより封書を預かって参りました」


 当日、オリヴィエはいち早く魔族四天王討伐の祝いに参上した。だが、少し様子がおかしい。どこか挙動不審な、そんな印象を抱いた。

 ロレッソがゲバンの親書を取りに行こうとした瞬間、オリヴィエは言った。


「ロレッソ殿」

「何か?」

「恐れながら申し上げます。父ゲバンより、これはミケラルド様に直接渡すよう言付かっております故……」


 言いながらオリヴィエが俺に視線をずらした。

 少々無作法ではあるが、別に無礼という訳でもない。

 相手は特派大使である以上、その意向を無視する事の方が無礼となってしまう。

 俺はロレッソに向き頷いた。

 そして椅子から立ち、オリヴィエから手紙を受け取ったのだ。


「っ!」


 ……なるほど、そういう事か。

 オリヴィエの狙いが何なのかはわからない。

 だが、震える瞳を向けるオリヴィエに、邪念がない事は薄々ながらも気付いていたのだった。


 ◇◆◇ 元首執務室 ◆◇◆


「ミケラルド様、先程の反応……一体何が?」


 ロレッソが核心に迫る。


「あ、あっれー? バレてた?」

「手紙を受け取った時、今のように肩がビクついていらしゃいました。ナタリー様も気付いていましたよ」


 隣にいるナタリーもうんうんと頷いている。

 俺は仕方なしと思い、ゲバンの親書を二人に見せた。


「親書……ですね」

「親書……だね」


 だが、それを少しずらすと――、


「あっ!」


 指差して驚くナタリー。

 指差しているのは、ゲバンの親書ではなく、


「なるほど、親書の他に手紙――密書ですか」


 おそらくこれは、オリヴィエからのSOS。


「ラブレターだぁ!」


 ナタリーの感覚はやはりどこかおかしいのかもしれない。

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