その768 鉱石の功績

「うわぁ、もう見つけたの?」

「我が見つけた」


 隣のリィたんを見てドヤる雷龍シュリ


「わ、私も見つけたぞ!」


 負けじと肉薄するリィたん。

 うるんと揺れる瞳と、ぷるんと揺れるお胸。

 何ですか? 凄いサービスがありますね、元首執務室。

 ここは桃源郷か何かだろうか? と考えていると、ロレッソがテーブルにリーガル国北部の地図を広げた。


「シュリ様、オリハルコン鉱山はどの辺りに?」

「二百キロなど及ばぬ程の遠い地だ、安心しろ」


 おー、こりゃ安心して採掘が出来るな。


「見つけたのはシュリでも、近くの海の底から巨大な氷柱を造ったのは私だぞっ!」


 リィたんがぐいぐいくる。

 というより、近くの生態系壊してそうだな……。

 まぁ、龍族のリィたんにとっては些事なのかもしれない。


「その氷柱にテレポートポイントを設置したのは我だ」

「むぅうう……!」


 シュリとリィたんのドヤり合いは、果たして終わりが来るのだろうか。そう思いつつ、二人を見ながら顔を綻ばせる俺。


「何をニヤニヤしてる、ミケラルド?」

「ミック! そんなにおかしい事をしている自覚はないぞ!」


 怒られちった。


「二人共、お疲れ様。それじゃあ早速採掘に行こうか」

「しかしミケラルド、一体どうやって採掘するつもりだ?」


 シュリに聞かれるも、俺はニコリと笑うだけだった。


「まぁまぁ、行ってみてのお楽しみだよ」


 顔を見合わせるリィたんとシュリに、俺はくすりと笑い、そのまま転移して行くのだった。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 さっむっ!?

 何だこの寒さは……と、周りを見渡してみると、リィたんが造った氷柱がどれなのかわからない程の氷の世界だった。

 北極か南極か。そんな感じの場所なのだろう。そう思い、俺は【氷耐性】を発動した。

 後から追いかけて来たリィたんとシュリ。


「それで、どうするんだ?」


 シュリが聞く。


「まず、リィたんの氷柱をとにかく真っ直ぐ海中におろして欲しいかな。あ、もう少しだけ太くして欲しいかな」

「それぐらいなら訳ないが……?」


 小首を傾げるリィたんが、海中に飛び込んだ。

 数分の後、リィたんが人魚の如く海面に飛び出てくる。


「出来たぞミック!」


 どうにか彼女に水着を着させるイベントはないものか?

 しかし、龍族はある意味裸族だし、そういう事にはならないだろう。ナタリーに協力を仰ごうか? いや、ナタリーなら全力で止めにくる。くそ、世界は何で俺にこうも厳しいんだろう。


「ミケラルド、次だ」


 シュリは続きが見たくてうずうずしているようだ。


「次は火魔法だね」

「ほぉ、つまり円柱になった氷柱の中心を火魔法で溶かすのか」

「流石、冴えてるねぇ」

「ふっ、当然だ。どうだ、水龍これが我の実力だ」

「くっ! それしきの事で威張れると思うなよ! ミック!」

「はい?」

「私には何かないかっ!?」


 どんだけ功を競ってるんだよ、この二人。


「溶けた水分を火で蒸発させつつ人間が通れるトンネルを作る。今のリィたんが作った氷なら、ミスリルより高密度の魔力で覆った氷のトンネルが出来るでしょ」

「そう! そういう事だ! わかったか雷龍!」

「くっ、小癪な邪龍め……!」


 中学生の言い争いのようだ。


「じゃ、じゃあ降りようか?」

「「勿論だ!」」


 息はピッタリである。


 ◇◆◇ ◆◇◆


 流石リィたんだな。

 氷柱が水圧に負けないよう、海中へ潜れば潜る程、硬く、強固になっている。最初、ミスリルのパイプを通そうと思っていたけど、土地的なものもあって、ここは氷柱でいいかもしれないな。

 それに……そんなに長居する訳でもないしな。


「お、海底に着いたね」


 意外にも、そんなに深くない。

 水深千メートルってところだろうか。

 氷が分厚過ぎて海中は覗けないが、こんなところにオリハルコン鉱山があったとはな。炎龍ロイスには今度たんまりお礼をくれてやろう。……でも、あの子の場合、お金よりお菓子なんだよなぁ。


「ふん!」


 シュリが強引に岩盤を貫き、俺は慌ててその衝撃を伝えないよう氷を魔力で覆った。


「あぶあぶあぶあぶあっぶ!?」

「ダメだったか?」


 コトンと逞しい首を傾げるシュリだったが、彼女に悪気はないようだ。


「い、いや……俺が支えてるから掘っていいよ」

「そうか」


 シュリが岩盤を抜き、俺が衝撃を押さえ、リィたんが外から氷柱を守る。

 こんなパワープレイが出来るのは、世界広しといえどもミナジリ共和国だけだろう。


「ミケラルド!」


 穴を掘っていたシュリから合図のような声が聞こえた。

 俺は氷から手を放し、岩の瓦礫の中をコツコツと音を鳴らしながら降りていく。

 ふむ、この岩にも微かにオリハルコンの神々しい青い色が入っている。精製すればオリハルコンの塊になるだろうな。

 そう思いながら更に奥深くへと潜る。

 しかしまた深いな……シュリのヤツ、一体どれだけ掘ったのか。かれこれ百メートルは歩いたぞ?


「お? おぉ? おぉぉっ!?」


 やがて見えた視界いっぱいの青。

 その中央で仁王立ちするシュリ。俺は「何て似合うんだ」と思いながらも、シュリ以上に周りのオリハルコンの山を見ていた。

 そして俺は思わず零した。


「出来る……出来るぞ……! 世界の歴史を変える【魔導艇】が……!!」


 その日ミナジリ共和国は、独占と言える程のオリハルコンを手に入れたのだ。

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