その767 ミケラルド変異事件
『今回ばかりは腹を割って話をしたいと思っていた。人づてに聞いた話にはなるが、ミケラルド殿の変異は、多くの者が目撃した紛れもない事実。あれは一体何だったのだ?』
ウェイド王の質問を受け、俺はロレッソに目をやった。
彼は頷き、「好きなようにお答えください」と全てを許容した。いやぁ、この人にはいつも苦労ばっかりかけるよなぁ。
「基本的にはクロード新聞に書いた通りです。私自身、奴が何者なのかはわかっていません。しかし、出現条件はある程度把握しております」
『というと?』
「奴が出現したのは過去三回ありました。いずれも私自身が戦闘によって追い込まれた時に出現しております。ですから、もしかしたら今回のように魔族四天王を倒すため私が動いたのも、その身を守るためなのかもしれません」
『……ミケラルド殿が負けそうな時に現れる正体不明の存在、か。やはり出現する理由はあるのだな』
「え、理由?」
『先程ミケラルド殿が言っただろう? その身を守るためだよ』
あー、そういう事か。つまり奴は、俺が壊されないように出て来るって感じか。要はこの
「……なるほど」
『そしてミケラルド殿自身は、それを
「恐れ入ります」
『それに民主制も面白い。国家としての民主ではなく、国家間の民主制ならば、落としどころが見つけやすいからな』
「クルス殿からは反対する国家もあるかもしれないと」
『それがこのガンドフだと思うが?』
「え?」
『考えてみるといい。リーガル国はこれまで小国と言われ続けてきた。シェルフの人口もエルフだからと言い切るにはやはり少ない。そういった国が【真・世界協定】を経て、大国である法王国と肩を並べられるようになった。しかも、今回の民主制が通れば、大きな発言権を得られる。あの二ヵ国はどう転んでも賛成するだろう』
「確かに……」
隣のロレッソも同感のようだ。
『クルス殿が危惧した反対する可能性のある国家とはこのガンドフの事だ』
「参考までに、それは一体何故でしょう?」
『無論、魔界が関係している。魔界に関する採決の場合、痛い目に遭うのはガンドフだ。しかも、民主制を導入されれば魔界との対抗や侵攻にも影響が出るかもしれない。正直恐ろしいものだ。ガンドフが救援を求めた場合、他国が首を横に振った時の事を考えるとな』
そういう事か。世界会議で多数決が導入されれば、ガンドフは世界の盾にならざるを得ない。それも「救援もまた多数決で決める事になるのでは?」という不安が生まれてしまう。
『だが、今回のミケラルド殿の展望を聞き、その恐怖は消えた。ミケラルド殿は何としても魔界と戦うつもりらしいからな』
まるで嬉しそうなウェイド王の顔が見えるような明るい声だ。
「よろしいのですか?」
『正直な話をしていいかな?』
「え? あ、はい」
『私はな、魔界を含めた世界を敵に回すより、貴国を敵に回す方が恐ろしいのだよ』
「あ、あははは……」
『戯れ言ととってくれても構わない。しかし、ミナジリ共和国が世界に尽くしているという事はどの国も理解している事だ。心から礼を言う』
「こちらこそ、ありがとうございます」
『ふぅ、今宵は良い酒が呑めそうだ。次、ガンドフに来る事があれば城にも来てくれ。歓迎しよう』
「わかりました。美味い酒を持参します」
『それは楽しみだ。ではな、失礼する』
そう言って、ウェイド王との密談のようでそうでない会談が終わった。
隣のロレッソがまた一層老けたような気がする。
ホッと一息どころか、深い溜め息を吐いている。
「どうしたの?」
「いえ、私にとってはかなりの一大事でしたので」
「そんなにも?」
「そんなにも、です。一言違えれば、ガンドフと険悪な状況になっていたかもしれませんから」
「でも、好きにやっていいよ的なアイコンタクトを送ってきたじゃん」
「当然です。
「イエスマンでも困るんだけどなぁ」
「止めるべきところはそうしています。しかし、ここぞというところでミケラルド様を信じられないのは、背信行為と同義です」
「あ、はい。すみません」
そういえばロレッソってそういうところあるよな。
背信行為って言葉に、何か恐ろしさを感じる。
まぁそれだけ信頼されているという意味でもあるが……。
「何ですか、その目は?」
「ロ、ロレッソ君、何か褒美はいらないかね?」
「我が
「ど、努力します……」
「はい、それが何よりの褒美です」
そんなロレッソの遠回しな嫌味を言われつつも、俺はこの関係を楽しんでいる。本当にいい仲間に恵まれたと思うし、これからもそうでありたいと願っている。
直後、ドカンと開かれる元首執務室の扉。
こんな扉を劣化させ、暴漢ともいえる開け方をするのはわが国において二人しかいない。
「ミック! 戻ったぞ!」
リィたんと、
「ミケラルド、我が功績に感謝するがいい!」
どうやら、鉱石の功績を持って帰って来たようだ。
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