その766 世界テレフォン会議2
法王クルスからリーガル国ブライアン王への問い。
意外にも、ブライアン王の答えはガンドフのウェイド王と同じものだった。
『異論はない。が、やはり私もウェイド王寄りの答えだった』
『つまり、独断で動くべきだったと?』
『うむ、何も魔王を倒す訳ではないのだ。先のミケラルド殿の発言により、この会議の意味を理解はしたが、それだけの武力を有しているのにもかかわらず、近隣諸国に伺いを立てるというのはな。それを含めて、やはりミケラルド殿らしい……なのだろうな』
『それは国としての性格……国家性によるものなのかもしれないな』
やや笑いを込めたクルスの指摘に、俺は苦笑するしか出来なかった。
『私もミケラルド殿の意向は尊重するつもりだ。しかし、こればかりは国へ持ち帰らなければならない問題だ。シェルフがいち早く答えを出したという事は一旦置き、一週間後の同じ時刻に同議題を出そうと思うがよいかな?』
クルスの質問が皆に向けられるも、異論のある者はいなかった。
『ではまた一週間後にな』
意外にも短い世界テレフォン会議だったが、何とか終える事が出来た。
「ふぅ……あー、緊張したー」
そんな内心を零すと、ロレッソもホッと一息吐いていた。
あれは何に対する一息だろう。
「ミケラルド様が何か爆弾発言をされそうで心配しておりました」
まぁ、四歳児だしね。
心配されるお年頃だよね。
「けど、ガンドフのウェイド王はともかく、リーガル国のブライアン王が『独断で動けばいいのに』って言ってきた時は驚いたなー」
「ブライアン様は魔導艇の構想を知っているからですよ」
「あ、そっか」
確かに、魔導艇の導入が成ればリーガル国はガンドフや法王国とも対等に渡り合える国家に成長するだろう。
漁港に造船所を造るという目的のため、リーガル国への交渉材料にしたけど、全部売り始めたらどの国も欲しがりそうだなぁ……。
でも、魔導艇が各国に新しい未来を作るというのは確かだ。
とはいえ、軍事利用が怖いというのもある。
そんな俺の心配に気付いたのか、ロレッソが助言する。
「国際条約に魔導艇利用の制限を設ける必要があるかもしれませんね」
「あー、それは必要だね。どんな記述がいいかな? 人類の敵に対する利用以外はダメ……とか?」
「【真・世界協定】間での軍事利用を制限すればいいかと」
「いいね、販売契約条項にも入れておこう……ん?」
そんな話をしていると、つい今しがた話していた【テレフォン】が反応を示したのだ。
これは……【ガンドフ】からの連絡?
俺とロレッソはアイコンタクトをかわし、【テレフォン】を受けた。
「はい、ミナジリ共和国ミケラルドです」
『すまないな、ミケラルド殿』
「いえ、最近は楽をさせてもらってますので」
『ふっ、【ガイアス】と話をしたと聞いたが?』
「まぁ事前の準備としてという事で」
『ふむ、そういう事にしておこう。貴殿はいつもガンドフを気に掛けてくれるからな。それに偽りがないという事も理解しているつもりだ』
「ありがとうございます。して、個別に話したい事があるようで?」
そう言うと、ウェイド王はそれまでとは違った重い声で言った。
『法王国の件だ』
「というと?」
『此度の一件、本日中に決めねばならない案件だった。しかし、クルス殿が持ち返りを提案した。私はそれに反対しなければならなかったのだ。【テレフォン】を切る前にそれに気付ければどれだけよかったか。だが、気付く前に会議は終わってしまったのだ……』
なるほど、法王国が持ち返るとゲバンに反対される事に遅れて気付いたという訳か。
「ゲバン殿でしょうか」
『そうだ。奴なら十分に反対してくるだろう。そして、クルス殿はこれに強く出られない』
「確かに、その可能性はあるでしょうね」
『しかし、私はこうも気付いた』
おや?
『聖女アリスの【勇者の剣】製作を法王国に断られたガンドフ。故に我々はミナジリ共和国に対し協力は出来ないと返答した……が、この当時者が魔族四天王殲滅を世界会議の議題に上げたのにもかかわらず、今後起こり得るゲバン殿の妨害に気付かないはずがない、と。なぁ、ミケラルド殿?』
あらま、矛先が俺に向いちゃった。
「流石、よくお気付きになりましたね」
『詳しく聞かせてもらおう』
そして俺は、法王クルスと事前の打ち合わせをし、世界会議における民主制の導入、ゲバンの追及を国際的にする作戦を説明した。
ウェイド王は怒る訳でもなく、渋る訳でもなく、ただただ感心しているかのように唸っていた。
「三ヵ国の方々に黙っていた事はお詫びします。しかし、これが外部に漏れる訳にもいかなかったのです」
『確かに、ゲバン殿が何をするかわからない。しかし面白い事を思いついたな』
「そうでしょうか?」
『魔族四天王の殲滅ではなく、ちゃんと【勇者の剣】製作すらも視野に入れているその姿勢も面白い』
「……はて?」
『魔族四天王の殲滅は遅れるかもしれないが、ゲバン殿が我々に追及されれば、彼はその任を追われ、聖女アリスも通常通り動かす事が出来る。ミケラルド殿は余程魔王を危険視しているようだな』
「怖い存在ですからね。私自身、龍族にすら負けない実力を得たと思いつつも不安が残ります」
『それはあのミケラルド変異事件の事かね?』
すげぇ事件名になってるな。
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