その742 エグい結果
「そっかー、やっぱり配布を止められちゃったかー……」
そう零すも、俺はしたり顔だった。
その顔がいけなかった。味方であるはずのロレッソが嘆いたのだ。
「はぁ……こうも奸計の似合う
火のないところに煙は立たない。
今回は俺のしたり顔が火だったという訳だ。
しかし、今頃、顔から火が出てるのはゲバン君だろう。
ガンドフのウェイド王には記事掲載の許可はもらったし、事実とクロードの見解しか書いていない。ゲバンの名前も伏せ、因果関係も不明としているのに、何故かクロード新聞は配布を止められてしまった。
謎だ。とても謎である。
「配布を止めたところは?」
「ミケラルド商店法王国支店の店内の動画を押さえてあります。騎士の格好をしていますがおそらくゲバン殿の私兵でしょう」
【ビジョン】の魔法を大々的に告知したというのに、何故、店にそれがないと思うのだろうか。まぁ、そんな常識が浸透するにはまだまだ時間がかかるって事だろうな。
「じゃあ写真におこして顔のアップを用意させて。騎士団を語る偽物として次の記事が埋められそうだね」
「ウキウキですね、ミケラルド様?」
「そんな事ないよ。これも俺の大事な仕事だからっ」
「声が弾んでいらっしゃる」
「暗い声よりマシでは?」
「口が減りませんね」
「増えたら困るでしょう」
「ミケラルド様の場合、既にダークマーダラーより多そうです」
どうやら、俺の腹にはデカい口があるようだ。
ロレッソが魔族ジョークをぶっ放すとは思わなかったが、あの顔を見るに、もしかしたらジョークではないかもしれない。
「レミリア殿も戻られたそうで」
「うん、今はリィたんとジェイルさんにしごかれてるみたい。
「特異な国柄というのもあるでしょうが、ミナジリ共和国が世界に対して一歩先んじたというのは事実です」
「冒険者ギルドやシェルフからの感謝状も良い宣伝になってるみたい」
「法王国以外に、ではありますけどね」
注釈マシーンみたいなロレッソに、俺は思い出すように言った。
「そういえば、商人ギルドとの交渉はどう?」
「本日の午後に、私とリルハ殿で行います。ダイヤモンドや小型の【魔力タンクちゃん】の原産地として、有利な交渉が出来そうです」
「良い調子だね。明日にはまたサマリア公爵家か。んで、その数日後にはまたオリヴィエ殿……か」
「以前よりかはお身体も楽になったようですが、やはり元首ともなれば過密スケジュールに振り回されてしまいますね」
苦笑するロレッソだが、俺としては十分に休めている。
「午後は空いていらっしゃるようなので、ゆっくりお休みになられては?」
ロレッソが気遣ってくれると、俺はくすりと笑って言った。
「お忍びでガンドフにでも行って来るかなー。ガイアスに渡したいものもあるし」
先程の気遣いはどこへやら。ロレッソはすぐに目を吊り上げた。
「また、危ない事をするのではないでしょうね?」
心外な。
「事前に手を打っておくんだよ」
「ふむ……もしや、【勇者の剣】についてでしょうか?」
相手がガンドフ一の鍛治師ガイアスだし、それくらいはわかるか。
「ま、そんなところ」
「かしこまりました。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
俺のお忍び出張について何も言わなくなってきたあたり、ロレッソの信頼がわかるものの、ある意味宰相としてぶっ壊れているとも言える。
まぁ、俺には周りから俺だと気付かれないような細工が出来るしな。そこに全幅の信頼を置いてくれているのだろう。
そう思い、俺は元首執務室からガンドフのミケラルド商店へと転移したのだった。
◇◆◇ ドワーフの国 ガンドフ ◆◇◆
姿をデュークに変え、フードを被る。
商業区の外れまで行くと、小気味良い槌の音に頬も緩む。
いいな、こういう雰囲気は好きだ。
向かった先にあった【ガイアス武具店】。
中には多くの冒険者や、軍属であろうドワーフたちがいた。
当然人間、エルフもおり、クオリティの高い様々な武具に目を光らせていた。
やはり、ネームバリューというのはおそろしいものだ。
ウチにはこれと同等以上のものがあるのだが、やはり周囲の食い付きはガイアス武具店のがいいみたいだ。
「いらっしゃい」
イカツイ顔のひげもじゃドワーフがカウンター越しに言った。
ガイアスとの約束はない。しかし、会えないという訳ではない。
「ガイアス殿に会いたいのだが」
「あー、またか」
呆れた様子で言う店員。
「ウェイド王だって親父に会うには一週間前に連絡を入れるんだぜ? 会える訳ないだろ――」
「――これでもか?」
カウンターに載せたのは、以前メアリィのために造った【
ふわりと置かれた羽衣に目を奪われる店員。
心なしか、背後からもざわついた声が聞こえる。
ガイアス武具店の店頭を任される人材が、目利き出来ない訳がない。
ガイアスにアポは必要ない。
俺をガイアスに会わせないと、この店員がガイアスにどやされる。そういう状況を作り出してしまえばいいのだ。
「しょ、少々お待ちをっ!」
我ながら強引なアプローチだったと思う。
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