◆その741 伝聞
◇◆◇ 法王国 聖騎士学校 ◆◇◆
講義が始まる前。
隣同士に座る勇者エメリーと聖女アリスの机に、キッカが腰を預けている。
「アリスは貰ったの? ミケラルドさんの個人強化メニュー」
キッカが言うと、アリスは顔を引き攣らせながら答える。
「……貰いましたよ。でも、何故か私の呼称が『アリスたん』になってまして、一々腹が立ってますね……」
にひひと笑うキッカ。
「性格読まれてるじゃん。ミケラルドさんは個人的な
肩を
その奥に視線をずらし、エメリーに言う。
「エメリーはどうだったの?」
「私は貰えませんでした」
「「えっ?」」
ぎゅっと手を組んだエメリーは続けて言った。
「つまりそういう事なんだと思います」
「というと?」
アリスが聞く。
「『もう教える事はない。後は自分でなんとかしろ』ってミケラルドさんが言ってる気がして……」
「なるほど……エメリーさんも性格読まれてるって事ですね」
真剣に語っていたエメリーがその言葉にポカンとする。
キッカはそれににししと笑っていた。
講義室のはずれに立つゲラルド。
そこに並び立つのはラッツとハン。
「うげ、女連中にもあの人からの手紙届いてるのかよ」
「私にも届いた」
驚くハンに手紙を見せるラッツ。
二人がちらりと隣を見ると、いつの間にか出したのかゲラルドも手紙を見せていた。
「ゲラルドもかよ」
「事実、あの戦いは沢山の学びがあった。東は剣神イヅナ、剣鬼オベイル、神風アーダイン、白き魔女リルハ、法王陛下、前時代の桀人たちが揃いも揃ってなす術がなかった。魔人は遠目にリプトゥアでも見たが、あれ程の開きがあるとは思わなかった。現代の若者がいかに成長株だとしても、あのレベルにまで上がるためにはどうしても時間が必要……」
ゲラルドの言葉に頷くラッツ。
「各国の動きも気になるところだ。魔界に近いガンドフは、勇者の覚醒を何よりも急ぎたいが、ホーリーキャッスルの動きが慌ただしく、動けないでいると聞く。場合によっては、ガンドフは法王国と決別するかとしれない」
「おいおい、マジかよ……」
ハンの言葉を聞き、ラッツはゲラルドを見た。
ゲラルドは何かを許可するように一つ頷く。
「以前、リプトゥア国が勇者エメリーを国内軟禁していたように、現在法王国は聖女アリスを軟禁している、と言っている」
「……あ、なーる」
「ミナジリ共和国はガンドフと共に、聖女アリスの完全なる【聖加護】を施した【勇者の剣】を造りたいが、アリスにそういった連絡は届いていない。だが、今朝これを読んだ」
「そりゃ……クロード新聞か?」
頷くラッツ。
「読んでみろ」
ラッツからクロード新聞を受け取ったハンが、それを覗き込む。
◇◆◇ ◆◇◆
『早期解決に向けて』 著:クロード
ミナジリ暦二年十一月七日、ミナジリ共和国はガンドフとの【テレフォン】会談を行った。
ミナジリ共和国の宰相ロレッソは、聖女アリスの成長を鑑み、ガンドフのウェイド王に【勇者の剣】制作の提案をし、これに合意。その後、ガンドフが聖女アリスを招くため法王国に連絡をするが、聖女アリスの保護を理由にこれを拒否。
筆者は一瞬過去のリプトゥア勇者軟禁騒動が頭に
聖女アリスの保護が必要なのであれば、聖騎士団を動員出来ないのか。冒険者が護衛を出来ないのか。法王国の街道はそれ程までに危険なのか。現状ミケラルド・オード・ミナジリは法王国への入国は出来ない。従って、ガンドフの合意さえ得られれば、ガンドフの国境から聖女アリスを護衛する事に何ら
だからといって聖女アリスの個人的感情を縛る事は出来ない。アリス氏とて束縛される事を嫌い、単独でガンドフに赴く事は出来る。しかし、それでは確かに危険だ。魔人なる強敵が目の前に現れればアリス氏は攫われてしまうだろう。
ならば、ミケラルド商店の転移魔法はどうなのか。当然、店主ミケラルドはこれを貸す用意があると言う。
法王国の
一方で、元首ミケラルドの不名誉についても言及したい。
確かに、ミケラルド氏は法王陛下であるクルス・ライズ・バーリントン様に危害を加えた。しかし、これはミケラルド氏の意図しない事であり、あの時のミケラルド氏には何らかの洗脳、拘束、寄生を受けていた可能性が高い。そもそも、法王陛下を狙うのであれば、こんな回りくどい事をする必要があるのか。否、これまでのミケラルド氏の功績を考えれば、法王国に恩を売った方が得である。法王陛下を攻撃する理由はない。
ミケラルド氏の異変はミナジリ共和国のマイナスではある。しかし、それ以上の利を祖国にもたらしている事は確かである。今後もミケラルド氏からの情報を頼りに原因を究明したいところだ。
では、法王陛下を狙う事で利を得るのは誰か。
それは謎であるが、最近起こった出来事で筆者が気になる事がある。
ミケラルド氏から攻撃を受け、法王陛下が担ぎ込まれたのはホーリーキャッスルだった。このホーリーキャッスルの病院施設で法王陛下に対し回復が施されたとの声明があるものの、ミケラルド氏の言によれば法王陛下の傷は深いものではなかったとの事。
しかし、回復までに多くの時間を要したのは何故か。前聖女としても名高いアイビス皇后陛下が動けなかったのか。否、皇后陛下のお優しさは聖女時代と何ら変わりない。ましてや法王陛下への治療である。動かないはずがないのだ。
これは一体どういう事なのか。引き続き調べていきたい。
余談だが、この直後、聖騎士団や騎士団の団長職の上に統括職である【将軍】が設けられたそうだが、因果関係は不明である。
◇◆◇ ◆◇◆
震える手でハンが零す。
「……エグい」
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