その733 ディックの話

「子供奴隷が私の事を調べてたって証拠はあるんですか?」

「冒険者の証言だけだ。前みたいに、冒険者にミックの事を調べるような依頼をしてた子供が多かったみたいだ。それをラスターが調べたら、人相書きに似た子供を見たってな。まぁ、これは本題じゃねぇんだけどな」


 これが本題でなかったら、一体何が本題だというのか。


「……わかりました。ネタ提供という事で、ここの払いは私がもちます」

「友人として奢ってくれ。じゃないと上から怒られちまう」


 ケタケタと笑いながらディックが言う。


「はぁ、友人の助言という事で奢りますよ。ラスターさんにも今度何かお礼をしなくちゃ」


 俺がそう言うとディックは、すぐに本題へと移った。


「実はな、リィたんとレミリアを貸して欲しいんだよ」

「……それは、直接本人に言えばいいのでは?」


 すると、何故かディックは手で顔を覆った。


「だって怖ぇじゃん……」

「そりゃ、自称一介のギルドマスターにもなりますね。だけどこの二人の共通点? あ、冒険者ランクS以上か」

「そう! そうなんだよ!」


 ずびしと俺を指差すディック君。


「冒険者ギルドの指名依頼として、普通に依頼しちゃダメなんですか?」

「リィたんもレミリアも、今やミナジリ共和国の軍属だろ? 軍部通すよりもミックを通した方が早いと思ってな」

「でも、リィたんですよ? 確か冒険者ギルドはリィたんを制御する事は出来ないから、使いたくないって話じゃありませんでしたっけ?」

「都合のいい話で申し訳ねぇんだが、アーダインのおっさんから、そろそろリィたんも使い始めたいってお達しがあってな、シェルフ、リーガル、ミナジリ辺りでランクS以上の冒険者っていったらミック以外ならあの二人しかいなくてな」

「ふーん、まぁ話を通すくらいだったら」

「一応こっちとしても筋を通して欲しいからな」

「え、何か約束してましたっけ……?」

「前、ミックに言ったろ? 振りたい仕事があるって。シェルフのリンダも、この前のダンジョン騒ぎの時に仕事を振ろうとしてたらしいしな。結局、俺の時は戦争やらなんやらで、リンダの時は龍族が押し掛けて、ミックに振れなかった仕事が結構あるんだよ」


 あ、やべ。完全に忘れてた。

 そういや、そんな約束してたけど、結局出来なかったんだよな。


「じゃあ、リーガルにはレミリアさん、シェルフにはリィたんを行くようお願いしておきます」

「そりゃ助かるぜ」

「ところで、何で俺に振らないんです?」

「予算って言葉、知ってるか?」

「存じ上げておりました」

「良かったよ、知っててくれて。まぁそういう事だ。安くあげられるならそれに越した事はねぇって事だよ。ミックに振ろうとしてたが、あの時とは状況が違うからな。それに、冒険者ギルドも別の事に金を使いたいみたいだしな」

「ひょっとして、先日の大暴走スタンピードが原因ですか?」

「そういう事だ。詳しい話はわからんが、冒険者の育成に関する事だそうだ。もしかしたらサッチに連絡がいくんじゃねぇか? ミナジリ共和国がいち早くそれに手をつけたしな」


 そんな話を聞いた後、俺はディックに礼を言い、店の外に出るのだった。

【テレパシー】で、リィたんとレミリアに連絡を入れ、暗部のラジーンにリプトゥアでの奴隷捜査を指示した。

 この二日で色々な事をしたが、まだまだやる事は多い。

 だが、この二日に提出した資料を抱え、たった二日で溜まった……いや、溜まってしまったストレスを俺に向けた男がいた。


「ミケラルド様っ!」


 元首執務室に戻ると、そこにはアホ毛が飛び出たロレッソ君が立っていた。


「お、重そうだね……ロレッソ」


【サイコキネシス】で近くのテーブルをロレッソに寄せ、資料の束を置かせる。


「重そうだねではありません! 何ですかこれは!?」


 俺に向けられたのは、「トップシークレット」と書かれた書類の束。見れば、そこには【人造ダイヤモンド】の文字。


「あ、カミナから聞いたんだ。ミナジリ共和国の大きな収入源になるでしょう? バルト商会とドマーク商会には……あぁ、もうカミナが話を通してるんだ。流石、早いね」

「何故これまで、このような秘術があるとお教え下さらなかったのですか!?」


 なるほど、ストレスの矛先はそこか。


「いや、今日の今日まで忘れてて……」

「ならばこちらは!?」


 次に見せられたのは、やはりというかなんというか、【なんちゃって蒸気機関】についてだった。

 ナタリーのヤツ、情報共有が早いなー。

 まぁ、それを教えたのは俺なんだけど。


「運動エネルギーを魔力に変換するのが大変だったけど、上手くいったからナタリーに共有したんだよ。えーっと……あー、いいね。雷龍シュリとリィたんがサンドバッグ叩いただけでミナジリ城の魔力を一日賄えるんだ? 人手を他に回せていいじゃん」

「何故これまで、このような秘術があるとお教え下さらなかったのですか!?」


 どこかで聞いた事のある言葉だ。

 俺が答えようとするも、ロレッソは何も聞こうとせず、そのまま続ける。


「これがあれば、ミナジリ共和国は完全なる第三勢力として世界に君臨する事が可能だったというのに! 法王国なんか目ではありません!」

「その発言はまずいんじゃ?」

「確かに! 失言でしたっ!」


 ここまでアツいロレッソも珍しい。


「まぁ、それは今後次第って事で」

「ところでミケラルド様」

「はい、何でしょう?」

「公式にサマリア別邸へ行かれたそうですね」

「……誰から聞いたの?」

「勿論、ランドルフ殿からです。ご丁寧なお礼を頂戴致しました」


 にゃろう、ランドルフのヤツ、お礼と称してロレッソにチクりやがったな?


「何でも、サマリア漁港にて造船業を始めたいとの事ですが、これは一体どういう事ですか?」


 静かなる怒りがオーラとなって見えるようだ。


「いや……造りたいと思って……」

「何をでしょう?」

「船……?」

「随分と語尾が上がっていらっしゃるようですが? 造りたいのは、本当に船なのでしょうか?」

「えっと…………【海上都市】、かな?」

「海上……都市……」


 あぁ、やっぱり頭を抱えてしまった。

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