第四部

その728 新たなる一歩

「ほら! 足下がお留守ですよ!」

「そんなはずはありません!」


 強情なレミリアに足払いをする。

 レミリアは大地に剣を突き立て、そこへ俺の足を誘導した。

 しかし、そんなもので俺の足払いを防ぐ事など出来ない。

 剣ごとレミリアの足を刈る。


「あっ!?」


 どてんと尻もちを突くレミリアが恨めしそうに俺を見上げる。

 しかし、ただじっと俺を見ているだけで何も言わないのだ。


「文句を言わないのはレミリアさんの良いところですよ」


 言うと、彼女はへの字に口を結んでぷいとそっぽを向いた。


「ま、普通は刃に向かって蹴るやつなんていないですけど、そういう事も考慮しなくちゃいけないって事です」


 言いながら、俺はレミリアに手を差し出した。


「わ、わかっています……」


 レミリアは俺の手をとり、気恥ずかしそうにしながら立ち上がった。


大暴走アレから一週間ですか……でも、よかったんです? 聖騎士学校辞めちゃって?」

「えぇ、私は元々、あの学校に対して違和感を覚えていましたから」

「違和感ですか? 中々優秀な教育機関だと思いますし、レミリアさんも着実に成長なさっていたでしょう?」


 すると、レミリアは首を横に振って言った。


「勿論、入学直後はそう思っていました。ですが、あの大暴走スタンピードで魔人と対峙して気付きました。あの聖騎士学校では成長の限界があると」

「成長の限界ですか……」

「言葉が悪かったですね。私は聖騎士学校の二年では伸びしろに限界があると言いたかったのです」

「つまり、そとの二年のが伸びると?」


 小さく頷くレミリア。


「この時代だから、という補足が付きますけど」

「ははは、確かにそうですね。この時代でなければ聖騎士学校のが実り多いものがあるでしょう。ですが、今はその時ではない。はは……そういう判断もアリですねぇ」


 俺が苦笑すると、レミリアはまた気恥ずかしそうに頬をポリと掻いた。


「と、ところで、あれから法王国とはどうなったのですか?」

「私とロレッソ、クルス殿、アイビス殿で【テレフォン】会合が主ですよ。お二人は個人と国の感情が一致しない事を嘆いてましたねぇ」

「多くの者が知っています。あの大暴走スタンピードを止めたのはミケラルドさんだと」

「それも、ホーリーキャッスルではそうもいかないようで」

「……というと、あの噂は本当だったのですか?」

「えぇ、どうやらクルス殿のところのヤンチャボーズたちが動き始めたようです」

「確か第一王子は【ゲバン・ライズ・バーリントン】殿……でしたか」

「お二人の実子という事ですが、これが中々に曲者らしく、クルス殿も困ってらっしゃるようで」

「そ、それは……聞かなかった事にします」

「ははは、でしょうね。そういう事にしておいてください」


 笑いながら言うと、レミリアはくすりと笑い返してくれた。

 レミリアは汗を拭い、訓練場の出口へ向かった。そして姿勢を正し言ったのだ。


「お疲れ様でした、ミケラルド様、、、、、、!」

「それじゃ、ジェイル団長、、、、、、によろしくー」

「はっ!」


 ◇◆◇ ミナジリ邸 元首執務室 ◆◇◆


「様子はどう、ロレッソ?」


 椅子に座り、ロレッソの報告を受ける俺。


「シェルフからはメアリィ殿が。リーガル国からはブライアン殿とルナ殿、更にはサマリア公爵家が各国に対して動いてくれています。ミケラルド様が用意したこの【漫画】なるものも、法王国に浸透していってる様子。二ヵ月もすればミケラルド様への疑心も過去の噂になるというのが私の見解です」

「面白いでしょ、あの【クライマックスシーン】?」


 額を抱えるロレッソ君。


「まさか元首が他者によって操られていた事を【漫画】によってリークするとは」

「事実だしね」

「国民を不安にさせるリスクが大きすぎます」

「でも、ロレッソはのってくれたじゃん」

「……こういった事を、あまり私の口から申し上げるのはよくないのですが、ミナジリ共和国の臣民は、国を船、船長をミケラルド様と決め、信じております。どこに舵を切ろうとも、国民はミケラルド様に付き従うでしょう」

「……えらく手放しで褒めたね?」

「えぇ、ですから褒めるのはここまでです」


 ロレッソにジト目を向けるミケラルド君。


「他国から見ればこれ程怖いものはありませんよ。龍族すら従えるミケラルド様に【制御不能な一面がある】と証明したも同義ですから。同時に魔族にも伝わっていると見て間違いありません」

「まぁ、国交が全ておじゃんになった訳じゃないんだし、こういうのは早目に出しておけば後から叩かれるのを防げるしな」

「叩く機会を増やした、とも言えますよ」

「突っかかるねぇ、ロレッソ君?」

「私はミケラルド様を案じているだけです」

「嬉しいねぇ、ロレッソ君」

「それに、あの【竜騎士団、、、、】というのは何ですか?」

「唐突だねぇ、ロレッソ君」

「ふざけてる場合じゃありませんよ、ミケラルド様……!」


 肉薄するロレッソがとても怖いので、俺は話を合わせる事にした。


「ジェイル団長、レミリア副団長を筆頭としたミナジリ共和国の正規軍……かな? ホントはトカゲ騎士団にしたかったんだけど、ジェイルさんがゴネてね。まぁその、法王国の聖騎士団の……パクリかな?」

「武具の配備もまだ始まってないそうではありませんかっ!」

「そんな急に何かある訳でもないし、現状は今の手持ちでやるけど、エメラさんとカミナで草案をまとめてるところだよ」

「拝見しました! 全武具がオリハルコンと伺ってますが!?」

「皆でダンジョン潜ってオリハルコンの欠片とか集めてもらってるから足りるって」

「職人はどうするおつもりですかっ!?」

「ここに」


 俺は自分を指差すと、ロレッソは今にも泣きそうな顔を両手で覆った。

 凄いな、悲劇のヒロインみたいだ。

 そんな、俺とロレッソとの話は、更に長く深く続くのだった。

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