◆その720 大暴走9

 法王国西。


「【大津波】」

「【スパークウェイブ】」


 全てを洗い流すリィたんの大魔法【大津波】。

 雷龍シュリは、その大津波に合わせるように雷の大波【スパークウェイブ】を放った。

 大波に呑み込まれると同時に、モンスターが焦げ、蒸発していく。

 二人が戦った場合、その相性は悪くとも、二人が共闘した場合、その相性は世界を脅かす程と言えた。


「ははは、何度見ても、、、、、凄まじいっ!」


 零れて法王国に進撃するモンスターを切り伏せながら、オルグが言う。

 だが、それも時間も問題だった。


「リィたん」

「何だ?」

「残り何発だ?」

「【魔力タンクちゃん】を使っても三発が限界だな」

「じゃあ、我も後三発だ」

「ふふふ、無理をするな。その魔法、消費魔力は【大津波】程なくとも、回数が回数だ。いくら雷龍とはいえ無理があるだろう」

「だから三発だと言っている。残りの魔力はお前を担ぐ時のためにとっておいてやる」

「なっ! 私だって逃げる時の魔力くらい残している!」


 ムキになって怒るリィたんだが、早くも大津波の射程範囲外からモンスターの波が押し寄せる。


「まったく、引き波にしては大きすぎじゃないか?」


 雷龍シュリが言うと、


「打ち止めになればマナポーション片手に体力勝負だな」


 リィたんがハルバードを担いで返す。


「……我の分はないのか?」


 そのハルバードを見て雷龍シュリが言う。


「何だ、欲しいのか?」

「付与されている武器があれば有用であろう」


 仏頂面をした雷龍シュリが言うと、ニヤリと笑ったリィたんが闇空間に手を突っ込む。


「ほら、私の予備だ。お前の大好きな水の付与が施されている」


 ハルバードを投げて言ったリィたん。

 雷龍シュリが受け取り、自分が帯電している紫電をそのハルバードに流す。


「なるほど、悪くない」

「これ程相性がいいとなれば、私は雷付与の武器を強請ねだった方がいいかもしれないな」

「強請る? 誰にだ?」

「それは勿論、我があるじにだ」


 リィたんにそう言われると、雷龍シュリは目を丸くし、そして大きく笑った。


「ぷっ、はっはっはっはっは! 龍族がへつらうと言うのかっ!?」

「わかってないな、雷龍シュリ

「何?」

「龍族の願いすら叶えられる者に仕えていると、まだわからないつもりか?」


 薄い笑みを浮かべるリィたんを見て、雷龍シュリが黙ってしまう。

 言葉に行き詰った雷龍シュリは、話題を逸らすようにリィたんの胸元の首飾りに視線を移して言った。


「その首飾り」

「【魔力タンクちゃん】の事か?」

「そのふざけたネーミングはどうでもいい。我との戦闘でミケラルドがしていた物とは違うようだな?」

「あれはオリハルコン製だったな。これは違う、地龍テルースの鱗を使っているからな。多分こちらの方が――」

「――違う」


 リィたんの言葉を雷龍シュリが止める。


「……何?」

「あれはオリハルコン製だが、何故かその首飾りより強い魔力を備蓄していた。これがどういう事かわかるか?」

「……ミックの首飾りアレは、ただのアーティファクトではなかった?」


 徐々に顔に驚きを見せるリィたん。


「アーティファクトには込められるだけの魔力、その強さに限度がある。いかに神の鉱石と呼ばれるオリハルコンだろうと強度に限度があるように、アーティファクトとしての力にも限度がある。しかし、あの首飾りはそんな常識を覆すだけの魔力を秘めていた。龍族の鱗という最上の素材を超える程のな……」

「っ! まさかっ!?」


 リィたんが驚き、雷龍シュリの言おうとしていた何かに気付くも、モンスターたちがその思考を止めた。


「さて、後三発だったな」

「まったく、休憩くらいさせてくれてもいいのだがな」


 呆れ、嘆くリィたんが苦笑し、極大の魔力を手に掲げる。


「【大津波】」

「【スパークウェイブ】」


 ◇◆◇ ◆◇◆


 法王国南の空では、ようやくミケラルドと暗部が火竜を狩りつくした後だった。


「ん~、火竜の固有能力【竜炎】は中々いいな。火魔法のヒートアップみたいに肉体の底上げ能力じゃん。それにあいつらも……」


 ミケラルドが見下ろす先では、【徒党の親玉】の効果と、これまでの鍛錬のおかげもあり、暗部の皆は自分でも驚くような成果を上げていた。


「勝てる! 今ならあのイヅナの爺にも勝てる気がするよっ!!」

「気がするだけだぞ、ナガレー」

「ひひひ、面白い。魔力すら底上げされるのか」

「メディックのその笑い方はいつになったら直るんだー?」

「はははは! 全盛期のようなの力が溢れてくるぞ、化け物!」

「いいからモンスターを倒せ、サブロウ」

「頭部破壊、心音停止……次!」

「もうちょっとアバウトにやってくれないとモンスターがこぼれる、、、、んだけど、カンザス?」

「なるほど、確かにこの戦力であれば南は十分かもしれませんね。ところでボスは何もしないので?」

「ホネスティ、こぼれたモンスターを全部俺がさらってるの見えないかな?」

「首、頭! あぁ!? も、申し訳ございません、ミケラルド様っ! そちらにモンスターがっ!?」

「いいのいいの。ノエルが真面目にやってるのは知ってるから」

「ハァアアアアアアッ!! 見ろ、この力を! 今、この場限りをおいて、私の力はZ区分ゼットくぶんだっ!!」

「ラジーンに『Z区分ゼットくぶんZ区分ゼットくぶんでも、幕下まくした以下』って言ったら泣いちゃうかな?」


 暗部が強力な攻撃部隊となり、南のモンスターを防ぎ、更には、ミケラルドが後方から全員への【聖加護】含む支援、回復、取りこぼしモンスターの排除を行っている。

 だが……だがそれでも――、


(……まずいな)


 ミケラルドだけが、大暴走を抑えられる限界を理解していた。

 ミナジリ共和国軍が配する北はともかく、西、東、そして南には……これ以上の波を抑えられる魔力は残っていなかったのだ。

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