◆その718 大暴走7
「ちぃ!」
ジェイルが現れた事により、イヅナの動きが更に鋭さを増した。まるでジェイルに今の自分を見せつけるかのように。
ジェイルもまたイヅナに自身の背を見せつけるように動いた。
魔人は両者の巧みな剣術に翻弄され、攻めきれずにいた。
これをポカンと見ていた剣鬼オベイルは、その雑念を追い払うように
「ちっ、幸せな野郎共だ。おら、エメリー、レミリア、それにアリス。あっちだあっち」
すぐに他のモンスターに三人を当てる指示を出したのだ。
「え、で、でも……」
エメリーが聞くも、
「でもじゃねぇんだよ。今の俺たちじゃ邪魔になるだけ。だったら他のモンスター倒して別の糧とした方がいいだろう、が!」
「え?」
言いながら、オベイルがエメリーをモンスターの大波に投げ込む。
「あぁああああああっ!?」
わたわたとしながらもモンスターを倒すエメリー。
それを見ていたレミリアは、オベイルの手から逃げようとしていた。
しかし――、
「なっ!?」
「お前はあっちなっ! おらよ!」
まるで物のようにポイと投げられた剣聖は、
「せ、聖剣! 光翼っ!」
降下と共に十数のモンスターを蹴散らした。
「へっ、やれば出来るじゃねぇか」
荒い鼻息を吐いたオベイルが、次に見たのは聖女アリス。
「ひっ!」
その目は、まるで鬼を見る少女のよう。
「あ? 俺の後ろにゃモンスターなんていねぇだろうに」
「そ、そういう訳じゃないというかその通りというか……」
「お前はここだ」
「へ? な、投げないんですか?」
「そんな酷ぇ事するヤツがいるんだな」
「は、はははは……」
「ラッツたちの援護だ。それに、あの二人もな」
未だ魔人と斬り結ぶイヅナとジェイルを指差し、オベイルが言う。
「え、でも……」
「いいんだよ。あのレベルの戦いの中、支援魔法を掛けられるヤツは、近くにアリスしかいねぇ。ま、適材適所ってやつだ」
「あの、オベイルさんはっ!?」
「言ったろ? 適材適所だってな!」
そう言うと、オベイルは身を低くし、波を飛び越えるかのような大跳躍を見せた。
飛び込んだ先は――魔の一番色濃い場所。
オベイルは凶悪なモンスターの前に立ち塞がり、後方に流れぬようその身を盾としたのだ。
「もう、ほんと無茶苦茶な人です……」
言いながら、アリスはイヅナとジェイルに視線を戻す。
二人の技術、力があってようやく魔人と対等。
だが、それは端からそう見えるだけ。
オベイルの目は勿論、アリスの目にも、その均衡が崩れつつあるのがわかったのだ。
(イヅナさんの魔力は剣神化の影響で徐々に低下し続けている。ジェイルさんの魔力もそれを補うように動いてる。傷がない訳じゃない。だから、私がそれを回復し、サポートする!)
掲げた杖。
「ヒール!」
最初に行ったのはイヅナへの回復。
「ちっ、生意気な小娘め……!」
魔人が睨むも、ジェイルがその敵意すら遮る。
「ダークヒール!」
アリスが次に行ったのは、ジェイルへの回復。
「聖女がダークヒールだと!? ふざけた事をっ!」
魔人が言うも、それを否定したのはアリスではなかった。
「わかってないな。時代は常に進んでいるのだ。お主は時代に取り残されているのではないか?」
イヅナが言い、
「あれが聖女というものだ。魔族の私にそれが理解出来て、人間のお前にそれすら理解出来ないとは、面白いものだな」
ジェイルが言った。
「嘗めるな三流剣士風情が!」
「「っ!?」」
これまでにない魔人の攻撃。その凄まじい威力に弾き飛ばされる二人。
着地し、その衝撃を堪えるも、受けた剣に残った魔力を見て、イヅナとジェイルが見合う。
「これは……!」
「聖なる魔力だと……?」
驚きを見せる二人と怒りを露わにする魔人。
「だからどうしたというのだ……」
「謎解きは後だな」
「あぁ、止めねば止まらぬ。それだけだ」
イヅナとジェイルが頷くと同時、背後からアリスの支援が届く。
「パワーアップ!」
「ほっほっほ! 良き聖女に育っている」
「ミックが育てているのだ、こうでなくては困る」
これを見た魔人がアリスを見る。
鋭い視線にビクンと恐怖を感じたアリスが、咄嗟に杖を構える。
イヅナ、ジェイルがその視線を塞ぐように動いた。
「させぬと言ってるだろう」
「物忘れが激しいのだろう」
「き、貴様ら……!」
「神剣!
「竜剣!
大回転したイヅナの猛剣と、空間すら断ち切るジェイルの剛剣。
これを同時に受け、魔人が苦悶の表情を浮かべる。
「ぐっ! カァアアアアアア!」
しかし、それは一瞬の出来事だった。
再び吹き飛ばされる二人。
「ス、スピードアップ!」
アリスの援護を受けるも、ジェイルの表情は驚きに満ちていた。魔人の異常事態に目を丸くさせるジェイル。
「馬鹿な、【覚醒】だと?」
「攻撃には聖なる魔力、吹き荒れる魔の覚醒……何ともおかしな人間だな」
ジェイル、イヅナがそう言うと、魔人はアリスを指差して言った。
「まずはお前からだ――フンッ!」
その速度、凄まじく。
イヅナ、ジェイルの剣の結界を一瞬にして潜り抜け、魔人の攻撃はアリスを狙う。
((間に合わないっ!))
イヅナとジェイルが飛び掛かるも、
「アリスさんっ!」
その時、後方の援護に徹していたメアリィが叫んだ。
声と共にアリスに向かって飛んでくるのは、ミケラルドお手製の【反射の
アリスはこれをメアリィの援護と信じた。
受け取った反射の
「魔力を!」
メアリィの言葉通り、盾に魔力を通したのだ。
魔人の攻撃の瞬間、盾で攻撃を防いだ瞬間、その魔力はバチンと弾けた。
「っ!」
アリスは吹き飛ばされたものの、身体に傷はなかった。
「はぁはぁはぁ……」
「くっ! 厄介な盾を!」
「ち、違いますっ!」
アリスは否定する。
「厄介な人が造った盾です!」
そう、断言したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます